過保護な姉さん 

 姉さんにいつものように護衛されながら僕は屋敷に着いた。


「ふぅ……」


 僕は自室に入ると近くに鞄を投げてベットに身体を倒した。倒れた瞬間、ベットの柔らかさに身体が埋もれる。いつもならこの柔らかさですぐにでも眠りにつけるのだが今はそんな気分になれなかった。


「どうしたんだろ姉さん」


 アクセルとの事件以降、姉さんは明らかに変だ。僕に対してかなり過保護になってきている。


「僕そんなに頼りないかなぁ……」


 僕は魔法は1種類しか使えないけどその1種類は魔法を打ち消す効果だし、それなりに身体能力には結構自信がある。姉さんからしてみれば僕は頼りないから休み時間毎に心配になってくるのだろう。

……そこまで心配されてしまう頼りない自分が情けなくなる。


「姉さん……」


 昔から僕は自分に自信がなかったのを姉さんはよく知っていて、昔はよく助けてもらっていた。

あの頃とは違って僕も強くなったつもりである。


「明日は“僕は大丈夫”って言ってみようかな。

うん、そうだこれ以上姉さんの世話になる訳にはいかないしね」


 僕は出来るか分からない覚悟を決めたのである。



 次の日、姉さんは今日も僕の屋敷に前に来た。


「おはようございますレイ君」


「おはよう姉さん」


 そして最近の日課になりかけている挨拶をして学園まで向かうのであった。

……ちなみに今日はラウラが“用事がある”とのことで先に向かっていったので珍しく姉さんと2人きりである。


 しばらく歩くと僕は昨日決めた事を実行することにした。


「あのさ姉さん」


「何かしらレイ君?」


「最近さ毎朝僕を迎えにきているじゃんか」


「はい、そうですね」


「明日からは大丈夫だよ」


「はい?」


 姉さんはきょとんとした表情を浮かべるが僕は構わず続ける。


「だからさ明日からは僕の送り迎えは大丈夫だって」


「レイ君、貴方の今の立場分かってますか? まだアクセルの追っ手が貴方を狙っているかもしれーー」


「でもあの事件からしばらくするけど全く刺客とか来ないよ?

そもそも父さんがある程度やってくれたしさ」


 あの事件以降、学園を含めてアクセルの刺客や味方を父さんが権力を使いながら探してくれたおかげで殆ど一掃されたと聞いた。父さんの過保護にも少し引いてしまうが今回ばかりは助かった。


「それでも全部とは限らないですよね?

大丈夫ですよ、貴方はお姉さんが守ってあげますから」


 とドヤ顔で胸を叩く姉さん。その様子はとても可愛いものなのだが今回ばかりはその可愛さに負けてはいけない。


「いやいや姉さん、もう解決したようなものだし大丈夫だよ」


「もうお姉さんに遠慮しているんですか? いいんですよ、レイ君は私の幼馴染で副会長でもあり生徒会における私の右腕ですから助けるのは当たり前です」


「普通そのセリフって右腕の立場の人がそのボスみたいな人を守る際に言うセリフじゃないかな……というか僕の扱いは何なのさ……」


 それに何故か“幼馴染”という言葉が僕の胸に刺さる。


(結局僕は姉さんから見て頼りない幼馴染という扱いなのだろうか……)


 この世界に転生してきてそれなりに魔法が使えないなりに努力はしてきて体術はそれなりに習得したし、何よりもあのクソ神からもらった魔法をキャンセルする能力が僕にはあるのだ。


「それよりもレイ君は何故そこまで私に守られるのが嫌なんですか?

ーーそれとも私が嫌いなんですか……?」


と悲しそうな顔を浮かべる姉さん。


「いやいや姉さんの事は嫌いじゃないよ!? 嫌いってわけじゃないけどさ……」


 姉さんの事は嫌いどころか大好きだ。それは好きなゲームのヒロインってのもあるが、この10数年一緒に生活してきて彼女自身の人柄を見てきており、それも含めて姉さんには心から尊敬するし嫌いになるところなんて殆どない。


そんあ僕の様子を見た姉さんは満足したのか再び笑顔になり


「じゃあ別にいいですよね?

ーーはい、この話はおしまいにしましょう。さぁ行きますよレイ君」


と僕の手を引き、学園までの道のりを再び歩きだした。




「ーーはぁ……僕ってそんなに頼りないかなぁ……」


 授業中、思わずそうぼやいてしまう僕。今の時間は美術の時間であり、班を作りそれぞれどのような絵を描くか相談している中だったので僕がぼやいても先生に注意されない。


「れ、レイ? どうしたそんな思いつめた顔をして……」


「大丈夫かいレイ……? 最近そんなため息ばっかりだぜい?」


 同じ班のミラとチャスに心配される僕。

大体授業で班を組むとなると僕、アル、ミラ、チャスの4人になる。

俗に言う“学年の問題児グループ”だ。

ミラが問題児でなくても、僕の評価が上がったとしても大体この4人で自然とグループになる。


「毎授業の度に全男子生徒の憧れである会長さんが来るなんて羨ましいことなのにな~」


「いやアル……嬉しいけどさ……嬉しいんだけど……そんなに頼りないかなぁ……」


 嬉しい気持ちとは逆に姉さんには頼りないと思われているんだと考えると何というか悲しい気持ちになる。


 そんな僕の様子を見て、いつもとは違う様子だと分かったのはアルが少し慌て始めた。


「お、おい坊ちゃん……落ち込むなって……なっ?

