22.梅は桜に憧れる

 私の家系は代々、花の名前をつけている。母なら紫苑、祖母は椿。私は梅という名前をもらった。正直古臭いなと思うことはあるが文句はない。


 名は体を表す。なんて言うけれど、『梅』という名前は地味な私には合っている。


 私は自分が嫌いだ。


 顔はお世辞にも可愛いと言えないし、眼鏡で陰気臭い。人付き合いが苦手で教室の隅っこで本を読んでいるような地味な女。


 顔を上げて教室の中を見回すと、同じクラスの『桜』さんの周りには人が集まっている。


 桜さんは可愛い女の子だ。透明感のある白い肌に髪は艶やかで童顔。二重瞼の中には大きな目、鼻筋の通った綺麗な鼻。身長は低くて体は細い。「女の子」という言葉が似合って、男の子だったら守ってあげたくなるような人だ。


「梅さん」


 声を掛けられ顔を上げるとその桜さんが立っている。こんな子が私に何の用だろうか。


「数学のノートを集めてるんだけど、提出した?」

「……ごめんなさい。今出すね」


 私は卑屈だ。なぜ言葉の最初に「ごめんなさい」と謝罪から入るのだろうか。これがもし桜さんだったら、「ありがとう」なんて前向きな言葉を話すのかな。


「ありがとう」


 数学のノートを渡すと、桜さんは私から離れて行ってしまう。


 桜さんに見たいな顔を生まれたら、人生は楽しかったんだろうか。


 もし桜さんになれたら私は自分のことを好きになれていただろうか。 


 私は今日も桜に憧れる。

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