犯罪者たち

仲里恵亮

第1話

 ある裏通りの四つ角で、塀の影にふたりの男が潜んでいた。

「あの婆さんが見えるか」のっぽの方が言った。

「ああこっちに歩いてくるぜ。それがどうしたね?」ちびの方が言った。

「あの婆さん、鞄を持ってるだろ。きっと中に財布が入ってるはずだ。それを盗むんだよ」

「でも、どうやるんだい?」

「いいか、お前が婆さんにぶつかって転ばせる。その隙に俺が中から財布をかすめ盗るのさ」

「そう簡単にうまくいくかな?」

「なあに、どうせモーロク婆さんだ。気づきゃしないって」


 老婆がとぼとぼと四つ角の方に近づいてきた。

 計画した通り、ふたりははさり気なく老婆に近づいていった。

 ちびが勢いよくぶつかると、老婆は転んで鞄を落とした。


「ごめんなさい。よそ見をしてたもんで」ちびはそう言いながら、老婆が立ち上がるのに手を貸した。

「いえいいんですよ」老婆は言った。

 老婆が気を取られている間に、のっぽの方はすばやく鞄の中を探り、あっという間に財布をぬきとった。


 老婆は何も気づかない様子で、そのままその場から立ち去っていった。

 老婆が立ち去る姿を見て、ふたりはほくそ笑んだ。計画成功だ。本当にこんなにうまくいくとは思わなかった。

 だがその喜びは長続きしなかった。なぜなら、盗った財布が空っぽだったからだ。


 その時、ふたりの背後で声がした。「すみません」

 驚いたことに、振り返ると警官が立っていた。

「あなたたち、今お婆さんと話してましたよね」

「それが何か?」ちびが恐怖心を堪えながら言った。

「実はあの婆さん、ここらで有名なスリでしてね。あなたの財布は大丈夫ですか?」

 ちびが慌ててポケットを探ると、自分の財布が消えていた。

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犯罪者たち 仲里恵亮 @ryo-hatsune

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