桜景色から始まって、花に例えられる先生の過去と第一印象に入る流れが素敵! 先生は遠くのバラで、近くのタンポポで、遠い桜景色なんですね。丁寧に先生の印象が綴られていると感じる作品で、綺麗な花の比喩も相まって自分もいつの間にか先生が好きになっていました。6話後半の文章演出は読みながらとてもドキドキした。
演劇がテーマなのもあってか、映像的に感じる作品で、過去と現在の切り替えが映画みたいに鮮やかです。切なさもありますが、最終話のちょっとした意外性、美しい演出と心に残るお話です。こんな甘酸っぱいウブな少年が後の恋愛は……っていうちょっとしたサブエピソードもなんだかギャップ萌えでした。
夢は芽吹き、夢は咲き、夢は散り、夢はまた託される。
桜舞う季節。とあることから母校を訪問することになった俳優は、想い出の桜を振り仰ぎながら物思いに耽っていた。
「ここの桜を見ると、思い出すんだよ」「……ぜひ聞きたいですね、その話。まずあなたの話を聞くのが、僕の仕事ですから」
マネージャーにうながされ、俳優は語りだす。芝居という《夢》に巡りあわせてくれたひとりの教師との出逢いを。教師に擁いた果敢なき恋心を。そうして託された夢のことを。
詩のような筆致で綴られる場景が非常に美しく、読後にも心地のよい春風のような余韻を残してくれます。春にさきがけて、ひとりでも多くの読者様にお読みいただきたい一編です。きっと素敵な読書時間になることでしょう。