第7話


「いっ、生きて欲しい?」

「ええ」


 ロアは笑顔のままだ。


 ――この質問の意味が分からない。


「あなたはこの国の人間とは違う。自分より弱い子を見れば助けずにはいられない。弱い子が傷つけられるのが許せない」

「そっ、それは誰だって……」

「それが誰にでも出来るモノじゃないってあなたはよく分かっているはずよ?」

「……」


 そう、ロアの言う通り。俺は大人たちが自分より立場の弱い人や子供を傷つけている姿をこの目で何度も見てきた。


 ――でも。


「あなたが気にかけているのは、教会の子供たちの事?」

「……」


 いつも俺の脳裏に浮かぶのは教会の子供たちの事だ。何度も「なぜお前が」と言っている様に聞こえてならないのだ。


「それなら大丈夫よ」

「……なぜ、言い切れるんですか」

「ずっとあなたの周りにいるから」

「え」


 ロアがそう言われ、俺は思わず周りを見ると……。


「なっ、なんだ。コレ」


 俺の周りには光り輝くモノが舞っている。


「こっ、これってまさか」

「さっきも言った通り、私は『魔物』でね。人間には見えないモノが見えるの。そして、今になって彼らは在られた。もう良いよって言いたくてね」

「……」


 ロアが俺に向ける視線は優しい。


 ――この言葉を信じて、良いのだろうか。


 俺の周りを飛んでいる光は優しく温かい。それが本当に「もう良い」と言っている様に思えてしまう。


「もう……良いのか?」

「ええ、もう十分あなたは自分を責めたわ。それを彼らはずっとあなたのそばで見ていた」


 ロアに「ほら」と言われて見た視線先には、なぜか死んだはずの子供たちの姿。それを見た瞬間、俺は床に膝から崩れ落ち、その場で泣いた。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「……俺は、どうすればいいんですか」

「何もしなくて良いわよ」

「いや、でも」


 俺はロイさんからロアの護衛を引き継いでいる。それを無下にするつもりはない。


「大丈夫よ。あなたは、ここで眠ってもらうから」

「え」

「あなたにはここで少し眠ってもらうわ。その後はあなたの自由にすればいい」

「ちょっ、ちょっと待ってください」

「私はね。あなたを私に縛り付けるつもりはないの。あなたはもっと自由に生きて良いのよ」

「じっ、自由」


「ええ。そのためには全てが終わった状態の方が良い。だから眠ってもらうの」

「……また、会えますか?」

「どうかしらね。どれだけあなたが眠るのかは分からないし、でも。少なくとも私たちはあなたたち人間よりも長生きよ」


 ロアはそう言って可愛らしくウインクをする。


「そうですか……って、起きるまでどれだけかかるのか分からないんですか?」

「ええ、何せ初めて使うし」


 サラッと言われた事実に、俺は思わず絶句する。


「大丈夫。何も痛くはないし」


 ――いや、俺が心配しているのはそういう事じゃなく。


 そう言いたいが、多分ロアは分かっていない。


「それじゃあ」

「っ!」


 なんて思っている内に話はあっという間に進み、突然俺の前は強い光りに包まれ、俺は思わず目を細める。


 ――みっ、見えない。


 そうしている俺の頭に「何か」が触れた。


 しかし、触れる手は優しく、それが最初に出会った頃と同じように温かく、俺はそのままゆっくりと力を抜いていた――。

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