第2話 

「おはよう」 

ダイニングテーブルで、蒼馬は学校に行くはずなのに、ソファの所を言ったり来たりしていた。こちらの声など、聞こえていない。

「蒼馬、どうしたの?」

「えっ、あっ。なんか紺来から連絡ないんだよ」

「何それ?」

 蒼馬の紺来くんに対する心配症が発動し始めている。

「陽菜ちゃんに、襲われちゃんたのかな?」

「なんで、陽菜なの?」

「あっ、ごめん。」

 何をそんなに慌てているのだろう。蒼馬の何を心配しているのか、よく分からないときがよくある。前にも紺来くんから連絡が来ないことがあった。ただ、その時は不倫相手の家に居たらしい。それに紺来くんが昔、自殺未遂したことも原因かもしれない。蒼馬の慌てぶりはいつもに増して凄い。

「で、わたし、今日大学に用があるから、あと少ししたら出るよ。」

蒼馬は全く、聞く耳を持っていない様子だった。

「ねえ、教師が遅刻はありえないよ」

自らの出勤は気にならないのだろうか。

「あっ、うん。分かってるよ。用意するから。あと、陽菜ちゃんに連絡してくれない?」

ため息が漏れてしまう。

「分かったから、早く用意して。」

 何をそんなに紺来くんことをが気にする必要があるのだろう。スマホのLINEの画面を開いて、陽菜に『昨日は、あの後、紺来くんとはどうだった?』と打った。なぜか”昨日は、紺来くんと一緒に居たの?” ”ちゃんと1人で家に帰れた"とも書けなかった。どこか曖昧なニュアンスになってしまう。

 

「なんかあったら、連絡して」

そう言って、8時を少し過ぎて蒼馬は勤める高校に向かって行った。

 杏子も、10時くらいには出て行かないといけない。陽菜に連絡して1時間は経つが、既読すらなっていなかった。


 蒼馬から昼休みなのか連絡がきた。紺来くんから「寝てた」と連絡が来たみたいで、スマホ越しにため息を漏らして安心していた。ただ、陽菜からは何の連絡も来ていなかった。仕事が忙しいと思うと蒼馬には適当に返答した。ただの気まぐれな陽菜のことなので、何かない限り連絡は来ないのかもしれない。ただ、昼過ぎに既読にはなったので、少し安心した。


学校で少しピアノの練習をして帰る際の夕方4時過ぎ、

『来週の18日の夜って、空いてる?』と陽菜からLINEが届いていた。バイトもないので、『了解』と返答を送った。


「お帰り。陽菜ちゃんから連絡きた?」

「来たよ。18日に会うことになった」

「そうなんだ。」

何か腑に落ちない様子の蒼馬。

「どうしたの?何かあった?」

「なんか紺来も変なんだよな。」

「変?」

「なんか、隠してんな。あれは」

27歳にもなって、何を言っているのだろう。友達だから何でも話すわけないでしょうがと言いたいがグッと抑えた。

「じゃあ、ほっといてあげたら。」

「気にならないの?」

「蒼馬、女々しいよ。」

 紺来くんが何かを隠していることが気になっているようで、どこかソワソワしてる。


18日は、2人で軽く食事することになった。紺の落ち着いたコートを羽織って、軽快にテーブルに陽菜が近づいて来た。駅前にあるチェーン店のパスタ屋『scusa《スクーザ》」で杏子は先にテーブルで待っていた。

「どうも」

やっぱり、少し垢抜けている。陽菜が席に座ると杏子は

「紺来くんと会ってるの?」と単刀直入に聞いてみた。気になってしまって、あれこれ話すより早かった。

「まあ、ねえ」

「付き合う可能性はあるの?」

「あの日、告白された」

「えっ!?」

少し大きな声を出してしまい、少し恥ずかしくなってしまった。

「クリスマスも一緒に過ごすことになった」

「嬉しそうだね」

「そうだね。本当に人と付き合うの初めてだし」

 その言葉に、杏子は息を詰まった。

「河野とは何だったの?」

「そうだね…」

視線が下を向いて、俯き加減になった。話す気がないようだ。まあ終わった話でもある。

「でも、なんで急に付き合うことになったの?」

「う~ん、分かんない。でもなんか惹かれた~」

満面の笑みで頬んでいる。でも、河野の話をする時は違う。本当に恋しているようだった。

「私からも話があるんだけど。」

「ああ、結婚する話なら、碓井さんから聞いた」

「聞いたって…紺来くんのこと、苗字で呼んでだ。」

「うん」

相変わらず嬉しそうだ。

「まあ、結婚の話だっただけどさあ…」

「おめでとう。2月14日に入籍するんでしょう!?」

「ありがとう。でも、なんで2月14日って知ってんの?」

「ああ、碓井さんが『誕生日と一緒だから』って言ってよ。」

「ふ~ん」

 それから、その日の夜の一晩過ごしたらしい。付き合うことに対して、杏子が反対する理由もなかった。そんな立場でもなかったし、話を聞く限り、陽菜と紺来くんが足りない部分を補ってる関係性に見えた。それに、陽菜が幸せならそれでよかった。結婚式をするかは決まっていないことを伝えて、その日は別れた。


「お帰り」

蒼馬はソファで、不機嫌そうにこちらを見た。

「ただいま、何?」

「紺来が幸せそうにしていた」

「何それ?問題ないじゃん」

「そんなんだけどさあ…」

「寂しいいの?」

「いや~」

 蒼馬は否定しながら、スマホに目をやった。

「ねえ、紺来くんってどんな人?」

「えー、ただの友達だよ。なんでいまさら、聞くの?」

「聞いてみたくなったから。それに、朝にあんなに気にしていたのに?ただの友達ね。」

「うるさいな。まあ、なんか今日、様子変だったし。」

「今日、飲みに行ったんだ。そういえば、陽菜から、付き合ってるって聞いたけど」

「えっ。そうなんだ。」

声が小さくなった。たぶん聞いてないかったのだろう。また、杏子にすねてると言われるのを避けたかったのだろう。

「なんで、そんなに気にするのか。教えてよ。なんか男同士で気持ち悪んだけど」

「えっ、そうかな。何か紺来って、惹かれるだよな」

しみじみと言われて、何も言葉が思い浮かばない。それに、陽菜と同じことを言っている。また蒼馬も紺来くんに足りない部分を補っている存在なのかもしれない。感情を混ざり合わせて、気持ちを整理していくように。

 

 

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モノクロの世界で、愛を語る 一色 サラ @Saku89make

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