ラウラの糾弾
皆が驚いた美術の時間の日の放課後……僕達はいつものように生徒会の話し合いをしていた。
「で次の議題なのですがーー」
「……」
ただ少しおかしいのはいつもは積極的に話し合いに参加するラウラが一言も声を発していない。その様子に僕は明らかにおかしいと思ったし、空気に敏感なチャスも僕に困ったような視線を送ってきた。
「ーーでは今日の議題について質問がある方いますか?」
そしてその日の会議で話さないといけない最後の議題の確認となった。このまま質問がなければ今日の会議は終わりである。
「僕は大丈夫です」
「えぇ私もよ」
「私は無いです」
「異議なしです~」
「--会長、一言いいですか?」
この会議、殆ど声を出さなかったラウラが手を挙げた。
「はい、ラウラさんどうぞ」
「ありがとうございます会長、では
ーー会長、お兄様に構い過ぎです」
「ち、ちょっとラウラ!?」
まさかの妹の発言に驚く僕。僕以外の生徒会役員もその発言に驚いている。
「会長……いえフローレンスさん、最近お兄様に明らかに構い過ぎです」
「どうしてかしら?」
「行き帰りの送り迎えに始まり、授業の休み時間毎にお兄様の教室に見に行く……他の誰が見ても明らかに“護衛”の限度を超えています。私以外の生徒会の皆さんもおかしいと思っているはずです」
「それはレイ君を守るためーー」
「--それ、本当ですか?」
姉さんが最近口癖になっている“レイ君を守るため”を言いかけたところラウラは誰もが言おうと思っても言えなかったことを口に出した。
「はい?」
「それって本当にお兄様の為ですか?
本当にお兄様の事を考えているならお兄様の意見を聞くとは思いますがフローレンスさんはお兄様の意見に聞く耳を持とうとしませんよね?」
「そ、それは……私はれ、レイ君を守るために……」
珍しく姉さんが口ごもった。
「何故そこで口ごもるのですか? 正しい事をしているならそこで口ごもりませんよね?
ーーその様子だと、自分でも正しいとは思っていないようですね」
「で、でも私はレイ君のためを思ってーー」
何かを言いかけた姉さんをラウラは強い口調で遮った。
「ーーだから“レイ君のため”って言葉使うの止めませんか?
お兄様が何かを言う度に“レイ君のため”、“レイ君を守るために”って言って優しいお兄様が何も言えない様にしてましたよね」
「だって私はレイ君のーー」
「フローレンスさんはお兄様の事を考えていないです!!
ーー貴方が思っているのは自分だけ!!
そもそも相手の為を思っているならその相手の話を聞くべきです!!」
「ラウラ!! 言い過ぎ!!」
流石に言い過ぎたと思った僕はラウラを止めようとした。
「お兄様は少し静かにしててください!!
ーーさぁどうなんですかフローレンスさん、 答えてください!!」
だが彼女はそんな僕をも強い口調で止めて、姉さんに対しての糾弾を止めなかった。
「……ぃ」
「聞こえないです!!」
「うるさいですよ!!」
姉さんの今までにないぐらい大きな声が生徒会室に響いた。
「ね、姉さん……?」
僕はその様子に驚きを隠せず、ラウラを始め他の面々も同じような表情をしていた。
「ええ、そうですよ!! ラウラさんの言う通りですよ!!
私のエゴですよ!! 文句ありますか!?」
ここまで姉さんが感情的になるのは初めて見た。
「ち、ちょっとフローレンスさん落ち着きなさいな……」
同学年のアリーヌ先輩が止めようとしたが姉さんは止まらない。
「もうあの時の様なレイ君が倒れている姿をを見たくない!!
ーーなら誰かが守らないといけないじゃないですか!!」
あの時とは僕がアクセルの魔法を直撃して吹っ飛んでいったときのことだろう。
「それはーー」
「ラウラさんはまたあの時のような光景を見たいんですか!?
レイ君が傷だらけで地面に倒れているあの光景を!!」
「お兄様のそんな姿見たい訳ないじゃないですか!!」
「もうあの光景を見たくない……なら私の目が届く距離にレイ君がいれば私が守れる!!
私がいればレイ君が怪我をしないで済みます!!」
「会長、ラウラ落ち着いて!!」
「そ、そうだぞ会長にラウラ殿、一度落ち着かないか!!」
チャスやミラが2人を止めようとするがヒートアップした2人は止まらない。
「フローレンスさんがお兄様にやっているのは“護衛”じゃなくて“監視”です!!
