禁断の魔法『アニマル・ヘッズ』 ~勇者様のツッコミが間に合わない世界~

的場 為夫

第1話

 邪なるものを打ち払い、魔に連なるものを打倒し、摂理を歪めしものを切り裂いて俺たちはここまでやってきた。


 魔王城。その最奥、玉座の間。


 理不尽に命を奪われた者たちの嘆きを。誠実に生きる者たちの祈りを。子や友や愛するもののために武器を手にとった者たちの勇気を。


 様々な想いを託されて、今日この時がある。


 「俺は勇者。勇者アークライト。魔王、貴様をを倒し、絶望を踏み越えて狂った世界を正す!」


 「待ちわびたぞ、小僧。悠久の時に倦んだ我を楽しませるが良い」


 「行くぞ、みんな!」


 俺たちは、間違いなく人類最強だ。


 神の加護と聖剣を与えられた俺。


 天使をその身に降ろし、死者蘇生の奇跡さえも行使する聖女アナスタシア。


 幾度倒れようと、どれだけ傷つこうと、その度に強く堅くなって立ち上がる。心優しき人類の守護者、戦士ブッフバルト。


 世界の真理を究めんと欲し、ついには天地開闢の理に手をかけた賢者カスパール。


 最高のチームだ。今こそ魔王を倒す!!






 と、思っていた時期が俺にもありました。






 まずですね、魔王が強い。超強い。おかしいぐらい強い。


 俺たちってさ、バランスの良さが売りのパーティなんだけど、メインアタッカーの俺が聖剣持ちだから、対魔王特効があるわけです。


 なので、俺以外の三人でスキを作って、そこに俺の大技でドーンとダメージを与える作戦なわけですが、効かないのよ。全然効かない。


 いや、少しはダメージ入って入るんですよ? でも最大の大技「アルティメット・スラッシュ」が直撃して、うっすら血がにじむだけってくらいなのよ。しかもその傷もすぐにふさがっちゃうし。


 イメージしてほしい。


 絶対に1ポイントしかダメージが入らないはぐれたメタルがいるとして、そいつのHPが明らかに膨大で、なおかつ自動回復付き。


 悪意を感じるよね。いや、魔王なんだから悪意の塊なんだろうけど、そういうんじゃなくてラスボスが無理ゲーってさ、おかしいよね。


 まあそれでも、こちらもれっきとした勇者ですから、諦めるわけにはいかんのです。回復アイテムをじゃぶじゃぶと消費して、連続技とかを駆使して、じわじわと削って、もしかしたら竜の逆鱗的な弱点がどこかにあるかも? なんて期待しつつ斬りつけていったんですが、特にそういった箇所もなく。


 あ、ちなみに退却はできませんでした。結界ですね。超強力なやつが張られています。


 どのくらいだろう、多分半日くらい? 地道に削っていったんです。もちろん俺たちは何度も全滅寸前になりながらですよ。必死こいてなんとか腕の一本を斬り落としたんです。


 嬉しかったなあ、魔王討伐の旅で一番嬉しかった。四天王を倒したときより嬉しかった。


 そしたら魔王が言うわけですよ。


 「そろそろ、本気を出そう」


 絶望したなぁ。一番絶望した。


 本気で”部下になるので、世界の半分もらえませんか?”と提案したくなった。半分の世界があればとりあえず人類滅亡はしなくてすむでしょ?