ーーなあミラ、チャス、少し話聞いてやらないか?

ほら美術の時間だから比較的どこで絵を描いても許されそうだしな」


 とアルがチャスとミラに尋ねてみると


「まっ、絵を描くよりも我らが副会長の悩みの方が楽しそうだし賛成~」


 ノリノリのチャス。

……というか“楽しそうだし”って僕は君のおもちゃではないぞ。


「授業中だが親友が困っているならしょうがない。

私の父上にも“レイ君が困っていたら助けるんだぞ”って言われたのでな」


 いつもなら“授業中だから”で断りそうなミラも今回は応じてくれた。


「よし、そうと決まれば……

ーー先生~~!! 俺ら庭の絵描いてきます~!!」


「責任は我らがヒーローのレイ・ハーストンに取らせるので大丈夫です~」


「ちょっとチャス!? 責任を僕に擦り付けないでよ!!」


 出た、チャスの得意技“責任の擦り付け”。

僕が副会長になってからこの技の発生率が増えた気がする。

……今度今までのツケ払ってもらおうかと思う。


「さぁさぁ行こうじゃないか~ほらミラも行くよ!!」


「わ、分かった、行こう。では先生、私達は外に行ってきます」


と僕達は教室を出たのであった。




 で、僕達は庭に移動して姉さんと今日話した会話や今日までの行動を話した。

まぁ話す前にも同じ生徒会に所属しているのでいくらか姉さんの行動を見ていたので幾分か話が楽だった。


「--って感じなんだよね」


「ふぅん……」


「なるほどな……」


「何とも言えないな」


 僕の話を聞いた3人は何とも言えない表情を浮かべた。


「まさか毎日朝迎えに行っているのは初耳だったな……それに帰りもしっかり送ってとは……」


「なんか普通男子が女子を送り迎えをするのはよく聞くけど、今回は逆だねぇ~レイは愛されているんだね~羨ましいぜい」


「いや……多分愛されてはいないだろうと思うよ?

僕が頼りないから会長が過保護になっているんだと思う」


「全男子生徒が聞いたら嫉妬で坊ちゃんが死んじまいそうだが……当の本人はそういう気持ちじゃないんだよな?」


「うん……なんか僕、姉さんに守られてばっかりの存在だったから今でも変わらないのかって思うと悲しいというか寂しいというか……何とも言えないんだよ……」


「そう言えばレイと会長は生徒会の中で一番付き合いが長いと聞いたが、昔からこのような関係だったのか?」


「いや前から結構守られていた自覚はあったけどさ、最近のは少し変って思っちゃう」


「--あっ、ここにいたんですかレイ君」


「ね、姉さん!? どうしてここに!?」


 呼ばれた方を見るとそこには姉さんが笑顔で立っていた。

僕はここに行くとは一言も喋っていないのにどうしてここにいるのが分かったんだろうか。


「美術の先生に聞きました。

“レイ君のグループは庭で絵を描いている”と。

もう、行くならお姉さんに一言言ってくださいね?」


「おぅ……口止めすべきだったかね……失策だった」


「なんですかアルマンダさん?」


 と口を滑らせたチャスを姉さんは笑顔で微笑んだ。

……なお目は笑ってない様子。


「い、いえ何でもございませんとも会長……」


 いつもは会長を煽ったりするチャスが姉さんに負けているのは初めてみる。

……多分さっきの目が笑ってない笑顔が余程怖かったのだろう。


「ふふ良い子ですねアルマンダさん。

ーーそれにしてもレイ君、ダメですよこんな危ないところにいたら」


「い、いやだから姉さん、もう解決したんだし……」


 僕が反論しようとするとミラも援護射撃をしてくれた。


「そうです会長、今回の件はレイの父上と私の父の権力を使ってアクセルの一味は一斉に検挙されました。それにここは学園ですし、私達もいます。そこまで過敏になる必要があるのでしょうか?」


「確かにここはそれなりに安全です。

ですがお庭よりも教室の方が安心だと思いませんか?」


 正論をぶつけられて何も言えない僕達。確かに魔法が飛んできてどこにも避けれるような壁がない庭よりも教室の方が安全だと思うが、多分今の状況の姉さんに口で勝てる気がしない。


「た、確かに会長の言う通りです……すまないレイ」


「い、良いってミラ、気持ちだけでもありがたいからさ

ーーって姉さん、そろそろ次の授業始まるって」


 僕は校舎についている大きな時計を指さした。

僕を探すのに時間がかかっていたのがここで響いたのだろう。


「あら、もうそんな時間でしたか……ではレイ君、お昼にまた会いましょう」


と言い、その場から去っていった。


「……なぁ昼ってこの授業明けだよな?」


「う、うん……この授業終わったらだね」


今は丁度、昼前最後の授業の時間。

この授業が終わったら昼なのである。

ちなみに美術は2時間連続なので僕達は引き続き庭にいても問題ない。


「あ、あれそう言えばさっきの授業の始まる前にも来てなかった……?」


「来てたな……私もしっかり見たぞ」


「って事は本当に毎時間来てるの?」


「だからさっきそう言ったじゃんか……」


「「……」」


4人が何も言えない雰囲気になる


「と、とりあえず絵を描こうか、みんな」


「だな」


「お、おうとも~」


「う、うむ……」


そして僕達はそのまま庭の絵を描くのであった。

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