第299話  セメンターレの双子

 ローマ字ってアルファベットとも言うでしょ?厳密には違うけど。


 前世では、各国でそれぞれの言葉と文化があった。

 まぁ、今世では、地域差レベルの差しかないんで、その辺りは不思議かな?とはいえ、元々北の大陸で文明が生まれて、南の大陸の人たちって北から逃れた人たちだから、元々が同じ文化圏だった、っていうのがその原因かもしれない。

 言葉や文化が違うほど、文化圏が広くない、とも言う。


 とはいえ、地域差が無いわけじゃないし、そもそも貴族と平民じゃ使う言葉も違う。でも、互いに言ってることはわかる、って差。

 日本でも、まだ国がいっぱいあった時代、互いに方言があったとしても、話は通じるし、文字は一緒だったでしょ?

 今、僕が生きているこの世界の言葉ってそれに近いかな?って思います。


 で、何が言いたいか、ってね、ローマ字です。アルファベットです。

 当然、この世界では使われていない文字です。

 僕は、学校のお友達(?)の留学生から、使で署名されたお手紙をもらっちゃったんです。

 うーん、これって・・・そういうことだよね?


 カッシェーティエ・ル・ランシェル・セメンターレ


 筆記体だったし、実は僕の知るローマ字=英語の表記とはちょっとばかり違ったんだ。だから正直言うと、その文字がその場ですぐに読めたわけじゃない。ローマ字の筆記体だ!って思って、びっくりして双子を見た、って感じでした。


 「殿下は、エッセル様の系譜だと伺っております。カッシェーティエ様は、その署名に殿下が反応なされれば、是が非ともご同行をお願いすべし、と命じられておりました。」

 「ホンレム、話は正確に。殿下、カッシェーティエ様は、殿下に来ていただきたい、とおっしゃっておられたんです。急ぎはしないが、殿下が老いて身罷られるまでには、是非お招きして欲しい、と。ちなみに、我々はその日まで殿下にお仕えせよ、と申しつかっております。」

 ホンレムさんをやんわりと制し、タッターさんがそう言ったよ。

 え?どういうこと?


 「そうね。私が性急すぎました。カッシェーティエ様には、私たちの気持ちを第一に、殿下に仕えてもいいと思ったら、このお手紙を渡しなさい、そう申しつかってたんです。」

 「もう。ホンレムは殿下に対して失礼です。なんでそんな上から目線なの?本当に妹が失礼しました。ですが、我々が殿下のおそばでお役に立ちたい、と思う気持ちは本物です。私としては、国に戻る戻らないは別にして、是非殿下のおそばでお役に立ちたい、そう願っております。」

 「誰が妹よ。私が姉です。って、失礼しました。あの、私も国に帰らなくても良いです。殿下にお仕えさせてもらいたい、って思ってるんです。」


 ・・・


 「えっと・・・二人は僕とそんなにお話ししたこと、なかったですよね?」

 「はい。ですが、私たちには特殊な能力があるんです。カッシェーティエ様は、と、おっしゃってましたが。」

 スキル?

 ハハハハ、スキル、スキルねぇ。

 ちなみにこの世界、スキルとか聞いたことないし、レベルも職業(ゲーム的な、ね)もないんです。ステータスオープン、なんてのもね。

 多分、前世記憶持ちのカッシェーティエ様が、勝手に言い出したんだろうなぁ。ゲーム好きの元日本人、とかかなぁ?


 「私たち二人は、たとえ離れていても心で会話が出来ます。さらに私は、人が隠している悪意を読み取れます。悪意だけじゃなくて、何を考えてるか、大体わかるんです。ちなみに弟は、目の前の人が辿ってきた人生の断片を見ることが出来ます。」


 フンス、と自慢するようにホンレムさんは言う。けど、それって、単なる魔法だよね?スキル、とかじゃなくて。いや、スキルが何か知らないけど。


 心で会話、ってのは、テレパシー的なあれでしょ?魔導師ならそんなに稀じゃないと思う。それに人の心を読むってのも、その派生だしね。

 タッターさんのは、サイコメトリーってやつかな?

 実は、人や物から過去を読み解く魔法はあるにはある。

 魔法って、師から弟子へと呪文と共に受け継ぐのが普通だからね、そういうのが得意な家系とかあるんです。当然、秘伝的なやつになります。

 しかも、そういう魔法を魔導具化したのもあるって話。僕は見たことないけど。

 まぁ、ホンレムさんの話からすると、スキルってのは特化した得意魔法、って感じかな?


 にしても、どっちが姉なのか兄なのか?よくわかんないね。ま、いっか。


 実を言うと、セメンターレって、あまり知らないんだよね。

 僕が勉強不足、ってのもあるんだけど、そもそもが謎の多い国ってされてる。

 位置的には隣国です。でも、間にでっかい山脈があって、その山脈の北側がセメンターレ。

 ちなみにセメンターレって言う場合とセメマンターレって言う場合があります。なんでかは知らない。でもお国の事情がうんたらかんたら、って。

 実は別の国だ、っていう話も聞いたことがあるけど、まぁ、双子に関してはセメンターレで正解、なんだそう。

ね。謎が多いでしょ?


 謎が多いって言えば、セメンターレに一番多く接しているのはシーアネマ領だよね。ここも、人によってアッカネラ領とかアッカネロ領とか言う人もいる。

 僕の認識ではシーアネマ領の領都がアッカネロなんだけどね。公式でも多分そう。

 昔、いろいろとあった・・・・らしいです。何があったのかは知らないけどね。

 この何か、に関するかもしれないけど、我が国には、いわゆる人種は人族しかいないことになってます。最近は僕が色々やっちゃったせいで、ドワーフの方が多い村とか、あったりするけどね。

 そもそも、ドクなんて、色々混ざってるって言ってたよね。北の大陸の人は、割と色々混ざってて、人種の見本市とか言ったりするし・・・


 セメンターレは人族とエルフ族がほとんど、って聞いたことがあります。

 でも、本当は獣人さんたちもたくさんいるらしい。

 獣人さんたちの立場は低く、山脈を越えて逃げてきた、ていうか国境の山脈に隠れ住んでいた、っていう獣人さんたちは少なくない、そうです。って仲間のやまびとムーちゃんこと前世風で言えばイエティのムーバスが言ってました。

 あ、そうそう。僕に仕えたいっていうタッターさん。

 僕がドワーフや獣人さんたちと仲良くしているのをんだそう。

 違う種族の人と普通に仲良しな僕は、セメンターレでもすごいんだって。何がすごいのかはわかりません。


 なにはともあれ・・・


 急に仕えるとか言われても困っちゃうし、セメンターレ行く云々なんて、僕に決められないし、そもそもカッシェーティエ様って誰よ?て感じだし、ってことで、僕は、微妙な感じで逃げ出しちゃいました。誘ってくれたのに、姉様ごめんね。


 ただ、お手紙だけはしっかりと受け取って、従者になるなら自分が先だ、なんて騒ぎ出すクレイさんたちに適当なことを言いつつ、なんだかよくわからない卒業お茶会?は、まぁ、つまらなくはなかったかな?って思いました。


 

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