 無理なんですけどね、魔王ってば完全にスイッチ入っちゃったから。


 そこからはもう防戦一方ですよ。


 幸いにも、魔王の攻撃力は防御力ほど理不尽じゃなかった。想定の範囲内。いや、一つのミスで即全滅レベルですけどね。


 耐えて耐えて、勝つとか負けるとかじゃなくて、死にたくないからひたすら耐えて。


 でも無理なものは無理ということで、戦士が倒れ、賢者が倒れ、聖女も倒れ、俺も倒されて。


 走馬灯ってほんとにあるんですね。あ、おばあちゃん久しぶり。


 そうして、俺は死んだんです。





 『…勇者よ、目覚めなさい……。諦めてはなりません…。何度でも蘇り、必ずや魔王を滅ぼすのです……』





 強制復活。


 いやー、神様キツイっす。


 死んだその場で復活って……、復活させるならふつう町の教会とかじゃないですか? しかも俺一人だけ……  


 思うのですけどね、これって永遠に死に続けるやつですよね? おかしいなぁ、俺なんか悪い事しました? 品行方正な優等生でしたよね。この仕打ちはないっすよ。


 「しぶといな勇者」


 「少し待っていただきたい。魔王殿」


 「問答無用」


 「降参! 当方に継戦の意思なし! お願いだからちょっと待ってください!!」


 「………」


 言ってみるものです。待ってくれました。


 「えー、自分は確かに先程死にました。でも神様パワーにより復活させられました。これ多分、何度でも復活するやつです」


 「…それは……うざいな」


 ペンは剣よりも強し! 言葉だ! 世界は言葉でできているってどっかの偉い人が言ってたはず! 舌先三寸で九死に一生を拾うんだ!


 「ですよね! うざいですよね!! ネバーエンディングです! そこで提案です。ここは一度停戦ということではいかがでしょう? あ、分かってます。五分の条件だなんて言いません。可能な限り譲歩しますので、御一考いただけませんか?」


 「我らは不倶戴天の敵同士。殺し合うのが定めよ。…なれど、永遠に殺し続けるのは無意味に過ぎるか」


 「ですです。無意味過ぎです」


 「しかし、我は魔王。貴様は勇者。決して相容れぬ者同士……」


 「そこはこう『殺すまでもない』とかいう感じでですね、見逃してもらえれば……」


 「いや、やはり勇者は滅するのみ。神の力が無限か試してみようぞ」


 ですよねー。やっぱ見逃してもらないですよねー。


 ワンチャンあるかと思いましたが、無理筋でしたね。仕方ありません。こうなったらヤケです。





 神様から『本当の本当に絶対に使ってはいけない』と禁呪指定されたあの魔法を使うしかありません。





 「魔王殿、残念です。今これより勇者アークライトは禁忌の術を行使します。お覚悟を」


 かつて、世界の理を崩したという禁断の破壊魔法。


 「神様、無理ゲーを強制させるなんてあんまりです。あなたが悪いんですよ?」


 一度でも使ってしまえば、その世界は二度と元には戻れない、不可逆の破壊魔法。




 「名前を捨てた英雄たちよ──、 死してなお敗れざる者たちよ──。


 我が声に応え給え。力なき者の声に応え給え……!


 顕現せよ!【アニマル・ヘッズ!!!!】」




 瞬間、暖かい光がこの玉座の間を余すところなく照らした。


 やがて光は収束し、一人の人間を形どった。


 俺よりも大きく、魔王よりも大きく。彫刻のように完璧な筋肉をまとい、わずかに燐光を纏った偉丈夫が降臨した。


 ごついブーツを履き、オリーブドラブのズボンを穿き、上半身にはピチピチのタンクトップ、その手には凶悪なメリケンサックが握られていた。


 そしてなによりもその頭部。


 「なぜ馬の被り物……」






 「ホース・ヘッド推参……!」






 ふわー! すごいのでちゃった! ムッキムキのゴリマッチョがパーティグッズとして売られている馬の被り物をして、すんごい渋い声でアホな名乗りを!


 馬男の登場に、さしもの魔王も声も出ないようだ。だよね! 勇者の最終手段が馬男召喚なんて思わないよね! 俺も思わなかったよ!


 「問う。勇者と魔王の最終決戦。そこに召喚されたことに相違ないか?」


 話が早い! 


 「イ、イエスであります!」


 「理解した。これより状況を開始する」


 馬男もといホース・ヘッドが上体を前に倒す。両手は軽く開いて顔の前へ。足は揃えずに膝を曲げて重心を低く保ち、細かいステップで魔王との間合いを詰める。二人の間がある程度まで詰まったときに残像が残るほどの鋭さで魔王にタックル。


 呆けていた魔王も黒い雷撃を纏わせた膝で迎撃。


 ホース・ヘッドはその膝の更に下をくぐって軸足の足首に掴みかかる。魔王は即座に飛び退ってその手を躱した。


 「いい反応だ」


 ホース・ヘッドが起き上がり再度前傾姿勢をとる。


 「鋭いタックルだ。フリースタイルか、いや総合系か」


 「Catch as catch canだ」


 「ほう…、失われし伝説の流派……。面白い」


 え、ちょっと待って。なにが始まったの? 


