夢十夜 ~下校編~

@dangodayo

夢十夜 ~下校編~

夢を見ていた。


気がつけば、高校生に戻っていた。


傍らの見覚えのないグループと談笑しながら帰宅していると、笑みをたたえた同じ制服の男子高校生に声をかけられた。

グループは波を打ったように静まったが、その男子高校生は着いてきた。誰も何も言及しないまま、ポツポツ会話が続いていた。


その男子高校生を見知らない訳ではなかった。ここらに憑く怪異である。たまにこのようにグループに混ざってくる。


しかし、怪異とは共存しないといけない。そう親に言われていた。タブーさえ犯さなければ、安全だから、と。折しも携帯にプッシュ通知。ニュースサイトから「悪魔憑き差別問題を問う」という記事が飛んでくる。

下手に逆らっても厄介だ。警察に言っても「何も起きてない」という判断になるだろう。

だから、高校生数人に出来る抵抗は、一瞬強ばる顔なり合わぬ視線なりで済む程度だった。



さて、怪異は随分朗らかに会話をしている。先日発売されたゲームハードの性能を詳しく聞きたがったり、体育担当教師への愚痴を漏らしたり(何故か蔑称に近いあだ名を正確に知っていた)と、自由に振る舞っている。

学年1番の人気者にも劣らぬ話術だ。おかげで若干雰囲気はマシになっている。本人が原因でなければ、もっと明るくなっただろう。



角を1,2曲がって住宅街を抜けると、高台へ続く大きな階段がある。

大体、そこでまた2グループに分かれて帰るのだ。

階段近く、古びた工場の前で立ち止まり、別れの言葉と共に2手に分かれようとする。

その時、緊張感が緩んだのか、1人の生徒がこう発言した。


「じゃあ3:3でバイナラだな!」


_全員、目を見開いた。


ホラーのタブー。


『増えた人数を、その場で指摘してはいけない』


今の発言はそれに該当するのか、否か。

答えはすぐに表れた。発言者の腹に、ナイフが突き立たる形で。

言葉もなく崩れ落ちるそいつに最早目もくれず、怪異は何でもない笑顔でこっちを見る。


「ごめん、それタブーだね。実は俺怪異で……いや大分前からバレてたけど……」


誰かの悲鳴。凍り付いて動けなかった私達も、それで一斉に動いた。

 


 動いたは、いいんだけど。

 とっさに工場で駆け込んだ自分の反射神経を呪う。工場の廊下は反響が強い。2階で蹲っていることも、収まらぬ呼気も心臓の音も、すぐにバレてしまうかもしれない。


 で、あれば。

 そろりと、手近なものを引き寄せる。力を込めて握った直後、背中が妙に温かくなった。ついで、違和感。鋭い痛み。


 なので、振り返りざま、思いっきり振りかぶった。少し驚いたような顔をした怪異が、嬉しそうに呟く。


「正攻法な女だなあ」


 死ぬほどどうでもよかったので、そいつ……怪異の顔面に殺すつもりで鉄パイプをぶち当てた。


________

その後、車で助けに来てくれたお母さんに回収された。

まあ、大事件で大騒ぎだった。

わりと思い出したくもない。

発言者以外は死者0だったが、発言者は死んでるし、私も全治2週間だった。

学校からは二度とその通学路を使わないよう、通達があった。

これで解決、万々歳だ。


その筈、なのだが。


「それでさ、国語の点数が」


何で別の通学路に”こいつ”がいるんだろう。

なんと毎日の帰路に現れるので、誰も一緒に帰ってくれなくなった。

しかも距離が妙に近い。日本の高校生で女子の肩に手を置くことあるか?

無視していると、肩がポンポンと叩かれる。


「1人きりで帰りたかった?」


罠じゃん。

うんざりして言葉を返す。


「今も1人きりだけど」


……だからさ、毎度バレた理由それだって。

それ、どこにでもいる男子高校生が、にんまりと笑った時の瞳孔じゃないんだって。

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