第300話 INVITATION

 INVITATION


 セメンターレのなんとかさんからの手紙を開けると、1行目は、題目みたいな感じで、そう書かれていたんだ。


 えっと・・・招待ってことかな?

 確か英語でそうだったよね?


 英語・・・・


 んとね、僕の記憶にある前世は多分日本人です。

 他の日本人はおそらくひいじいさんだけ。僕の知る範囲ではね。


 他の前世記憶持ちで地球人ってのは、僕が知っている人はみんな仲間になってる、のかな?カイザーとモーリス先生ね。元ドイツ人に元アメリカ人。あれ?イギリス人だったっけ?


 ひいじいさんのノートでは、カイザー以外に候補が7人。内3人が削除されていた。他にはザドヴァに1人。タクテリアに2人、セメンターレに1人。そうメモ書きにはあったんだ。


 多分だけど、ザドヴァがモーリス先生じゃないかな?

 確証はないけどね。

 ザドヴァの難破船を見つけて、乗組員のご遺体に、手術痕がある、って、ひいじいさんが大騒ぎしてたことがあったらしいです。うん、ドクとカイザーの情報。そのとき一緒だったらしいゴーダンも「そう言えば・・・」なんて言ってたから、ひいじいさんが何かを見て興奮していたのは確かです。


 そのってのが、手術痕だったんだろうね。この世界では、前世で言う手術は存在しない。生きた人間に刃を入れたり、糸で縫ったりとか、非常識云々以前に、悪魔の所業(といっても神も悪魔もない世界なんだけどね)みたいな感覚です。

 いくら医療行為として主張したって、良くて変人、普通に猟奇的な奴、悪いと魔物に身体を乗っ取られた人扱い。ちなみにタールの魔物を量産して魔法に使う、って方が、まだ正気だと思われるほどなんです。


 長年この世界で生きてきて、この常識をひいじいさんもカイザーも認識していたからね、手術痕を見て、ザドヴァが禁忌に手を染めたか、外科手術が出来るレベルの医者を前世に持つ人間がこっそりと闇でやったか、その二択だと思ったんだそう。で、二人は後者だろうって結論づけたんだって。当時はまだザドヴァに子供を拉致して実験するような研究施設はなかったから、当然の帰結、ってことらしいです。


 ま、いいや。ザドヴァの1人がモーリス先生でも、そうでなくても。

 別に、前世が地球だからって、仲間にしなくちゃいけない、なんてことはないしね。地球出身だからって、良い人もいれば悪い人もいるだろうし、合う人もいれば合わない人もいる。たまたま僕が知っている人は周りに残ってくれてる、ってだけだしね。



 ところで、セメンターレの1人。

 これは間違いなく、双子の言うカッシェ様って人だそうです。


 カッシェーティエ・ル・ランシェル・セメンターレ


 その名を聞いて、なんていうか、ドクやカイザー、ゴーダンっていう、ひいじいさんを知っている人たちが、微妙な顔をしてるんだよね。


 あ、そうそう。

 姉様のお茶会を辞したあと、とりあえず諸々保留して、ナッタジ商会に戻ったんだよね。INVITATIONのお手紙をみんな、特に地球人の記憶持ちに見せるためにね。



 INVITATION


 普通に英語だと最初は思ったんだ。

 そんなにペラペラとしゃべれるほど得意かっていうとそうでもないと思う。でも、高校レベルの英語は、・・・少なくとも中学レベルの英語は、まぁ、なんとなくわかる気がするんだよね。

 でもね、このお手紙は全く読めない。

 頭には、普通にINVITATIONて書いてるんだ。ローマ字?英字?まぁ、知ってる文字で。しかもちゃんと読める形で、です。ゴシック体って言うのかな?普通に1文字ずつ書いてあった。