 ホース・ヘッドがより細かいステップで魔王の周囲を回る。踏み込むと見せて下がり、フェイントを入れながら魔王の反応を探る。


 魔王はやや左半身に構え、後の先をとるべく間合いと立ち位置を調整する。


 焼け付くような緊張感。重くなる空気。


 「フッ!」


 鋭い呼気とともに、ホース・ヘッドが踏み込む。魔王がするりと斜め前に躱し、がら空きのテンプルにジャブを打ち付ける。


 膝を折って身体を沈めたホース・ヘッドがその拳をスカし、全身のバネを使って跳ね上がるように魔王に迫る。すかさずバックステップの魔王。追いすがるホース・ヘッド。


 捕まえようとする者は捕まえられず、打ち払おうとする者は当てることができず。


 幾度かの攻防の末に己が意を通したのはホース・ヘッドだった。ジャブを掴み取ったのだ。


 「掴まえたぞ」


 ホース・ヘッドの声に優越感が交じる。


 「掴ませたのだよ」


 魔王が拳を引き戻しただけで、ホース・ヘッドの身体が宙に舞った。その巨体が地面に打ち付けられ、追撃のストンピングが腹にめり込む。その脚を掴もうとしたホース・ヘッドだがそれは叶わず。


 「まさか、合気か」


 「ご明察だ。我を相手にサブミッションが決まると思うなよ」


 「相手にとって不足なし」


 あれー? 違うよね。ジャンルが違うよね。勇者と魔王がついさっきまでドカーンとかバゴーンとか派手な効果音で戦ってたのよ? リアル系とスーパー系で言ったら完全にスーパー系なわけですよ。


 それがなんですか。高度な技術戦みたいな。


 そもそもですねホース・ヘッドさん。その指に嵌っているメリケンサックは飾りですか?


 俺だって格闘がダメだとは言いませんよ。パーティメンバーに武闘家がいたこともありますし。でもね。もっとこう、パンチを放てば衝撃波が飛ぶとか、蹴りで真空の刃が発生するとか、そういう分かりやすい戦いをですね、俺たちはやってきたわけです。


 自分で言うのもなんですけど、人知を超えた戦いってそういう方が説得力あるでしょう?


 あー、もう。達人同士が戦って千日手みたいになっちゃてるじゃないですか。


 うかつに動けば負ける? いやまあそうなんでしょうけど!


 それとですねえ魔王さん? 魔王ですよね? 魔法に関しては世界一ですよね? 遠距離攻撃しましょうよ。その膨大な魔力で飽和攻撃しましょうよ。


 美学に反する? だまらっしゃい! 最終決戦ですよ! 最 終 決 戦!! それは美学ではありません! 心の贅肉というやつです!




 「貴公、ホース・ヘッドと言ったか」


 「いかにも、『アニマル・ヘッズ』筆頭のホース・ヘッドだ」


 「世界の半分をくれてやる。我のスパーリングパートナーとなれ」


 「戯言を」




 「はいそこまでー!!!」


 ダメです。NGです。やり直し、撮り直しです。


 「お二方。分不相応であることを承知で言います。いいですか? 世界の命運がかかっているんです。歴史に残る戦いなんです。想像してみてください。後の歴史書に”アンクルホールドで決着がついた”と記されたとしたら未来のヒトはどう思います? 『は?』ってなりますよね。直前まで大冒険活劇だったのに最後の最後は関節技で決着って、納得できますか?」


 「わが合気にアンクルホールドという技はない」


 「シャラァーーーーップ!! 揚げ足をとるな! そういうことじゃない。もっとこう全体の雰囲気を統一しろと言っているのです! もっと分かりやすく! 小さなお子さんが夢中になるような単純明快さが必要だと言っているのです!」


