第3話
教室に戻った。周りはさっきの騒ぎを忘れて、最初からなかったかのように来週のテストの話をしていた。席につくと同時に、誰かが静かに私に声をかけた。
「もしよかったらこれどうですか」
そう言うと手に持っていた紙を私に差し出した。茶道部の勧誘らしい。平日の月水金の三日間で放課後の2時間活動しているようだ。
「あの、すごく髪が綺麗だし、何よりいつも姿勢が綺麗だからどうかなって。」
茶道はやったことないけど、着物を着られるのは嬉しい。趣味とまでは言えないが、たまにオンラインショップで着物を眺めることがある。もちろん着る機会がないから着付けなんて出来ないし、なにより茶道に関しては全く興味を持ったことがなかった。特に関心もないのに、行ったことで入ってくれるのかもと向こうに期待させるのは申し訳ない。しかもすでに他の部活に入っているから時間的にも厳しい。念の為ものすごく申し訳なさそうな顔をしながら、丁重にお断りした。その子は笑顔で「もし気になったらいつでも声かけてね」とやさしく言って自分の席に戻っていった。
帰りの電車はいつも以上に混んでいた。乗り込んですぐ、リュックを足元に降ろした瞬間に押しつぶされた。外は雨が降っていたから、電車の中は湿気で息苦しい。足元を見ると、スカートがめくれ上がっていた。慌てて隙間に手を入れて直した。しばらく押しつぶされたまま電車に揺られて、5分ほど経つと次の駅のアナウンスが流れた。次の駅は降りる人が多くて座席も空きやすい。すぐ移動できる様にリュックを持ち直そうとしたとき、またスカートがめくれていることに気づいた。膝丈まである長めのスカートなのにそんなにめくれやすいのかと疑問を抱きつつ、急いで直した。駅に着き、一斉に人が流れ出した。座席に空きができなかったので、比較的開かない方のドアの目の前に移動した。人がまたたくさん乗り込んで押しつぶされた。外は暗くて、窓には車内が映っている。右に少しスペースがあったので一歩右にずれた。おかしい。またスカートがめくれている。直そうと手を後ろに持っていくと誰かの手に当たった。窓越しに後ろを見ると、その人がこちらを見ていた。制服を着た男子高校生、もしかしたら背が高い中学生かも知れない。急いで直そうとすると、その人は裾をもって上に持ち上げた。手が突っかかって直せない。ローファーのかかとで足を踏んだがどうにもならない。思い切って体ごと振り返り、胸ぐらをつかんで睨んだ。予想外の私の行動に目をまんまるにさせ、慌てて逸らした。幸いその5秒後に反対側のドアが開き、その人は慌てて電車を降りていった。
暖かい風が吹く頃の君へ @ninee
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