Kissだけじゃ

「ふふーん♪ 今日もいい感じの曲ができたぞ」


 今日も順調な音楽活動をする颯茄。彼女の元へ子供が一人走り寄ってきた。


「ママ!」


 時刻を確認すれば、15時過ぎ。もう学校帰ってくる時間。1日は早いなと颯茄は思いながら、


「あ、おかえり。学校楽しかった?」

「うん、楽しかった。お膝乗っていい?」

「いいよ」

「よいしょっと。ママ、この曲何?」


 子供の目線がパソコン画面に集中する。指された曲名を見て、颯茄は吐息をもらす。



「ああ、それは、ずいぶん前に作った曲」

「どれくらい?」

「二十年くらいかな?」

「じゃあ、パパたちと結婚してなかった時?」

「そう。まだママが一人で、若造だった頃」

「わかぞう?」


 使ったことのない言葉を言われて、子供はキョトンとした。颯茄は少し微笑んで、



「若かったってこと」

「ふーん。この曲聴きたい」

「いいよ。今再生するね」


 マウスで再生ボタンをクリックすると、ちょっと重みのあるギターサウンドが鳴り始めた。



*kissだけじゃ もう

眠れそうにないのよ

手を引いて 帰さないで

いい人ぶって

見送らなくていいのよ

明日のことは忘れて


電話して 約束して

二人で会って 話をする

手をつないで 映画を見て

kissの後はどうするの?


まるで子供みたいに 何もないままで

”抱いて”なんて まさか言い出せないし


*Repear



すれ違って ケンカをして

仲直りはどうするの?


言葉よりも強く 裸の気持ちを

奪うものがあると気づいて


優しさは もう

いらないわ 十分よ

あなたをもっと知りたいだけ

全てを捨てても

かまわない 抱きしめて

明日のこと忘れさせて


*Repeat


kissだけじゃ・・・



=楽曲のリンク=

https://youtu.be/GX3JsTCKYag



 聴き終えると、子供は目をキラキラ輝かせた。


「いい曲だった!」

「ありがとう。CDに残しておいてよかったよ」


 たった一枚焼いたCDの中に入っていた一曲だった。


「他にも曲があったの?」

「あったけど、楽譜に書いてなかったから、ほとんど忘れちゃった」


 五線譜にはコード進行しかない。歌詞は残っているが。ここから元の曲を再現するのは不可能に近かった。


「また新しく作ればいいね」


 子供は何でも前向き。前と違っても、曲が息を吹き返せばいいではないか。

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私のオリジナル曲 明智 颯茄 @rinreiakechi

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