#9 「屋敷」×「絨毯」×「冷酷な山田くん」=「ホラー」

「思ってたよりも怖いね、山田くん」

 そう話しかけながらお化け屋敷の中を進んでいく。この遊園地のお化け屋敷は演出がわざとらしくて怖くないと聞いていたけれど、いざお化け屋敷だと思って入ると身構えてしまうからか意外と怖く感じる。

 さっきも障子を破って手が出てくるという演出に、分かっていながら悲鳴を上げてしまった。それ以来私は辺りをきょろきょろと見回しながら進んでいるのに、山田くんは対照的に足早に真っすぐ進んでいる。追いつくのが大変だけれど、順路には目印がわりの絨毯が敷いてあるから、見失う心配はなさそう。


「ね、さっきのところ怖くなかったの?」

 山田くんの顔を見上げながら聞いてみる。半分は怖さを胡麻化すためだけれど、もう半分は山田くんの顔を見る口実だったりする。正直一緒に回れてラッキーと思っているけれど、山田くんは興味なさそうな顔で、驚かされている間も終始無言のままだ。確かに少し冷たいところがあるとは知っているけれど、まるで無反応なのは凄いと思う。個人的にはクールな感じがしていいと思うけど、それにしたってやけに喋らないなと思う。

 もっとも、お化け屋敷に入ってから終始こんな感じなので、そろそろ私も慣れてきている。だからといって私も黙り込んだりはしないけど。折角一緒に回ってるんだから少しぐらいお話ししたい。話しかけ続けてればそのうち返事する気になってくれるかもしれないので、何かギミックが動くたびに話しかけてみている。


 結構長いこと屋敷を回って、そろそろ終盤という雰囲気も出てきた。お化け屋敷は文字通り屋敷の形をしていて、今は屋内を抜けて庭部分に出てきたところだ。この庭を通り抜ければゴールになっていた筈なので、たぶんここらへんでまた驚かされるんじゃないかと思う。そんなことを思いながら山田くんを追いかけていると、案の定それっぽいものが見つかった。

「ね、見て。すごくいかにもじゃない?」

 そう指し示した先にあったのは、胸の高さほどの小さな井戸だった。定番の怪談だな、と思いつつも、実際にこの目で見ると意外と迫力がある。順路の正面には出口が間近に見えているが、通る時に間違いなく驚かされるだろう。

「どんなのかな。定番ならお皿を数えるやつだけど」

 そう話しかけるが、やっぱり山田くんはいつまで経っても返事をしてくれない。足早に通り過ぎようとする山田くんを見て、流石に寂しくなって思わず足を掴む。

「ねえったら」


 突然、山田くんは走り出した。

「え、待って。ねえ!」

 そう叫ぶが、山田くんは逃げるように走って行ってしまう。やっぱり怖かったのかな、なんて暢気な考えが頭をよぎるけれど、置いていかれるのは嫌だ。すぐに急いで追いかける。横目に井戸からお化けがのっそりと現れるのを見ながら、それでも今は山田くんを追いかけなきゃ。そう思い、必死に山田くんの背中を追う。山田くんが走っていった先、ちょうど死角になっている垣根の角を曲がってその姿を探す。が。


「山田、くん?」

 そこに彼の姿はない。それどころか、目の前にあるのは壁。

 自分の来た道を振り返る。そこには確かに、順路を示す赤い絨毯が敷いてある。

 山田くんはどこに? いや、それも重要だけれど、それ以上に。

 出口は、どこ?


――――――――――――――――――――


 出口を飛び出して、ようやく安堵の溜息をつく。俺がお化け屋敷を出てきたと見るや、先に言っていた奴らがすぐに駆け寄ってきた。

「よう、ってなんか必死そうじゃん。そんなに怖かったか?」

「怖かった。っていうか、あれなんだよ」

「あれって何だ、最後の幽霊か? あんな膝ぐらいまでしかないちっちゃい井戸で驚けって言われてもな。山田お前あんなの怖がってたの?」

 そんな訳あるか。お化け屋敷そのものは全く怖くなかった。障子の手は出てくる前から影が見えてるし、井戸もこいつが言う通り小さくて地味で危うく見落とすところだった。そんなものが怖かったんじゃない。

「確認、だけどさ。ここって一人ずつ入るお化け屋敷だよな」

「おう。だから俺らで順番に入ったんだろ。で、山田が最後」


「下半身がちぎれた女って、途中から着いてきたか?」

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