苦くて甘くてしょっぱい

天翔

第1話

 今日はバレンタイン。俺、宇川蒼の住む新潟の天候は悪く、朝から吹雪が空を舞っている。まるで天が俺に春は来るべきじゃ無いと言わんばかりの寒さである。


 この冬、俺は付き合っていた彼女と別れた。原因はまさかの勘違いであった。後から互いにただの勘違いだってわかったのにお互いに何一つ言う事なく離れていった。元々運命はそうなるものだと決まっていたかのように。


 3年前の小学校の卒業式の日。梅の花が散り、桜の花も開花し始めた頃。俺は晴れて彼女が出来た。御伽噺に出てくるような卒業式に受けた彼女からの告白。俺は迷いひとつなく瞬時に承諾した。


 彼女と過ごす日々は沢山の初めてで埋め尽くされた。初めてのデート。初めてのキス。初めてのバレンタインチョコ。新しい体験が俺の生活を豊かにしていった。だが、そんな新しいの花も満開を迎える前に散ってしまった。


 今年の俺は寂しい。いつもならと言いたくなってしまうが、それももう言えない。あー、これが初めての失恋かー。そう思った。


 だが、俺の友人である島田は、「それは違うのでは?」と言った。


 「何故だ」と、俺が問うと彼はこう言った。


 「オーストラリアではさ、どうやら付き合う前にデートもするらしいぞ。それも幾度となく繰り返して二、三ヶ月が経って初めてお互いの気持ちを確認するらしい。だからさー、お前もちゃんと考えてみればどうだ? もう3年も付き合ってきて、訳の分からない理由で別れて未練が無いとは言わせないぞ!」


 確かに島田の言う通り、俺は間違っているだろう。だからといって俺はどうすればいいのか皆目見当もつかなかった。


「じゃあ島田ならどうするんだよ?」


「そんなの知らねーよ。俺はお前ら当事者じゃ無いんだし第一、俺のアイディアを借りればお前の為にはならないからな」


「そうだな。何とかするよ」


 と、2日前に島田に言い切ったものの、俺には自信が無かった。なぜなら、俺には今あいつとの接点が無くなってしまっていたからだ。そんなこんなで今日を迎えた。


 冷たい風が体に染み渡る今日も空は曇り空である。俺は天候を鬱陶しいと思いながら家を出た。俺の学校に着くまでの間に悩み苦しんでいた。どうすれば良いのか。そして決心した。


 「一回しか生きられないこの人生で後悔はしなくない!だから、挑戦するだけしよう!」


と、思って俺は明日の放課後にでも告白し直すことにした。


……………………………………………………………


 私、岸田琴音きしだことねは親友の浅田花音はなだかのんと相談をしていた。私の元カレとのことで。


「ねー、琴音。結局どうするの? 渡すの? それとも渡さないの?」


「うーん‥」


「蒼に悪かった所なんて無かったじゃない。大体、蒼のお姉さんを浮気相手だと勘違いしたあんたが悪かったんでしょ。だから私は琴音からバレンタインを渡してせめて仲直り、上手くいけばもう一度付き合い直せばいいんじゃないの?」


「それはそうなんだけど‥。今さら渡したって受け取ってくれるかな?」


「それは受け取ってくれるでしょ。少なからず、彼も琴音に‥。とりあえずどっちにしても、渡さないと後で琴音が後悔すると思うけど。この1ヶ月ずっと蒼のこと目で追いかけてたの私は知ってるからね!」


「わかった! 渡すよ! ここまできたら」


「うん、それでいい! じゃあ明日渡しなよ!」


「はい」


 翌日、琴音は不安と雪の嵐の中、歩いて学校に着いた。そして、ドキドキしながら蒼のいない自分の教室に入っていった。


……………………………………………………………


 それからまもなく、俺は学校に着いた。しかし、ここで予想外の事が起きた。靴箱の中に"放課後屋上に来て下さい"と書かれた手紙が入っていたのだ。俺は少し憂鬱な気分になった。


 しかし、階段を上がって自分の教室に入っても、そこにはいつもと何一つ変わらない光景が広がっていた。したがって何一つ起こる事なく、放課後を迎える事となった。


「島田、ついに放課後になっちまったよ。どうしよう。誰かわかんないから落ち着かないや」


「なんだ、まだその事で悩んでいたのか。それなら大丈夫だろ。誰であろうと気にせず、お前のやりたいようにやれよ!」


「あぁ、じゃあ行ってくるよ」


「おぅ、頑張って来いよ!」


 島田は少しの間、一人の少年の後ろ姿を眺めていた。


 俺はそれから屋上に向かった。


……………………………………………………………


 私は、あれからドキドキしながら一日を過ごし、放課後になって彼を探していると、そこには彼が屋上へと向かっている姿が見えた。私は心配になって彼を追うことにした。


……………………………………………………………


 ガチャ。と扉を開けてみると一人の少女が立っていた。俺は自分の心拍数が上がるのを感じながらも、少女に尋ねた。


「あなたが俺に手紙を書いた人ですか?」


「はい、私が書きました。」


「‥」

「‥」


「私は3組の新藤璃子です! 私は、宇川君の走る姿に一目惚れしました。好きです。私と付き合って下さい!」


 俺は深呼吸をしてから答えた。


「ごめんなさい。俺には心に決めた人がいるんです。すみません」


「やはり、そうですか。やはり。‥」


「貴方の推測通り、俺はまだあの恋を諦めていません。ですから‥」


「私の恋は叶わないのですね。わかりました。ではさようなら。私の初恋君」


 少女は顔を紅く染め、顔からしたたれ落ちる涙を気にせず、ただ走っていった。


 しかし、ここでもまたハプニングが起きる。少女がドアを開けた途端、ヒャッと声がしたのだ。そして少女は少し止まってまた走り出していった。


 風が吹き、まだ空は曇り空だった。俺は大体隠れている人が予想できた。だから、この機会を逃さない為にも俺は勇気を振り絞った。


「そこで隠れている人、出ておいでよ!」


 そろそろと出てきた。やはりあの子が。


「あのね、そのー‥。」


「言いたい事は大体察しているから、その前に俺から一つ言っても良いかな」


「うん」


「俺さ、やっぱりお前のことが好きなんだ。この1ヶ月、初めて失恋を体験して思ったよ。他の人を恋するしかないのかな? とか。だけど、出来なかった」


「うん」


「だから、振られる度に俺はお前に言うよ。貴方の事が一生好きです。俺と付き合って下さい!」


「‥。私も貴方の事が一生好きです! よろしくお願いします!」


「こちらこそよろしくお願いします!」


「ぷっ、ははははは」


「なぜ笑うんだよ、琴音」


「だって仕方ないじゃん。まるであの時みたいだったから」


「そうか、そうだな。あの時みたいだな。あの時は桜吹雪だったっけ?」


「そうだったね。‥。ねー、手繋いでいい?」


「あー、良いよ」


「あ、その前にこれ。チョコ」


「琴音、ありがとう!」


「えへへ、どういたしまして」


 俺はこれから何度別れることになったとしても、また一からやり直せば良い、そう思った。


 気づけば空一面の雲に一筋の光がさしていた。








 





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