第15話 最終話*これからの私達
それにしてもリアルな夢だった……。
ただ、とても幸せな夢だった。
夢の中で笑ったり、怒ったり泣いたり……。そんな夢を見たのは初めてかもしれない。目が覚める直前に見た夢では、二月堂から車に向かうまで私達はしっかりと手を絡め合っていた。
自分の右手を見つめる。まだ、少し和樹の温もりが残っているような気がしてしまう……。
私は、ずっと和樹のことが大好きで、和樹も私のことを好きでいて欲しいと心の底から願っていたんだと改めて思った。
和樹の優柔不断なところが好き、長身でイケメンだけど鈍感なところが好き、言葉が汚いけど優しいところが好き、面倒くさがり屋だけどお節介なところが好き……。
私はこんなにも和樹のことが好きなのになぜこの三年間、自分からそのことを伝えようとしなかったのだろう。
それは、自分に自信がないから……。
一言でいえばそうなるのだろうけど、余りにもずるい自分に今更ながら腹が立った。
傷つくのが怖いと自分の心に蓋をしているくせに、いつまで経っても私の気持ちに気づかない和樹に苛ついている自分がとても恥ずかしく思えた。
だから、今日は、いつもより少しだけ自分に素直になって、少しだけ勇気を出して、私の気持ちを和樹に伝えたい。
さっきまで私を幸せにしてくれた夢はきっとこれからの私達の歩く道なのだとなぜか確信めいたものがあった。だから、今日は最初が肝心なんだ。
六時前に起きた私は、今日着ていく服をどうしようかと、クローゼットの中から出したり引っ込めたり、着ては脱いではとかなり悩んでしまった。そして、漸く決めた服を着て、鏡を見ると正直いつもの私と同じ雰囲気の装いだった。これまでの時間は何だったんだろう?と自分に呆れながらも思う。
だけど、私は迷いなくその服装に決める。なにも極端なオシャレをしなくてもいい。和樹に私らしさを見てもらえれば……。
八時前には準備ができた。玄関でパンプスとスニーカーを出す。
夢では、和樹は車で来ていた。だから今日は、パンプスに決めよう。和樹といつも出かける時によく着ていた白のサマーセーターとピンクのスカートそして、薄いイエローのパンプスを履いてみた。
姿見でチェックしてみる。『うん。大丈夫。私は大丈夫』と呪文の様に唱えながら、ドアを開けた。
休日の地下鉄へと続く歩道はとても空いていた。
御堂筋線の江坂駅から地下鉄に乗った私は、長椅子の端に座ってスマホを見ている。すると、一通のメッセージが届いた。
『起きたか?お寝坊さん』
『もう、電車に乗ってるわ!!』
『早っ〜〜!気合い入っとんな』
『うん。私、今日すごく楽しみにしとったし。誘ってくれてありがと』
いつもと違い、素直な気持ちをテキストに変換した。
流石に、和樹も調子が狂ったのか、既読がついたのにしばらく返事がない。そして、『おう。それは、俺もやで』と返事が来た。
初めての恋に頬を染める女子高生のようにスマホを胸に押し当てる。電車の動く音もおしゃべりしているおばさん達の声も全く聞こえなくなっていた。
近鉄難波駅で、時刻表を見上げる。
ちょうど、近鉄奈良駅行きの特急があるようだ。でも、その十分後には快速急行もある。それに乗っても待ち合わせの時間には十分に早い。
でも、私は、プチ旅行を演出すべく、いつもなら絶対に乗らない特急のチケットを購入し、オレンジの車両に乗り込んだ。
「三号車の五番のAは、、、」
「えっ??」
「はっ?」
「えっ……」
「…………」
それは奇跡というしかない偶然だった。
なんと、私の席の横には、和樹が座っていたのだ。
『信じられない』という顔のまま、二人とも声が出ない。
やっぱり私達は結ばれている。今日、私達は変わるんだ。
もっと素直に……。
簡単なのにそれが出来ないから大学、社会人と合計七年間も微妙な時間を過ごしてしまった。
だからこそ、今言おう。とびきりの笑顔で。
「和樹、おはよう。大好き」
終わり
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これまでお付き合いいただきありがとうございました。
実は想定ではもっとごちゃごちゃする感じだったんですが、書いてるうちに出来る限りシンプルにしました。なので、ちょっとベタな感じになったのですが、だからこそ自分では書いていて気持ちのいい作品になりました。
最終話は、奈良散策の朝の時間に戻っています。
だけど、素直に、、、そして勇気を出した一言で、夢でみたよりもっと素敵な奈良散策が行われるのです。
是非、また私の作品に遊びに来て下さい。お待ちしています。
大学時代の淡い思い出を今、私は探しに行きます。 かずみやゆうき @kachiyu5555
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