第301話 姉様孝行

 11歳。

 平民の子だと、見習いの一人前、ってなる頃。ハハ、変な表現だけどね。


 多くの子たちは、意識のはっきりする頃から、おうちのお手伝いとか、見習いの見習いみたいなことをします。

 おうちのお手伝いは、親に指示されてやる、本当にお手伝い。

 前世でもやってた人はいると思う。

 お掃除したり、ご飯のお手伝いとか洗い物とか。

 この世界だと水くみとかもあるかな?これはある程度足腰が鍛えられた頃以降だけどね。

 あと、家業の手伝い。

 お店だったら、商品を運んだり、お店のお掃除に、お客様のお相手とか。

 どの世界でも、子供がニコニコと接客していたら、喜ぶ人も多いんだよね。まぁ、「ジャマだ!」と邪険にされて泣きそうになることもあるけど、それはそれ。それも経験だって、親とかは、様子見する、かな?

 農家だったら、これも物を運んだり、水まきとか草むしりとか。

 うん。

 この世界では、小さな子だって立派な戦力なんです。


 それでもね、立派な見習い(?)ってされるのは、10歳前後です。

 理由は魔法の通り道を通すのがそのくらいからで、通り道が通ってないと、魔導具が使えないってのが、大きな理由の1つです。


 他所にいって、見習採用されるのは、最低条件が魔導具が使えるってことにな場合が多いからね。

 そんなわけで、他所に働きに行く子の場合は、10歳ぐらいになって、魔導具が使えるようになってから奉公に出ることが多いんだ。

 ちなみに奉公人を雇うようなお店とかには、薄暗くても照明の魔導具は通常あるし、鍵なんかも場所によっては魔導具だったりします。金庫とか、扉と科ね。

 あとは鍛冶とかの職人さんなんかはたくさん道具使うし、もっと大店になると、冷蔵庫やエアコンが最近では人気です。(ちなみに、これらはナッタジ商会の稼ぎ頭の魔導具だったりします。)


 で、1年ぐらい経つと、そんな奉公先での仕事もそろそろ覚えて、、って扱いになるんだそうです。それまでは先輩見習いやちゃんとした従業員の補佐、という名のお勉強、かな?。


 まぁそんなわけで、見習いっていっても1年ぐらいは子供のお世話を雇い主がする感じのイメージで、本当に戦力になるのは11歳ぐらい、ってのがこの世界の認識だったりするんだ。

 何が言いたいかって言うとね、この世界は15歳で成人だけど、働き手として認められるのは大体11歳ぐらいってこと。

 前世で考えると、ほら、未成年でもバイトでも、雇われている人はちゃんとお店の人って扱いでしょ?

 お客さんだって、成人してようが未成年だろうが、ちゃんと仕事してよね、って思うよね?そういう意味では、未成年でもお店の人ってことで、一人前扱いでしょ?それがこの世界で言う11歳頃って感じ。

 言い方を変えると、社会の一員として扱われ始める年頃、って言えるんだ。



 でね、冒険者の見習いも、そのぐらいからグンと増えます。

 この世界では、身体強化の魔法ってないんだけどね、誰でも知っていることがある。それは、。だから力も増えるし身体能力も上がる。冒険者でも、他のお仕事でも、肉体的にお手伝いができるようになるってこと。

 これが、見習いが魔力の通り道を通した子だっていう2つめの理由です。

 11歳で一人前の見習い扱いの理由は、1年ぐらい経つと魔力が通る肉体の扱いも落ち着いて、魔力の通り道を通す能力や将来的な魔力量の予測だってつくようになる、からなんでって。



 で、11歳。

 うん。僕も11歳で社会的にも一人前って見なされる頃。


 とは言っても、魔法を使うって段階で、魔力の通り道が通っているのは自明なわけで、結局はなんとなく社会的に認められて、色々仕事を与えられたりはしているんだけどね。だから今更って感じが無いこともない。


 ただね。

 やっぱり11歳。

 僕の事をよく知らないどんな人にも、立派な社会の一員として扱われるのは当然なわけで・・・・


 「アレクは私のこと、嫌い?大切に思ってくれないのかしら?」

 「・・・そんなことはない・・・です。」

 「だったら、乗せてくれるわよね?お嫁に行っちゃうと、簡単には帰ってこられないんですもの。到着までお姉様をエスコートしてくれても、全然問題無いわよね?」

 「でも僕じゃ決められないです。僕はまだ未成年だし、冒険者として見習いだし。」

 「あら、もう11歳。立派に領主としても代官としても立てる年でしょ?実際、王家直轄の領地の代官として、あなたは立派に認められています。今まではともかく、11歳にもなったんだから、もっと代官として堂々と人民の前に立つべき年齢なのよ。大体、私がお願いしているのは、船に乗せて欲しい、ってことですもの。11歳にもなったあなたなら、ご自身の持ち物をどう采配するのか、ご自分で決められて当然ですわよ。」


 うん。僕は今、猛烈にポリア姉様からのお願い攻撃にあって、オロオロしています。

 11歳。

 自分で自分の持ち物を采配できる年齢。

 言ってることはわかります。

 でもね、自分の物って言ったって、ちょっとしたアクセサリーとか、武器や防具ですらないんだよ?ちょっと貸して、触らせて、って言われて、うんいいよ、って答えられる物じゃ無いと思います。


 うん。理屈はわかるんだけどねぇ・・・・



 先日、出来たばかりの、所有者のはずの僕ですらまだ乗っていない(出航の時には一応いたとしても)アレクサンダー号で、プジョー兄様を外国に送迎したんだけどね。その船のすごさをプジョー兄様がみんなに自慢しまくるもんだから、私も乗せて攻撃がすごいです。

 とはいえ、他の方は、「いつかは・・・」なんて、モードなんだけどね。


 ただねぇ。

 姉様は、ご婚約が決まって、隣国へと行かれるんだよね。

 今はまだ成人したばかりだし、あちらの情勢が不確かなんで、、という暫定的な婚約らしいけど。

 こちらからはいつ婚約破棄しても問題なし、なんていう、すっごいこっちが有利な条件になっているのは、国力の問題っていうよりも、婚約者二人の力関係、かも・・・

 姉様は、僕を取り込んで旗印にしようなんていう婚約者でザドヴァ新総統ニボード・ザウ・フォン・ザドヴァ様の(姉様いわく)軟弱思考に活を入れつつ、復興のお手伝いをしてあげる、なんていう義侠心(?)でもって婚約者の下に参るのだと言う。

 で、あちらに行く時に、アレクサンダー号で送れ、というお願いを延々にしているのが今、ってことなんだよね。



 船です。

 一応、僕一人で動かせないことはない。

 けど、でっかい船です。

 遠洋を行くように作られた、おそらくはこの世界で最高の、早くて強い船。

 僕の物とか言ったって、勝手に決められないのは当然だと思うんだ。



 ものすごく時間をかけて、今すぐ決められない、保護者(=ゴーダンとかドクとか、だね)と相談させて、ってお願いしつつ、席を立とうとすること、いったい何度だったか・・・

 保護者なら王家だってそうだ、と言われ、父様にお願いしたり・・・

 父様も「では一緒に」と言いかけて母様にダメ出しされたり・・・


 這々の体で逃げ帰った僕だけど、本音では決まってたんだ。

 うん。

 姉様孝行、してあげたいな、なんてね。

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