清純派で通っていますが、私の趣味はエロ漫画です―普通の女子高生に擬態している私の日常―
ちりちり
清純派で通っていますが、私の趣味はエロ漫画です―普通の女子高生に擬態している私の日常―
誰だって、他人には言えない秘密のひとつやふたつは、持っていると思う。
「唯!ごめん!進路調査のプリント忘れた!」
「もー、今日が提出だって先生言ってたじゃん。取り敢えず、先生には私から伝えておくから、明日持ってきてね?」
目の前でクラスメイトが申し訳無さそうに手を合わせる。
それを見ながら、仕方ないか、と溜息をつく。
先生からは雑用としてこき使われ、生徒からの伝達係もやり、クラス委員ってそうそう楽じゃない。
ありがとうー、と抱きついてくるその子を
「でも頼りになるよな、箱崎って。わりぃ、英語の課題、ここが分かんねぇんだけど教えてくれるか?」
箱崎は私の苗字だ。
褒めてもらえるのはありがたいが、その言葉を皮切りに、周りからも授業で分からない所を聞こうとクラスメイトが集まってくる。
愛に助けを求めたけれど、苦笑いで首を左右に振るだけだ。
仕方なく、笑顔で対応する。
別に私じゃなくてもいいと思うんだけどなぁ。
「……箱崎さん、ってさ」
ふいに、クラスメイトの女子が私の顔を覗き込み、
「彼氏いる?箱崎さんと付き合えるなんて男子からするとラッキーそうだけど」
「なっ…!!」
途端に顔が真っ赤になってしまう。
彼氏って、あれだよね、あの……。
頭の中で色々なイメージが展開される。
「おい、やめろよ!箱崎の顔、真っ赤になってるだろ!」
「あ、ごめん!でも、こんなこと言ってるこいつも、この間『箱崎って今フリーかな』なんて言ってたのよー?」
「あああもう!やめろって!」
「はいはい、みんなもう落ち着いてよ。唯ちゃんは私と遊ぶのが忙しくて彼氏なんて作ってるヒマはありませーん」
男子と女子の言い合いが始まってしまったとあわあわしていたら、愛が仲裁に入ってくれた。
こういう時、何だかんだおっとりしているようで頼りになるのは、幼馴染のこの子だったりする。
言い訳内容が、愛と遊ぶのが忙しくて、というのは少し苦しい気もするが。
取り敢えずは、ごめんね、と申し訳無さそうに謝ってくるクラスメイト達に、気にしないで、と答えた。
「それにしても、彼氏、って言葉だけで顔を赤くするなんてピュアすぎるわよ。もっとそういう話に耐性つけないと変な男に騙されるわよ!」
おそらく私のことを考えて言ってくれてるんだろう。
ずいっ、と私の目の前にクラスメイトの顔が迫る。
ああ、そうか。
――私がその手の話に耐性が無いから、顔を赤くしたと思われているのか。それは、ちょうどいい。
「そうだね。えへへ」
照れたように笑って、そう誤魔化した。
「――唯ちゃんも大変だよねぇ」
放課後、私の部屋で寛ぎながら愛が言う。
「まぁ、勘違いしてくれてた方が都合がいいわよ」
「んー、そっか。――でもさぁ」
だらだらと足を投げ出したまま、身体を捻り、愛が私の本棚へと手を伸ばす。手前に置かれた本を取り出し、更にその奥から、とある本を抜き出した。
「みんなきっと夢にも思わないよね。ピュアで清楚な箱崎唯が、――実は18禁のエロ漫画が大好きで集めまくっている、だなんて」
その手には、表紙が殆ど肌色で埋め尽くされている漫画本が握られていた。
「うわーっ!もう、よしなって!愛はこういうの読まないんでしょ!」
「まぁ、興味はなくはないけど、私はいいかな」
そう言って素直に差し出された漫画を、ひったくるように奪い取る。
そう、今の会話からもお察しの通り、私はエロ漫画が大好きだ。
思春期に入った中学の頃からドハマりして集め始め、現在、部屋の本棚の奥には、100冊近くのエロ漫画が保管されている。
因みに、勿論、電子書籍でも持っている。
「それにしてもさ、さっき顔赤くしてたのって、何か変な想像してたからでしょ」
流石は幼馴染。痛いところを突いてくる。
「……だってさ、仕方ないじゃん」
「何が?」
だって。
「だってさ、彼氏彼女だよ?第二次成長期を迎えて身体が子どもから大人へと変化していくなか、自身の中で分泌されるホルモンの影響でどうしても抗えない性衝動、そんな時期に男女が付き合うとどうなるか!」
「……」
「親の目を盗んでそりゃもう、ぐちょぐちょのヌルヌルの〇×くぇrちゅいおp……」
途中から愛がにっこりと笑顔のまま、じりじりと私から距離をとっていく。
はっと気づいた時には、離れたところから慈愛に満ちた顔で私を見守る幼馴染がいた。
