第28話
「分かりました。そこまで仰るのなら、私も了承すると致しましょう」
「よろしいのですか?」
「えぇ。ですが、そのお服は今頂いてもよろしいですかな?勿論変わりに良い物を二着差し上げますよ」
「構いません、これ以上着ながら保つのは、自分では無理だと思ってましたから」
「それではこちらの手紙を持って、先にお下り下さい、直ぐに行きますので」
「はい」
言われるがままに明桜が表に行き、ユアの所に行くと、ユアは変に動くと見えてしまいそうに短いスカートを履いており、明桜と目が合った瞬間に叫びながら試着室に飛び込んで行った。
「ばかぁあああああああッ」
そんな不可抗力な非難を浴びせられ、周りに居た店員は微笑ましそうに笑っていた。
(まさかだけどこの人達、確信犯じゃ無いよな‥普通に考えて、終わるタイミングなんて分からないだろうし、それは無いと思うがヴィンさんの性で疑い深くなるな)
「待ってッ私の着てたのがないっ」
そんな慌てる声が試着室のカーテン越しに聞こえ、周りに居た女性店員の一人が答えていた。
「服なら置いてありますよね?それ着て下さいな」
「ぇえっ、でもこれ…ちょっと」
「着替えましたか?開けますよ」
「待ってッ待って!まだ駄目ですっ、まだ着替えてませんからぁ!」
(あっユアの奴、完全に良いように遊ばれてるなこりゃ、頑張れ)
観念したのか試着室から声が聞こえなくなり、衣擦れの音が聞こえていた。
「開けますよ」
「えっまだ―」
「もう終わってるのは分かりますから、えいっ」
そうやってユアの制止の声も聞かず、女性店員がカーテンを盛大に引っ張り、何故か逃げられない様に、さり気なく左右を塞がれ誘導されていた明桜の前に、着替え終えたユアの姿が目に入っていた。
その姿は白を基調とした袖の長いクラシカルワンピースを着て、厚手の生地で作られたワンピースの裾が程よく広がったまま形を保ち、冒険者とは思えない膝から下の白い肌が合わさり、黒いブーツがより引き立っていた。
「どう…かな、やっぱり変だよねぇ、ぁはは、ごめんね変なの見せて」
「良いんじゃないか」
「…え?」
「似合ってるよ、雪の中に居るみたいだもん。じゃそれ着て帰ろうか」
「えっでも買って無いよ?これ…せっかく、アオが良いって言ってくれて嬉しいけど、高いし…」
ユアが話しながら、服に付けられた値札を見て肩を落していた。
「ユア、モデルだった無賃金で働かないさ、冒険者だって仕事をしたらお金を貰うだろ?ユアは今、此処に居る店員さん達に服を着せ替えさせられ続けるという、いわば仕事の様な事をしたんだ、一着なら着て帰っても大丈夫、ですよね?!」
まさかこんな事を言われるとは思って無かった女性達の顔は青ざめ、困り果てていた所に、丁度ヴィンさんがやって来た。
「アオ殿これを、それとこれはどの様な状況ですかな?」
「俺の報酬は別として、ユアが人形代わりにされた報酬として、あの白いワンピース貰って良いですよね?」
「えぇ構いませんよ、少々痛手ですがその分きっちりと彼女達には働いて貰いますので」
「有り難うございます、良かったなユア」
「うんっ、皆さんも有り難うございました」
ニッコリと女性達に頭を下げるユアに対して、受け取る女性達はユアの姿には喜んでいるものの、ヴィンさんの発言で苦い気持ちを抱いていた。
そしてヴィンさんとの約束で明桜は服を渡す事になっていたので、代わりに頂いた上下黒のズボンと服を着て、仕上げに茶色のコートを身に纏っていた。
「何だか十分こっちの方が良いですよ」
「そのコートはBランクの狼の魔物の毛皮から作らてまして、そのまま戦闘に使っても大丈夫な一品何ですよ」
「良かったんですか?」
「はい、我々も新しい品を見れるのなら、お釣りが出るというものです」
「そう言って頂けるのなら、此方としても助かります。それじゃ仕事行ってきますね」
「はい、御来店をお待ちしております、アオ殿」
そして店から出た明桜とユアが昼に向かって増えていく人混みの中を歩くも、周囲の目をユアが惹きつけてしまい、中には足を止めてまで、見ている者までいたのだった。
「何だか、恥ずかしい…」
「堂々としてたら良いよ」
(まぁ、少女なら恥ずかしがってる所も良いんだろうがな)
「ユア他にも、色々店回ろっか」
明桜が受け取った手紙は、今日に渡してとしか言われておらず、明桜一人だったら今直ぐ渡しに行っていたかもしれないが、ユアを連れて長い道のりを歩き、戻って来るのを嫌がった明桜は、ユアを連れそのまま昼ご飯も食べながら、アクセサリー店に入ったりと、日が沈むまでの長い時間を、二人で気ままに街を歩いていたのだった。
転移した俺が幼馴染を探そうにも、与えられた力は最弱と蔑まされる『言魔士』だった 松井 ヨミ @MatuiYomi
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