第2話

 君の存在を知ったのは社会人2年目の春だった。公園のベンチで可愛らしいお弁当を膝に乗せ、口をよく動かして食べる姿がリスの様で印象的だった。花壇に背を向けて、敷き詰められたレンガの間に生えた雑草をただじっと見つめていた。人気の少ないこの公園で、君にだけ日が差し込んでいる。僕はただじっとその光景を見つめていた。どこか懐かしい気がするのだ。見ず知らずの人にこんな感情を抱いたのは初めてだ。長い髪、姿勢が良くて、少し困った顔もたまらない。「こんにちは」と言う君の声で、まだ寒い風も暖かく感じられる。少し釣り上がった猫目にこげ茶の瞳。魅力的で思わず引き込まれる。

「あのお邪魔でしたか?」

「あ、はい」

「ごめんなさい、今退くのでちょっと待ってくださいね」

「はい。あ、違います。あの、雑草を見てらっしゃるなって思ってただけなんで。」

「あー、かわいらしいなあって思って見つめちゃいました」

「かわいらしい」

「ちょっと変ですかね?きれいな色してるし、小さくてかわいらしくないですか?」

「はい、かわいらしいです」

「お!そう思いますか?」

なんて嬉しそうな顔をするんだろう。こんな雑草の話でそんな顔見たことない。

「あ、ごめんなさい、そろそろ時間なので。もしまた見かけたら声かけますね!」

「あ、はい。私も見かけたら声かけます。」

「本当ですか?嬉しいです。最近この場所気に入っていて、明日もたぶんここで食べているので、是非!」

彼女は話しながらお弁当と箸を包みで包んで、小走りでその場を離れていった。

彼女が去るのをしばらく眺めた後、僕は改めてかわいらしいはずの雑草を見つめた。くすんだ緑色で、まだ細くて小さい。風に吹かれながらなんとか生き延びようと懸命にしがみついている。こんな道の真ん中にどうして生えてしまったのか。いつか踏まれてしまうに違いない。場所を移そうにも、抜いたら弱り果ててしまいそうだ。何が起こっても、そういう運命だったと思うことにしよう。腕時計を見て僕は慌てて定食屋に向かった。

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