 「キムラロックなら派手で分かりやすいだろう?」


 「くぉら! この馬頭! それは玄人基準での分かりやすさだ! ドカンと殴って土手っ腹に穴を空けるような、ライトな層向けの分かりやすさが必要なの! 分かれよ! 知能も馬並みかよ!」


 「俺のジュニアは馬並みだが? 名付けてホース・ジュニアだ」


 「唐突に下ネタぶっこむな! 話を逸らすな! いいか、馬でも分かるように言うぞ。とにかく派手にやれ! 爆発! 重低音! 必殺技! 最後のトドメだけはテクニカルにいけ!」


 「我の逸物も魔王級だが? 名付けてサタン・ジュニアだ」


 「対抗すんな魔王! 馬頭はともかくお前はキャラを崩すな! いいか、魔王という役割を全うしろ。身も蓋もないような超強力な魔法を使え。変身はあといくつ残してる? あと2回か、よし。程よい回数だ。いいか、ふたりとも、細かいことは言わん。とにかく派手にやれ。分かったか?」


 「「まあ出来ないこともないが…」」


 「不満そうな顔をするな! 好き嫌いするな! いいか、俺は神様パワーで何度でも復活する。その気になれば何千、何万回でも蘇ってお前らを去勢するぞ? こちとら勇者だ。どれだけ失敗しても泥仕合上等よ。主人公補正なめるなよ? いいか、自慢のソレをもがれたくなければ派手にやれ! 返事は?!」


 「「サー、イエッサー!」」


 「よろしい。では、互いに離れて……、ファイッ!」


 「こうなっては是非もない。ホース・ヘッドよ、我が秘奥義をもって貴公を討つ。--我は魔王なり。魔に連なるモノよ。その生命、その魂、余すところなく我に捧げよ!【無尽の生命インフィニット・ライブス】!」


 そう! そうだよ! 初手は大技! やればできるじゃん!


 「よかろう。魔王よ、こちらも切り札をもって相手をしよう。『アニマル・ヘッズ』筆頭ホース・ヘッドが命じる。【サモン フレンズ】!!」


 んん? さもん? ふれんず??


 サモン。それは召喚。馬の被り物をしたマッチョマンが召喚するものといえば……


 「ジャガー・ヘッド参上!」


 「ライオン・ヘッド参上!」


 「ベアー・ヘッド参上!」


 「ウナギ・ヘッド参上!!」


 おぉぉぉいぃぃぃ! 被り物軍団が増えるのかよ?!


 いや、物量戦も悪くない。ある意味派手になった。でもなぁ……、百歩譲って三匹はいいよ? 戦闘系のアニマルじゃん。だが四匹目、テメーはダメだ。

 なんだよウナギって! 攻撃能力皆無だよね?! せめて、せめて”ウナギ”じゃなくて”イール”にしようよ! 統一感! けっこう大切よ?!


 「安心せよ勇者。ウナギ・ヘッドは万夫不当の武士もののふよ」


 「ほ、ほう? 弱そうに見えて実は強いとか? それならば良し! 実は強キャラ! とても良し!」


 「見よ。先陣はウナギ・ヘッド。いかに魔王が強力無比であろうと、ウナギ・ヘッドには当たらんよ。そう、当たらなければどうということはない」


 確かに! 魔王の真正面、至近距離に立ち、猛攻を躱し続けている……! って、回避してないよね。ぬるりと攻撃が滑っているだけだよね。


 「ウナギ・ヘッドは頭部からムチンというタンパク質を垂れ流している! これぞ新時代のタンク! 装備を固めて防御力で前線を張る防御型タンク、攻撃を回避しつつヘイトを稼ぐ回避型タンクに続く新機軸! ヌルヌル型タンク! それがウナギ・ヘッドだっ!」


 ダサい! ダサすぎるよ! なんだよヌルヌル型タンクって! そんな新機軸は誰も求めていないよ!


 っていうか、その被り物どうなってんのよ?! 安っぽい作りなのに変なギミック仕込むな!


