脳筋で書いていくホラーのような短編集
とびっこ
第1話 青年A
昔のお話です。
あるところにAという青年がいました。その青年は真面目で実直な性格をしており、村の人にも好かれていたそうです。青年には妹がおりました。妹は容姿端麗で性格も良い。兄妹仲が良く、兄は妹からもらった鈴のついた根付を大切に着けていました。兄妹共々、村の中で明るい存在になっていました。
一方その村ではとある噂話が広がっていました。
「あんた知っているかい?最近様々な村が焼かれているそうだよ。」
「村は夜のうちに火をつけられ、一晩で村全体を焼け野原にするらしい。」
「ウロウロと女を探しているそうだ。」
「犯人は手にアザがあるそうだよ。」
「お天道様になんて罰当たりな行為なんだろうねぇ。怖い怖い。」
村ではそんな噂話が囁かれていたそうでした。
とある日の夜更け、若い村人の一人が薪を取りに外に出たところ、青年Aの姿を見たそうです。
青年Aは後ろを向き、手には火打ち石が握られていました。そして、手の甲にアザがありました。
"ずっと怪しいと思っていたが、青年Aが犯人だったのか。そういえば、青年Aは最近この村に来た。きっとこの村に火をつける気であろう。"
若い村人はそう思い青年Aに組み付いて縄で縛り、村共用の蔵の中に閉じ込めました。
次の日の朝、村人たちが蔵に集まってきました。村人たちは口々に青年に向かって、言葉を投げました。
「この村を焼くつもりだったのだろう。」
「夜な夜な火打ち石を持つだなんて、そうに違いない。」
「他の村でも焼いたのは男性だったらしい。」
「やはり部外者は信用ならない。」
「殺してしまえ。」
「こんな危険な人は殺すに限る。」
「殺せ。殺せ。」
そして青年をあるものは殴り、あるものは蹴り暴行を加えました。しかし不思議なことに妹からもらったはずの鈴のついた根付を持っていませんでした。
その日の昼に、青年Aは村の真ん中で処刑されました。…そして妹もまた、処刑された。
村は不思議なことに、その日の夜に焼かれた。村人たちは助けて、苦しい、青年の祟りだと言いながら、焼け焦げたらしい。
その村の存在は消え、今は何もない森になっている。そして、妹の持っていた鈴のついた根付は未だ見つかっていない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うえぇ…。気味の悪い話…。」
「そうかな?」
僕は彼女のカエデとともにジュースを飲んでいた。僕たちは付き合って3ヶ月のカップルで、映画が始まるまでの時間潰しをしていた。
「だって、碌な証拠がないのに青年Aを処刑したんでしょ?青年Aにだって、弁明はあったんじゃない?」
「弁明はあったかもしれないけど、村人たちは聞かないと思うし、どちらにしても処刑されてたんじゃないかな?」
「本当報われないわね…。」
カエデは呆れた顔をしながらオレンジジュースを飲む。その姿がとても可愛らしい。
「ところでさ」
「何だい?」
「何でその話を知ってんの?村の存在消えてんでしょ?」
「僕もただの怖い話として人伝に聞いたからなぁ…。あっ、そろそろ映画始まりそうだ。」
「えっ!?もうそんな時間?」
「うん。…僕たち付き合ってんだからさ。手ぐらい繋いでいかない?ね?」
僕は手を差し出した。カエデは僕の手をじっと見つめている。
「…そういえば、アキラの手の平にはアザがあるんだね。」
「…あの怖い話信じてるの?」
「いや!?ただ、ちょっとドキッとしたというか…。」
「カエデは可愛いなぁ。」
本当、カエデは可愛い。
ようやく見つけたのだから。これからは、ずっと…。
カバンにつけていた鈴のついたキーホルダーがチャリンと鳴った。
脳筋で書いていくホラーのような短編集 とびっこ @tobinoko
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