「なるほどね。彼氏、のキーワードだけでそこまで想像が飛んじゃって、自分の妄想で顔を赤くしてたのね。皆の予想の斜め上をいく答えだろうなぁ。唯ちゃん、相変わらず色々
「……仕方ないじゃない。どうしても好きなんだもの。妄想が止まらないのよ」
学校で清純派で通している箱崎唯が、実はエロ漫画が大好きです――だなんて、今更言えるわけない。
その為に、愛だって私が墓穴を掘らないようにいつも傍にいてくれて、私の
「愛…、私が変なこと言いそうになったら、頼むから助けてね」
「大丈夫だって。唯ちゃんのことは私がずっとずっと、一番傍で見ててあげる。唯ちゃんは大好きな私の幼馴染だもん」
そう言いながら、愛は私の頬にかかった髪をすくい上げ、優しく耳にかけてくれる。
その自然な仕草と笑顔に、思わずどきりとする。
たまに、愛も実はこちら側なんじゃないだろうかと思う時がある。
でもこれまで長年一緒に過ごしてきた中で、愛がこの手の漫画や雑誌を見ているなんて話は聞いたことがない。
大切な幼馴染を変な沼に引きずり込むわけにもいかないし。
「…私も、愛のこと大好きだよ」
私も笑って、そう答えた。
ヒマである。
ここ最近、ヒマである。
自宅の学習机の前で虚空を見つめ、そう呟く。
それなら勉強でもすればいいと思うかもしれないけれど、それは普段のルーティーンとしてやっている。
これでも成績は毎回、学年で10番以内には入っているのだ。
そうではなくて、心が乾いている。
最近、良質なエロ漫画に巡り会えていないのだ。
わくわくするようなドエロい作品に。
どきっとするようなおっぱいが見たい。目を奪われるような尻が見たい。
そして私の心を鷲掴みするような、ドストライクなストーリー展開のエロ漫画が、読みたい。
「はぁ、どこかにいい作品落ちていないかしら」
かくなるうえは、自分に彼氏でも作って実地で体験してみるか。
だいぶ刺激になるだろう。
「ははっ、ありえないわぁー」
だらん、と頭を後ろに逸らし、背もたれに体重を預ける。
自分が経験したいわけじゃない。
目の前にある自身のPCには、クラスの皆が見たらきっと目を疑うような検索履歴やサイトの閲覧記録が、ずらりと並んでいる。
この足りない心の刺激を、心の渇きを埋めてくれるものはないだろうか。
「ん…?待てよ…?」
生身の人間でなくとも、顔が良いアニメキャラの二次創作でそういうのも見かけたことがあるぞ。
ただ
「明日クラスの子達にも、カッコいい男キャラとかヒロインが出てくる漫画を、それとなく聞いてみるか」
その時はそう、軽く考えていた。
……それが、何故こうなったのか。
数日後、放課後というにはかなり遅い時間に、私は精神がボロボロの状態で帰路についていた。
歩く足取りは重く、気持ちも重い。
今朝がた早速クラスの子に「その手の知識に疎いので、まずは漫画やアニメから男女交際について学ぼうと思うのだけれど……」と、話しかけたまでは良かった。
その後の相手の反応が予想外だった。
「えっ!?あの清純な箱崎さんが!?」
「そ、それならすぐにそういう場をセッティングするわよ!」
「そういう場?」
「大丈夫。こういうのはアニメや漫画の架空の話なんかじゃなくて、実地で学ぶべきなんだから」
「そうそう。私達もあんまり経験ないんだけど…箱崎さんが来るなら、可愛くて有名だから他校の男子はすぐ掴まえられるわね。私、友達にすぐ連絡するわ」
「えっ…、ちょ、ちょっと」
「大丈夫!変な男からは私達が守るから!」
あれよあれよという間に、クラスの女子数人に連れられて、放課後、カラオケ店へ。
そのまま他校の男子生徒達と、遊ぶことになった。
所謂、合コンである。
「こんなハズじゃなかったのに…」
結果、気疲れして疲労困憊になりながらの帰り道が今である。
因みに何の収穫も無かった。
あったことと言えば、私はやっぱり彼氏が欲しいわけではない、ということだ。
もういいや。帰ったらこれまでのエロ漫画をまた読み返そう。
そう思ってようやく家が見えてきた頃。
見知った顔が家の門の前に立っていた。
「おかえり、唯ちゃん」
「あ、愛。ただいま。どうしたの?今日、おばさん達また遅くなるの?」
私と愛の家は隣同士だ。
愛の親は昔から仕事が忙しく、帰りが遅くなる時にはよく私の家に預けられていた。
母親同士も仲が良いし、こんな状況だから、私達もずっと仲が良かったりするのだが。
「うん、今日からお父さんは出張で、お母さんは終電で帰るから遅くなるって」