 けど、あとはね、筆記体?レタリングの文字みたいなので書かれてました。

 それだけじゃなくてね、ほんと読めないんだよ。


 「フン!フランス語じゃな。」


 チラリ、と目を通したカイザーが、ちょっぴり不機嫌にそう言ったんだ。


 「フランス語?」

 「あの女狐は元フランス人じゃ。何でも欲しがる強欲女狐めが、うちのアレクにまで目をつけよったか。」

 「えっと・・・・」


 カイザーは、チッと舌打ちをしたよ。


 「へぇ、古風ですね。」

 反対にちょっと面白そうなのは、モーリス先生です。

 「古風?」

 「おとぎ話、とまではいきませんが、社交界華やかなりし頃の貴族が使うような文面で、ダー君を国にご招待してくれてますね。」

 「えっと・・・フランス語なのに、二人とも読めるんだ?」

 「まぁ、古い資料を読むには必要ですから。学生時代、歴史や政治といった社会科系を学ぶには必須でしたね。」

 「医学部なのに?」

 「受験用と趣味に、ね。」

 モーリス先生はクールジャパンが好きで片言ながら日本語もわかる。いったい何カ国語話せたんだか・・・すごいね。


 「公文書や、高尚なパーティーとかだと、フランス語が必要だったからな。発注書の一部はフランス語もそれなりにあったんじゃ。嫌いでも理解できんと仕事にならんかった。」

 とは、カイザーの談。

 カイザーはドイツで航空機とかを作る国営の工場に徴収されていたらしい。戦時体制ってやつだ。ナチスの命令?そんなやつ。

 でもその前には、腕の良い職人として、主に車の設計図を書いてたそう。実際に、工場で組み立ての指導やら、試作品の作成とか、そんな仕事をしていたんだ。

 それ以外でね、趣味で船とか飛行機とか、飛行船にバイクみたいなのも考えて、図面を書いては夢想する少年時代を送ったんだって。と言っても、こっちは空想で設計図とか、外観とかを書いてただけで、制作には至らなかったらしいけどね。


 ま、前世はいいや。


 カイザーたち、カッシェーティエって人を知るひいじいさんの冒険者仲間だった面々によると・・・・


 カッシェーティエ様は、ひいじいさんにもINVITATIONを送ってきたのだそうです。当時はモーリス先生はいなかったから、翻訳はカイザーがしたらしいんだけどね。

 で、カイザー曰く、仰々しい文書で、

 『貴公は誇り高き地球の魂を持つ御仁であらせられよう?この招待状が読めるのであらば、間違いなく我が伴侶にふさわしいお方。共にこの未開の星を導くが定め。疾く、わらわの元にはせ参じたし。』

的な事が書いてあったそうです。


 ちなみに当時ひいじいさんは結婚してたんだって。


 会ったこともないのに、妻帯者に結婚を申し込み、しかも、とっとと来い、なんて書いてるってんで、ひいじいさんの周りに人は大激怒だったらしいよ。そんな中、ひいじいさんだけは、腹を抱えて大爆笑、ひいばあちゃんは、そんな様子を困った顔で眺めていたんだって。


 で、そのときは、ガン無視して、手紙を放置したんだけどね、何度も何度も、そのあと手紙を送ってきたそうです。

 ひいじいさんとしては、こんな手紙を寄越す、地球の記憶を持ったエルフ(本人は特別なエルフだ、と、言ってたらしい。何度目かの手紙でね。)の顔を拝んでみたかったようで、目の前でひいばあちゃんとラブラブの様子を見せつけて、断ってやるんだ、って、手紙が来るたびに言ってたらしい。ちなみに手紙は孫(=僕のママ)が生まれた頃にも送ってきてたらしいです。すごい執念だねぇ。



 で、肝心の今回だけど。


 「さすがに異国の王子に上から目線ではなさそうですね。慇懃ですが、この手紙を読んでいただけたなら、お顔を見せて欲しい、と。元同郷人として親睦を深めたい、とありますね。エルフ故、時間は気にしないので、案内の二人をいかようにも使うように、ともあります。私が見るところ、婚姻の打診はなさそうですが・・・」

 「さすがにまだ11歳の子供にそれはないじゃろ。否。王族としてならありか。まぁアレクは、そういった義務は負わんから、拒否できるがのぉ。」


 ハハハハ・・・

 また結婚の話?

 全然興味ないよねぇ。

 僕は、大好きなみんなと自由に冒険するんだもん。


 だからね、正直言うと、行ったことにない国=セメンターレに行くことじたいは、イヤじゃないんだよなぁ。


 僕はそんなことを思いながら、大人たちがINVITATIONに対して喧々諤々始めたのを横目で見ていたんだ。

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