 「ウナギ・ヘッドがヘイトを管理し、残りの三頭でダメージを与える。百戦不敗の方程式よ」


 雑! 方程式が雑だよ! 見ろよあれ、田舎のヤンキーが他校の生徒を袋叩きにしてるようにしか見えねえよ。


 「む! あれは三戦さんちん! 基本にして究極。守るにおいては比類なき防御の型!」


 だーかーらー。そういうウンチクはいいんだってば。


 「おいこら魔王! 派手やれっつってんだろうが! むしるぞゴラァ!!」


 「わ、分かっておるわ! 見よ! 魔の炎に焼けぬものなし! 【ダーク・フレイム】!」


 おおう、急に派手なの来るとビックリするな。でもナイスだ魔王。ウナギ以下4頭がこんがりいったぞ。いい匂いがするのはご愛嬌だ。それくらいは許す! 焼け! もっと焼け! ちょっとグロい位で良いんだ。


 「あれが週末の炎か。だが! まだ終わらんよ! 【サモン ネクスト・フレンズ】!」


 週末じゃなくて終末な。音は一緒だけどニュアンスが違うのよ。


 「ドッグ・ヘッド参上!」


 「モンキー・ヘッド参上!」


 「キジ・ヘッド参上!」


 はいはい、ラスボスを倒すには良さげな面子ですよね。キジはフェザントだろうとかツッコミませんよ?


 「格上退治のスペシャリストと言えばこの三頭よ。キビ団子一つで命をかける、最も安上がりな三銃士!」


 おぃぃぃ、フレンズじゃねぇのかよ!?  お前はディスるなよ! 


 「主なき畜生どもに遅れを取る我ではない。失せよ【コキュートス】!」


 はい、瞬殺でしたね。パキーンと凍って、ピシャーンと砕けたね。絵面は良し。魔王くん。分かってきたじゃないか。


 「まだまだ! 【サモン ニュー・フレンズ】!」


 「ジラフ・ヘッド参上!」


 「エレファント・ヘッド参上!」


 「テナガエビ・ヘッド参上」


 長いもの縛りね。いいよ、統一感大事って俺が言ったもんね。


 でもなぁ、テナガエビはちょっと無理がない? それにね、見れば分かるけどさ、頭は被り物してるけど、首から下は人間でしょ。テナガエビの”手”は表現されないよね。単なるエビだよね、アレ。


 「ちなみに、ジラフとはキリンのことだ」


 分かってるよ! 見れば分かるよ! 首長いもん! 分かんない奴がいたら呼んでこいよ!


 「マンネリだ。芸がないぞ【アッシュ・ストーム】!」


 そうだ魔王。いいこと言った! 次から次へとアニマルを呼び出すだけじゃ芸がない。おっしゃるとおりだ。その点、炎魔法、氷魔法、風魔法と目先を変えているところはポイントが高いぞ。やるな! 魔王!


 「いつまでその余裕が保つかな? 【サモン ブランニュー・フレンズ】!」


 「ハシビロコウ・ヘッド参上!」


 「アップル・ヘッド参上!」


 「ニンゲン・ヘッド参上!」


 ……


 オーケー。順番に行こう。


 まずハシビロコウ! 動けよ! バトル中だぞ! 


 「眼光が鋭い。それがハシビロコウ・ヘッド」


 だからなんだよ! 次!!


 アップル! アニマルじゃねぇのかよ! 最低限、そのラインは守れよ!


 「爽やかな香りで、リラックス効果がある」


 聞いてねぇよ! 次!!


 ニンゲン! ああ、たしかにアニマルさ! 人間だって動物さ! でもなぁ、どこぞの大統領の被り物はないだろうが! 


 「メイク・アメ○カ・グレート・アゲイン」


 モロはダメ! オマージュの範囲に留めろよ! アメリカとか世界線が違う! しかもちょっと古い!



