第14話 奈良散策*東大寺二月堂

 奈良奥山ドライブウェーでの和樹のプロポーズには、結局返事をしないまま、私達は車で急な山道を下っている。


「あっ、和樹!?新幹線……」と言いかけたとき、被せるように和樹が言った。


「えっ?今日は、もう帰らへんで。お前の所に泊めさせてもらうわ」

「はっー!?」

「はーって、、お前……。ええやんか?あかんのか?」

「いやー、別にいいけど、、その、、準備とか、、色々あるやんか」

「別に、ええって。何も気にせんと。そうそう、おニューの下着がなくてもええから、、痛っ!!!」


 和樹の頭を思いっきり叩こうと思ったが、峠を下りている途中なので、力は半分以下にしたのに、本当に大げさだ。


 ふと、和樹の方を見ると、顔が赤くなっている。あー、きっと私の所に泊まるって言うのは、かなり恥ずかしかったに違いない。


『まぁ、いいか。そもそも大学時代、付き合ってないのに和樹は私の部屋に何度も泊まったことあるし。今日も別々に寝ればいいんだよね……。でも、ソファー無いし、部屋はフローリングやから背中痛いだろうな。じゃあ、ベットで一緒に寝る?』なんて、考えていたら今度は私の顔がぽっと熱を帯びる。

 本当に、まるで恋愛初心者のような二人だ。


 車は、『奈良奥山ドライブウェーのゲート』まで戻ってきた。そして、大仏池を通り過ぎた所を今度は左へ曲がる。


「和樹、ここ右なんとちゃうの?」

「おう。分かってる。ほんまはあかんのやけど、今日くらい許して貰おうと思ってな。ここをまっすぐ行くと二月堂なんやで。路駐やから余り長くは駐めておけへんけど」

「あー、二月堂か〜。懐かしいなー。ほんま、ここよく来たよね」

「そうやな。ほら、そこに車駐めるから、あとは歩きやで」


 車を脇に路駐した私達は、緩やかな坂を上り、二月堂へと向かう。

 すっかり日が暮れているが、一本だけ立つ照明が薄らと全体に光を当てている。

 写真家の入江泰吉が愛したという二月堂参道。両袖の土塀に埋め込まれた瓦や礫が時代を感じさせ、年季の入った石段が私達を魅了する。本当にこの参道はいつ来ても素晴らしい。


 私たちは、二月堂まで続く回廊をゆっくりと上っていく。すると美しい灯りをともした幾つもの灯籠が見えて来た。

 二月堂はもうすぐそこだ。


 二月堂と言えば、『お水取り』が有名だ。火を灯したたいまつを持った住職が威勢良く二月堂を駆け巡る。火の粉が飛び散る様は迫力満点だ。

 私達が最初に来た時は、まだそんなに観光客はいなかったのだが、その後、雑誌やテレビでも取り上げられたことで、このお祭りはさらにメジャーになってしまった。今では、見物出来るスペースもほんの僅かに制限され、写真撮影も三脚やフラッシュは禁止となっている。


「あー、奥山ドライブウェーからやとだいぶん降りてきたのに、ここから見る夜景もすごい綺麗やなー」

「うん、すごく綺麗。ここも何気に標高高いねんな〜」


 二人で、手すりにもたれて夜景を見ている。


 ふと触れた私の右手と和樹の左手が自然に絡まった。これが、幸せと言うのだろうか……。私は体中が温かくなっていくような気がしていた。


「もう少し居たいけど車路駐してるし、戻ろうか!?」

「うん。そうやね。行こっ」


 私たちは来た道を戻っていく。

 ただ、来た際とは違う事が一つあった。


 それは、二人の手がしっかりと結ばれていることだった。決して離さないように、強く強く……。




———————


長らくお付き合いいただきありがとうございます。

次回、最終回となります。

是非、遊びに来てくださいね!




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