「そっか、じゃあ家でご飯食べるか泊まってくよね?」
「えっとね、それよりも…、唯ちゃん」
「ん?どうしたの?」
「……どこに行ってたの?今日」
「――へ?」
そう問いかける愛の目からは、何の感情も読み取れなかった。
箱崎唯は、可愛い。
それは私の中でちいさな頃から揺るがない、絶対的な価値観だ。
そんな唯ちゃんは、クラスの皆に隠し事をしている。
「唯ー、この雑誌の特集記事見てよ」
「んー?なになに? “今年の夏の水着はコレで決まり!” ……ああ、水着特集ね。皆どれが好きなの?」
ぴくり、と雑誌の文字を読み上げた唯ちゃんの表情が一瞬固まる。
皆はそれに気づかず、これがいい、あれが欲しい、と会話を進めている。
――多分あれは、この間読んでいた海辺が舞台のエロ漫画の内容を思い出してたんだろうなぁ。
そうした些細な表情や変化に気づいてしまうくらいには、私はずっとずっと、唯ちゃんのことを見てきていた。
それが、だ。
「あっ、えっ!?」
「どうしたの?」
今日の放課後、クラスの友人達数名とファミレスで勉強している最中、その中のひとりがスマホを見て声をあげた。
「今、
「えっ、箱崎さん!? 以外ー。明美達が無理やり連れて行ったんじゃないでしょうね」
「いいなぁ、私も行きたい」
「なんでも、箱崎さんがそういうのにちゃんと耐性をつけたい、って言ったかららしいよ」
ほら、と見せられたスマホの画面には、ぎこちなく笑う唯ちゃんと楽しそうなクラスメイト達の姿、そして――知らない他校の男子生徒達がいた。
男子達は皆、デレデレと緩んだ表情で、画面に向かってピースサインを送っている。
――ああ、吐き気がする。
「……私、ちょっと体調悪くなってきたから帰るね」
「え、愛、大丈夫?」
「何か変なものに当たっちゃったかな…?」
心配してくれる友人達に、心配しないで、と告げて手を振る。
「明日には、治ってると思うから」
そう、明日までにこの胸に湧いたどろどろとした感情を、処理しなくては。
ふーっ、ふーっと、私の部屋に愛おしい人の吐息が響く。
私の自室のベッドの上には、両手を縛られた唯ちゃんがこちらを凝視している。
「愛、ど、どうしたの?こんなことして…目が座ってるし、…ヤバいって」
「どう?その縛っている
「う、うん…痛くはないけど…」
「そう、なら良かった」
唯ちゃんの両手を縛っている紐は、痕が残らないように特別に加工されたものだ。
「本当は口を封じるものもあるんだけど…今回はやめておこうかな」
「な、なんでそんなもの女子高生の愛が持ってるのよ」
「あれ?言って無かったっけ。私の趣味はこれなの、一度使ってみたいと思ってたんだ。――唯ちゃんで」
「わ、私??なんで…」
「そんなの、好きだからに決まってるじゃない。これまでにも何度も言っていたでしょう?」
そう、ちいさな頃から何度も何度も伝えていた。
あなたのことが好きなのだと。
全く本人には伝わっていなかったようだけれど。
「大丈夫。ちょっと分からせるだけだから。唯ちゃんが誰のものなのかを」
「え、え、え?」
「あ、そうだ」
少し不安気な表情をつくり、唯ちゃんに質問する。
「こんなことしたら、唯ちゃんは私のこと、嫌いになっちゃうかな…?」
少し目を潤ませながら、絞り出すように囁く。
返事はすぐに返って来た。
「な、ならないよ!ならない!何年の付き合いだと思ってるのよ。私が今さら愛のこと嫌いにだなんて…」
「そっか、じゃあいいよねー」
「え」
「はーい、そしたら服をぬぎぬぎしましょうねー」
「それとこれとは別だぁー!」
唯ちゃんの叫び声が響くけれど、
え?こんなの許されないんじゃないかって?
大丈夫。
ほら、まだ何にもしていないのに、唯ちゃんは顔を赤くしてもう抵抗すらしていないから。
実は唯ちゃんを縛っている紐、その気になればすぐ抜け出せるようにしてあるんだよね。
ずっとずっと、ちいさな頃から彼女を見てきた私には分かる。
――彼女は今、期待している。
誰だって、他人には言えない秘密のひとつやふたつは、持っている。
その秘密を、親密な関係にある誰かと共有できたら、それって幸せなことなんじゃないかな?あなたはそう思わない?
おわり
清純派で通っていますが、私の趣味はエロ漫画です―普通の女子高生に擬態している私の日常― ちりちり @haruk34
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