……


………


 ちょっと休憩いいっすか? できればお冷を一杯。


 ああ、ハシビロコウ・ヘッド、ありがとう。


 沁みるね。五臓六腑に沁み渡るね。



……


………


 「正直、手に負えない。この際、ファンタジーな要素は省いて構わない。ただ! 真面目にやってくれ!! イエス・シリアス! ノー・コメディ!」


 「我は、問題なかったはず」


 はい、魔王さんは良かったですよ。通常魔法、通常魔法、通常魔法ときて、ぼちぼち極大魔法のタイミングでしたよね。分かります。イケると思わせておいての逆撃ですよね。定石です。序盤の布石として申し分ないです。


 問題はお前だ、ホース・ヘッド。


 「イロモノを出すな! 名前だけで強いと分かる奴を出せ! 恐竜とか! 空想上の怪物とか! 何ならSFチックでもいいよ! 生体型宇宙戦艦とか! 俺は派手に戦えって言ったの! 変化球はいらないの! 荒唐無稽でいいから火の玉ストレート! アンダスタン!?」


 「自分は馬である。ゆえに細かい注文には応じられない」


 「面倒くさそうな顔するな! いや表情はわからないけど、雰囲気で分かるんだよ! いいか、これが最後通牒だ。派手に! 華々しく! 見栄えを意識して戦え! 次にふざけたフレンズを召喚したらマジのガチで去勢するぞ!」


 「わ、分かったでしゅ。……いや、委細承知した。…魔王よ、これよりは掛け値なしの必殺。凌げるものなら凌いでみるがよい」


 「受けて立とう。──我は魔王なり。魔の頂にありて統べるもの。我が前に魔王なく、我が後にも魔王なし。天上天下唯我独尊。全ては我の手の内にあると知れ」


 イイっ…! ノッてきたね魔王さん。 とってつけたようなセリフだけど、十分に及第点。むしろ花丸あげちゃう!


 「それは希望である。それは願いである。それはヒトが、生けとし生けるものが魂に刻んだ想い。取るに足らぬと侮るなかれ、水の一滴は岩をも穿つ。56億7千万年の時の果てよりいでよ。今こそ救いの時! 【サモン! ミロク・ヘッド】!!」


 「ミロク・ヘッド見参!」


 よぉぉっぉぉし! 仏様を召喚! これは勝つる! 最初から喚べよと言いたいところだが! まあ良し! さあさあ、やっちゃってください先生! 聖なる菩薩パワーでやっちゃってください!!


 「何いぃ! 異世界の超常存在を具現化!? ありえぬっ! 定命のものに手の届く領域ではないぞ!!」


 「我らは名前を捨てし過去の亡霊。千の声に応え、万の願いを叶えども、一つの理想を求め続けた愚か者なり。正義に焦がれた我らが理想郷に魔の蔓延る道理なし。三千世界の光に灼かれて滅せよ邪悪。余はミロク・ヘッド。アニマル・ヘッドにしてアニマル・ヘッズなり。汝に救済の滅びを与えよう」




 ペカーっと光ったミロク・ヘッド。




 あっさりと消滅した、魔王。


 アレですよね、デウス・エクス・マキナ。機械じかけの神様。


 まあいいさ。ご都合主義もまた王道さ。


 仏様は、ひとしきり光った後に、『グッドラック』と言って消えた。俺は『グッジョブ』と返した。


 残ったのは、俺と勇者パーティの残り三人(死体)。そんで、ホース・ヘッド。ついでにハシビロコウ・ヘッド。


 …っておい、アップル・ヘッドもニンゲン・ヘッドも空気読んで消えたんだぞ。


 ハシビロコウ・ヘッドよ、なぜ残る。


 まだ爪痕を残していない?


 もういいんだ、休んでいいんだよハシビロコウ・ヘッド…


 俺は忘れないよ、その眼光を。殺人者の如き眼差しを忘れはしない。だから消えてくれ、頼むから消えてくれ。ぼちぼちオーラスだからさ、最後はシリアスで終わらせたいんだ。


 そうか、ありがとう。達者で暮らせよ。


 他の誰もが忘れても、俺だけは忘れないからな。グッバイ・ハシビロコウ。フォーエバー・ハシビロコウ。




 では、終幕としよう。


 「感謝する、ホース・ヘッド。あなたがいなければ人類は、いや世界は滅んでいた。僭越ながらこの世界の代表としてお礼を申し上げる」


 馬の被り物をした男がボディビルダーっぽいポージングで応える。


 「礼には及ばぬよ。この世界の召喚されたことにより、この世界は我らの縄張りとなった」


 「ぱーどぅん?」


 馬男はフロントダブルバイセップスからサイドチェストへ移行。上腕二頭筋デカすぎかよ?!


