23.結婚できなかったらお前でいいわ

「30歳になっても結婚できなかったらお前でいいわ」


 制服に身を包んだ彼は、たわいをない雑談の一つみたいに話した。


「私も相手がいなかったらあんたでいいわ」


 私も本気にはしていなかったが、むきになって言い返す。


「約束な」

「約束ね」


「「まぁ」」


「女として見れないけどな」

「男として見れないけれど」



 彼と出会ったのは高校に進学してからだ。


 私の通っていた中学校は異性に対して壁があって、名前を呼ぶ時は友達なら苗字で、彼氏彼女になったら下の名前で呼ぶという暗黙の了解があった。


 高校に進学した後はそんな風習は消え去って、元々異性の友達がいた同級生は今まで以上に異性と距離を詰めていた。


私は中学では仲の良い異性はいなかったけれど、高校で初めて、同じクラスで同じ部活に入った男の子と仲良くなる。


 彼はよく話す人だった。男女関係なく友達が多いがチャラいってわけではなく一途。中学から付き合っている彼女のことを頻繁に相談してきて、「貴重な女の子の意見さんきゅ」と口にしていた。


 しかし、一年生の後半になると彼は振られた。


 彼女と別れたと泣きながら電話をしてきたことを今でも覚えている。こんなに愛されているのに振るなんてもったいないと心の底から思った。


 部活が終わると一緒に帰り、夏はアイス、冬は肉まんを買い食いをして。

 テスト期間になると日が暮れるまで教室でくだらない雑談ばかりして。


 中身は何も思い出せないような馬鹿な内容だったけれど、楽しかった気持ちは鮮明に覚えている。


 東京に進学した彼と、地元で進学した私。けれど、連絡はまめに取っていた。基本的にはラインばかりだったけど、文字を打つことが面倒になると電話をして。


 私が彼氏の愚痴を言っている時も親身になって話を聞いてくれて、男の気持ちを教えてと尋ねると「一概には言えないけど」って言葉の前に置いて話してくれた。


 帰省した時期が被れば飲みに行って、他の友達も混ざって旅行に出かけたり。


 社会人になってからも関係は変わらなかった。


 そんな彼は、今日結婚する。


「それではケーキ入刀をお願いします!」


 司会の声が会場に響く。幸せそうに笑っている彼の顔を、私は客席から見ている。


 本当に幸せな顔をして笑っているな。


 あんたを男として見れない。

 おまえを女として見れない。


 何回、何十回と同じセリフを言った。

 後半はもう意地になっていたかもしれない。


 私も彼に惹かれていた時もあるし、彼も私に惹かれている時があった。


 でも二人とも友達でいることを選んだね。


 私は新しい命を授かったお腹をさすり、彼との思い出を懐かしむ。


 ねぇ、約束の年齢まで二人とも歳をとっていないよ。


 約束を破ったのは私が先だけれども、あんたも約束を破ったからお互い様。


 何か一つでも違っていたら、私たちは二人で人生を歩んでいたかもね。


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五分くらいで読める短編小説(恋愛多め) 蒼久 楓 @aokkaede

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