エピローグ


「――!!」

「――」


 ――ん、なんだ。光? 後、声?


 俺は目をゆっくりと開けると、そこに広がっているのは何も変わらない青い空。


「……」


 コレは一体どういう事なのだろうか。俺は、確かついさっきまでずっと見ずに浮かんでいた様な浮遊感を感じてはずだ。


 ――分からない。


「……ん」


 それなのに、今はズシリと重く感じる。


 ──なっ、なんだ?


 俺の記憶が正しければ、こんなに重みを感じるほど太ってはいなかったはずだ。それなのに、今の俺は体に力を入れているのに立ち上がる事もままならない。


 ――そう言えば、さっきから何やら声が聞こえるな。しかも、随分とおじさんの……。


「ん?」


 空を見たまま微動だにしない俺を心配したのか、ロイさんよりも随分と年を召した男性が俺の視界に入る。


「おお、目を覚ましたか。大丈夫かあんた!」

「……」


 男性は「おーい!」と誰かに声をかけたが、そもそもこの男性が誰なのか全く分からない。


 ――服装も初めて見るモノだ。しかし……。


 残念ながら、体を動かしたくて力を入れても全然動かない。


「ぁ」


 ――声は、出るな。


 自分以外には聞こえない程小さな声を出し、正常である事を確認する。


「あんた、こんなところで何をしているんだ?」

「俺は……」


 不思議そうな顔の男性に、会話を試みようとしたところで俺はふと止まった。


 ――そもそも、俺の言葉が通じるのか?


 男性の服装は俺が見ていたモノとは全然違う。


「……」

「ん? あんた、体を起こせないのか?」


 俺は何も言わなかったが、どうやら気を利かせてくれたらしく、男性は俺の体を起き上がらせる。


 ――ロアが言っていた事が本当なら、目の前に広がっているこの景色も全く別のモノに……って。


「え」


 しかし、男性に体を起こしてもらって見た景色は俺の想像とは全く違い、そこには「何もない」ただの土地が広がっている。


「……」


 俺が絶句していると、男性は腰に手を当てて不思議そうな顔で俺を見ている。


「しっかしあんた。本当にどこの人なんだ? その服装も随分と古いモノみたいだし、こんなところで寝ているし」

「え、あの」

「ん?」

「こっ、ここは。この国は一体どうなったんですか?」


 ――俺の記憶が正しければ、この国は『魔物』に襲われてあの日に滅亡したはずだ。


 しかし、その後の事は何も分からない。なぜなら、俺はロアによって眠らされていたから。


「国? ああ、随分と昔にあったらしいな。確か名前は……」


 男性は思い出そうとあごに手を当てて考え込む。


「あの!」

「ん?」


 ただ、俺にとって大事なのは「そこ」ではなく……。


「ここはずっとこのままだったのですか?」

「あー、確かその後に緑豊かで『魔物』もたくさん生息していたらしいな」

「らしい?」

「ああ。だが、その後に起きた自然災害でこの状態になった」

「え、じゃあ……」


 衝撃の事実に俺は言葉を失った。


「ああでも。その前からパッタリと『魔物』の存在は確認されていないらしいけどな」

「そっ、そうですか」


 ――良かった。


 その事に俺はホッと胸をなで下ろしたと同時に「じゃあ、一体どこに?」という疑問が過ぎった。


「ところで、あんたはこんなところで何をしたんだ?」

「え、あ。俺は……その。ちょっと足を挫いてしまって」


 俺がそう言うと、男性は「それは大変だ!」と言って「おい!」と近くにいた青年に声をかける。


 青年は「はい!」と元気の良い声と共に背中を向けてかがむ。


「え、いやいやそこまでしなくても!」


 俺はこの行動が何を意味しているのか、察して拒否をした。


「あ、動……かせる」

「お、良かったな!」


 男性はそう言って微笑んでくれ、俺も思わず笑顔になった。


「あの」

「ん?」

「もう少し、詳しい話を聞かせてもらえませんか」

「おお、いいぞ」


 俺の申し出に、男性は快く引き受けてくれた。


「と、とりあえず場所を変えるか」


 男性はそう言って馬車を指す。


「はい」


 ――ロア、今度は俺から会いに行きます。だから、待っていてください。


「ん? どうした?」

「いえ、今行きます」


 俺は笑顔で答え、男性へとついて行った。その日は、雲一つない綺麗な空だった――。

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いつかの『我が主』へ 黒い猫 @kuroineko

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