 「更には、新しき同胞を迎える入れることが出来たこと。誠に祝着である」


 「まさかと思いますが、Mr. ホース・ヘッド。新しき同胞とは?」


 「決まっている。勇者アークライト、貴殿である」


 「ノーサンキュー! 断固としてノウッ! 俺にだって人生設計があります! 王女様と結婚するんです! 一生分働いたので、後はのんびりスローライフです!」


 「それは通らないよ勇者アークライト。だって貴殿は我々を喚び出したじゃないか。契約は成された。そして契約にはすべからく対価が必要だ」


 「錯誤です! 契約の主要部分に関する錯誤を主張します!」


 俺は契約の錯誤を主張し、馬男はサイドチェストからアブドミナルアンドサイに移行して腹筋を主張している。


 噛み合わないなぁ! もう!


 「錯誤は認められないのだよ。『アニマル・ヘッズ』は契約であり、法でもある。法の不知はこれを許さず。傷害罪の構成要件を知らずとも傷害の事実があれば、裁かれるのと同じさ」


 アカン! 馬なのに賢いっぽい!


 「ではですね、取引といきませんか? 戦士と聖女と賢者、いずれ劣らぬ優秀な者たちです。彼らにアニマル・ヘッズに加わる栄誉を。俺は凡人なので、謹んで辞退させていただくというのは如何でしょう? 損得では、そちらの得になると思いますが」


 「なるほど、検討の余地はある……。ある、が。本人の意思をないがしろにするわけにもいかんな」


 ………ハイ。ホース・ヘッドによって蘇生された三人にどえらい勢いでボコボコにされました。


 ああそうさ! 俺だって自分が可愛いさ! 考えてもみろよ、他力本願とはいえ、禁呪を使ったのは俺だろ? 少しの論功行賞があってもいいと思うんだ。こう言っちゃなんだが、君たちは早々にリタイアしたよね? その点俺は違う。確かにちょっとした違いさ、でもその違いってぶっちゃけ決定的だよね。もし立場が逆だったら? 禁呪を使える俺だからこういう結果になったわけだし。


 喧々囂々。侃々諤々。


………


 1対3はズルいよ。勝ち目ないじゃん。四人パーティのインテリ系二人がそっちなんだもん。


 はーい。わーかーりーまーしーたー。


 生贄、上等ですよ。


 でも覚えていてくださいね。アニマル・ヘッズの魔の手はいつだって手ぐすね引いて狙っていますからね。


 あ、ホース・ヘッド筆頭。ちなみに自分の被り物はなんですかね?


 できれば格好いい系、イーグルとかウルフとか。もしくは渋い系、シャチとかジャッカルとか希望なんですが。


 え、そういうのは既に埋まっている?


 パッと思いつくものは売り切れですと?!


 新参者に厳しい世界ですね。


 ゾウリムシがおすすめ? いやそれ微生物ですよね。アニマルのカテゴリですか? 笑ってごまかさないでください。


 えーっと、ニセホシテントウゴミムシダマシはどうでしょうか?


 あ、空いてる。じゃあそれでお願いします。メジャーどころが抑えられているとしたらニッチなところで勝負しないといけませんからね。主役は無理でも、存在感のある脇役ポジションを狙いますよ。


 右も左もわからぬ若輩者ですが、よろしくお願いします。




 かくして、世界に平和が訪れた。


 その代償として、世界からはシリアスが失われ、どれほど切羽詰まった場面でもコメディタッチに塗り潰されることとなった。


 オチのない会話は8つ目の大罪として定められた。


 まさに、不可逆の破壊。


 神は嘆く。


 だから絶対に使っちゃダメって言ったのに!








おしまい。

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禁断の魔法『アニマル・ヘッズ』 ~勇者様のツッコミが間に合わない世界~ 的場 為夫 @matoba_tameo

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