ボロボロ傘のお化け屋敷

夏伐

七不思議

 そこは地元では古くから愛されている遊園地の一画。

 俺は都市伝説好きな先輩と共にその遊園地のお化け屋敷に訪れていた。


 その遊園地はカップルや家族連れが多く、どうにも男二人の俺たちは浮いていた。しかも先輩は、楽だから、と作務衣を着ていて子供にキャストと間違われて話しかけられる始末だ。


 友達グループというには盛り上がらず淡々とアトラクションをこなしていく俺たちの姿はさぞかし浮いていた事だろう。


 今日は遊園地に流れる噂を検証するために、先輩と共にやってきた。


 今日は七つのアトラクションを訪れる予定だった。

 お化け屋敷はその記念すべき七つ目だ。


 初手はジェットコースター。一気に下る瞬間にこちらを見つめる幼女の姿が見えるという。

 もちろんそんなものはいなかった。


 次はミラーハウス。鏡張りの迷路の中、反射続ける自分の中に死に顔を晒している自分がいるという。もちろんそんなことはなかった。


 三つ目はゴーカート。百円入れると動くパンダ。暴れ馬の霊が宿っており、暴走するという。

 ボロボロで子供が忌避していたが、子供に交ってのゴーカートは恥ずかしいだけで何もなかった。


 四つ目は空中ブランコ。ブランコに交って首吊り死体が見えるという噂だったがもちろんそんなものはいなかった。

 


 五つ目は観覧車、昼の十二時にてっぺんから景色を見ると滅びる世界の景色が見えるという。もちろんそんなものはなかった。


 六つ目はコーヒーカップ。ラブラブなカップルでくるくると回っているとキューピッドが見える事があるという。もちろんそんなものはいなかった。安心した。


 七つ目がお化け屋敷だ。そこに出る『から傘お化け』では思い出の傘が出てくるらしい。意味が分からない。


 だが、他のアトラクションに比べたらずっと気が楽だ。

 先輩は終始腕を組んで難しそうな顔をしていたので、楽しそうな遊園地の雰囲気とは合っていなかった。周りの目も『なんだあの人たち』と言っていた。


 なんだあの人、ではない。なんだあの人たち、だ。


 こうして舞台の整った夕暮れに、俺たちはお化け屋敷に侵入した。怪談としても一段劣るここは古臭くて人気がない。


 並ばずにアトラクションに入れて俺としては気が楽だ。


 お化け屋敷に入って、そしてから傘お化けが出てきた。黄色くて小さなまるで小学生がもつような傘だ。


 それを見て俺は笑った。小学生の頃の思い出とでもいいたいのだろうか、子供だましだ。


 どうせ怪談をバラまいたやつが七つ目を思いつかなかったのだろう。

 そう考えるとお化け屋敷という舞台設定も稚拙だ。


 そう思っていたのだが、お化け屋敷を出た後の先輩の顔は困惑で歪んでいた。


「どしたんすか? 変な顔して」


「あの傘、持ち手に俺の名前が書いてあった」


 あんなに暗くてよくそんなものが見えたな、と呆れてしまう。

 だが、人込みで名前を呼ばれた時に何故か振り向いてしまう、そんな経験を思い出し先輩をバカにする絶好の機会を笑ってにごした。


「じゃあ七つ目だけ本当だったんすね」


 俺の言葉は明らかに後ろに(笑)がついたニュアンスを含んでおり、先輩は苛立ちを隠すこともせずに舌打ちした。


 先輩は本当に意気消沈していた。これではからかい気も失せてしまう。

 これなら普通に心霊スポットにでも行けば良かった。反省しつつ、スマホで遊園地の口コミを探す。


 ほとんどが家族で良い思い出が出来ただの、カップルの記念日によく来てるだの俺が求めてない口コミがヒットする。


 ふと検索ワードに『からかさお化け』を入れてみた。


 いくつかのページを見て、これはと思ったものを先輩に見せた。


「先輩先輩! 見てください、これ」


「は?」


「『昔なくしたはずの大切な傘が……』『前カノとよく相合傘していた傘にそっくりのお化け! その話をしたら彼女と喧嘩になりました😢』本当の本当に本物だったみたいですよ!」


「そうか……、お前は何に見えたんだ?」


「黄色い小学生が持つような傘っすよね?」


「俺が見たのはビニール傘だ」


 見る見るうちに嬉しそうな顔をする先輩と、表情筋がうまく動かなくなる俺。どうやら今回の肝試しは大正解のようだ。

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