第2話

「おい、フィール。どうして俺がお前を女子寮まで送ってやらねばならない?」


「さっき話したじゃない。構内と言えど女の一人歩きは危険なのよ」


「女子寮は遠いんだが」


「それはエスコートが必要ね。紳士の嗜みよ」



 フィールの後について歩くヒラリーはとてもエスコートしているようには見えないが。実際、構内に森があるほどこの学園は広い。

 構内には夜でも開いているカフェテリアやコンビニがあり、危なそうにも見えない。


 ――フィールちゃんの「おっぱい」発言でソロプレイ捗る予定が台無しだな!


 ――魔眼を呪う方法はないものだろうか……。



「俺は今日も研究室に泊まるんだが」


「あんなところに寝泊まりするくらいなら泊まっていく? わたしは構わないわ」


「……断る」



 ――おいおい、フィールちゃんが誘ってんぞ! ここはぐぃーっと行くのが男だろ!


 ――それは男だが魔法使いではないな。



 魔術師には男だけが持つハンディキャップがある。『三十歳まで童貞でいないと霊的器官が消失する』というものだ。

 故に魔術師は女の方が多く、この学園も例外ではない。


 それを知っていて隙を見せるフィールは実は敵なんじゃないかと思うこともある。実際フィールにはその理由もあった。

 しかし若くして教授に至ったヒラリーの周囲には女性が多い。その何割かはヒラリーを潰したい誰かの差し金だろう。それを思えばヒラリーもヒラリーのヒラリーを宥めることができるのだった。


 どのくらい歩いたのか、二人は木立に囲まれた見通しの悪い道に入った。運動不足のヒラリーにはきつい道のりだ。

 少し先にはちょうど、街灯に照らされたベンチが見える。



「虚弱な先生のためにちょっと休憩しましょうか。そこに自販機があるわ。わたしはミルクティー」


「普通送ってもらう方が……まぁいい」


「さっき食べ忘れたクッキーあげるから」



 ヒラリーがミルクティーとコーラを買ってベンチに戻ると、口にクッキーを押し込まれた。

 久しぶりの糖分が脳に染み渡る。コーラでさらに糖分ブーストを、とプルタブに指を掛けた時。



「……おい、何してる」


「クッキーのクズがポロポロ落ちてるわ……あら、まぁ」



 ヒラリーの太ももをフィールの細い指が這いまわっていた。股間がポップアップテントのようになる。

 言い訳のしようがない。この国では奇異に映るらしいが、こういう時のヒラリーは潔かった。



「実はな。研究室に寝泊まりしていると○○○○○ができない。いつ誰が入ってくるかわからないからな」


「!……先生のそういうところ、嫌いじゃないけど他の人には言わない方がいいわ……鍵を掛けなさい」


「馬鹿を言うな。日頃開放している研究室のドアに鍵が掛かっていたらどう思う。それは○○中だと宣言しているようなものだろう!?」


「先生の羞恥心がどこにあるのかわからないわ……」



 ――ギャハハッ、流石におめぇバカじゃねぇかぁ!? 先に心配すべきはティッシュの処理方法だろ! ゴミ箱が妊娠するぜぇ!


 ――トイレに流すから安心しろ……。


 バカはお前だとヒラリーは思った。フィールも太ももから手をどかしてくれないだろうか。

 ちなみにフィールもこの国の育ちではない。



「で、どうするのこれ? 歩きづらいでしょう」


「構わない。そろそろ行くか」


「待って。楽にしてあげる……これ、どうして欲しい?」



 フィールはジッパーを下ろし、露出したものを見下ろして言った。

 物騒な事件の影響か、女子寮に近いこの辺りには人っ子一人いない。

 ヒラリーはふと、これはチャンスなのではと思う。研究室では身辺が騒がしいのだ。

 それにここは屋外。いくらなんでもこんなところで童貞を失うような真似はすまい。自分もフィールもだ。


 ――外の方がプライベートを確保できるとはな……魔術とは矛盾に満ちている。


 ――飲んでもらえばティッシュの心配もいらないぜっ!



「矛盾しないなぁ……」


「黙って」



 フィールが鋭く囁いてかがみこむ。○○○に彼女の吐息がかかり、ヒラリーは震えた。

 鼓動が大きく聞こえる。

 ドクン、ドクンという響きはヒラリーか、フィールか。


 「――○○○○の快楽とはそこに至る過程だ」という言葉がある。


 ならば残りの十二年、童貞を守り抜けるだろう。

 ヒラリーはそう思った。

 早くも心の支え足り得る言葉だ。


 ところで、二人の心音は周囲の木々に反響すかの如く……いや、実際反響して周囲を視覚以上に把握していた。



「釣れたな」


「釣れたわね」


「Grrrr……」



 通りの真ん中に立つ何か・・が、唸り声をあげていた。



(練習終わり)

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【習作】魔法使いになりたいが三十歳まで耐えられそうにない 筋肉痛隊長 @muscularpain

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