お兄様はペットじゃないんですよ!?」
「えぇ監視だと思われても構いませんよ!!
それでレイ君が怪我をしないなら私がいくらでも悪者になっても構いません!!
あの子が怪我をするぐらいなら私が怪我をした方がいい!!」
……それは違う。
「ーー姉さんそれは駄目だ!!」
「れ、レイ君……?」
さっきよりも大きな声を出したためか姉さんとラウラは口喧嘩を止めてこっちを見てきた。
……とりあえず一度止まってくれたみたい。
「姉さん、それは駄目だよ。そんな事したら僕悲しいし、みんな悲しいよ?」
この学園のマドンナである姉さんが怪我なんかしたら教師陣も含めて一気に悲しむだろう。
それぐらい姉さんはこの学園で愛されている人間なのだ。
「で、でも私はレイ君のお姉さんですし……か、会長ですよ?」
「そこで会長は関係ないと思うけど……それでも姉さんが傷つくのは駄目だよ。
それにさ、僕は自分の身ぐらいは自分で守れるよ、ねっ、アルにミラ」
多分僕が大丈夫だと言っても姉さんは首を縦に振らないだろうから僕以外の第三者の賛同を求めた。
この2人なら僕の身体能力の高さを一番分かってくれると思ったからである。
「あ、あぁ坊ちゃんは魔法を使ってくる相手にも普通に勝てるな。
なんせ俺に魔法を撃たせてくれないからな」
「うむレイは身体能力の高さと魔法を無効化する能力という長所があるから、会長が思っているよりもレイは強いぞ……ではなく強いです」
2人の賛同を聞いた姉さんは少し驚きながらも僕にすがるような目をしながら僕の手を握ってきた。
……多分、今までにないぐらい僕に反対されたのが驚きなのだろう。
僕の手を握っている彼女の手は震えている。
「れ、レイ君は遠慮しているんですか? そ、そうなんですよね……わ、私はお姉さんなので大丈夫ですから遠慮しないでいいんですよ?」
「遠慮なんていてないさ、それに僕もいつまでも姉さんに守られてばっかりじゃないんだ。
それにたまには僕を頼ってよ、いつも姉さんに頼ってばっかりだからさ」
今になってようやく分かった。
どうして姉さんから頼りないと思われたくないと思ったのか。
(そうか僕は姉さんと対等になりたかったんだ……頼ってばっかりの関係から姉さんから頼られる関係になりたかったんだな僕……というか今この状況で気づくのか……)
相変わらず自分の馬鹿さには呆れる。
それでも気づけただけマシと考えるとしよう。
「どうして……」
「ん?」
「どうして分かってくれないんですか……?
私はただレイ君が傷つく姿を見たくないだけなのに?」
気が付くと姉さんの目からは涙がこぼれていた。
「ね、姉さん!?」
いきなりだったのと姉さんが泣くのを見たのは久しぶりだったので驚いた。
なんせ彼女は殆ど人前で弱みを見せないようにしているからである。
「嫌……嫌ぁ……もうあんなレイ君を見たくないだけなのにぃ……!!
どうして……レイ君は分かってくれなぃんですか……?」
「姉さん分かるけど……でも……僕は……」
「レイ君は分かってない!!
絶対私の気持ちなんて分かってない!!」
「ち、ちょっと姉さん!? 落ち着いてって」
さっきよりも感情的になっている姉さんを止めようしたのだが、彼女は僕の手を握っていた手を離すと両手で僕を思いっきり押した。
……まぁ思いっきりといっても女子の姉さんの力なのでそんなに強くないのでそこまでよろけなかったが。
「嫌!! もう嫌!! 何もかも全部嫌ぁ!!」
というと姉さんは生徒会室を飛び出した。
「姉さん!!
ーーごめん、みんな僕行ってくる!!」
僕はたまらず追いかけることにした、
さっきまで姉さんと口論していたラウラが心配だが、申し訳ないが今は姉さんの方が心配だ。
ラウラのことはみんなに任せることにした。
「お、おう行ってこい坊ちゃん!!」
「お兄様、フローレンスさんをお願いします!!」
親友や妹の声を聞くと僕は会長が走っていた方に走り出すのであった。
ギャルゲーの悪役キャラに転生してしまったのだがどうすればいい? 連載版 きりんのつばさ @53kirintubasa
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