第27話
「見た事無いデザインですか‥黒い…」
「どうかされましたか?」
(やはり居たのか、俺と同じ様に‥)
心の何処かで巻き込まれて無い可能性を期待してたのか、明桜の中に焦りと戸惑いが生まれていた。
「おや、大丈夫では、無さそうですね」
「すいません、ぇっ…」
(名前聞いてないんだった..)
「そう言えば名乗っておりませんでしたな、私はヴィンと名乗っております、此処の店主です」
「ヴィンさんですか、店…ッ?!店主!?ヴィンさんが持ち主だったんですか?」
「おや、言ってませんでしたね」
(言われてみれば、店の物を報酬にしたり店内で好き勝手と、考えれば納得はいくが、何故執事服、どうして何だ)
「僕の名前はアオ、他はありません」
「分かりました。それでアオ殿、先程の話に戻りますが、大丈夫ですか?何やら血相を変えておりましたので」
「お蔭で落ち着けました。ですが、幾つか聞きたい事があるのですが」
「それでしたら場所を変えて話しましょうか。用意する物も御座いますので」
「分かりました」
(あれ、何か勝手に運ぶ事になって無い?)
そんな不安を抱えながら明桜は連れて行かれ、ヴィンが従業員に一声掛けていたいた為に、ユアは引き続き従業員の人形になる事が決まっていた。
店の奥にあるカウンターの、裏側に作られた階段から二人が上がり、二階に上がって奥の部屋に明桜は招き入れられていた。
(今から取って焼かれるんか。明らかに昨日今日会った俺が、通されて良い場所じゃ無い気がするんだけど‥)
通された部屋は、応接室というよりは、店の店主であるヴィンが扱う部屋という印象が強く、棚には資料や本が置かれ、部屋の奥にある机の上には書類の様な物が沢山置かれていた。
「そんな顔をしなくても大丈夫ですよ」
「はははっ‥出てましたか、すいません」
「取って食べる訳じゃありませんからね」
「・・・・」
(どうしてだろう、悉く痛い所を突かれてるのは)
そして奥で手紙を書き終えたヴィンが歩き、部屋の中央にあるテーブルを挟む形で二人は腰を下ろし、向かい合っていた。
「何だか、改まって向かい合って話すと緊張しますね、いつも此方で商談をされるのですか?」
「いえ、大抵は別の部屋を使いますが、商談は歳を取ると慣れるものです、アオ殿、こちらが今回お渡しして頂きたい手紙ですが、受けてくれますね?」
明桜が好き勝手されるのを拒み、先に話し出すも、駆け引きするにはヴィンの踏み込みは早く、明桜が二手目と考える事を一手で差し込んでいた。
「もう単刀直入に言いますね、今回は服などの報酬は要りませんから、一つだけ頼みたい事があります」
「良いのですか?あの子が喜ぶ機会が減っても」
「そんなのは構いませんよ。それよりも、聞いてくれますか?」
「一先ず、お聞き致しましょう。話は、それからという事で」
「先程仰っていた、見た事の無いデザインの黒い衣装、それを目視で見たい、それが僕の要望です。こんな手紙の運び程度では、割に合わないでしょうから、そうですね。この服もそれが叶うならお譲りしますよ?」
「なんとっ!‥‥ンっ、失礼しました」
(そうだよな、こんな数千円の服だろうが、この人達からしたら、興味を惹かれる一品だ)
「どうです?そちらには、損の少ない話だと思いますが」
直ぐに言葉を返し続けていた、ヴィンから返答は無く、ヴィンとの会話で初めて待つ時間を味わう明桜は、一秒一秒が途轍も無く長く感じていた。
「確かに。アオ殿をお連れして、噂の品を見させるだけで良いのなら、そのお話はとても魅力的ですが、一つ問題が御座います」
「その問題というのは」
「まず噂の品ですが、王都のオークションに出品される為、王都に行かなければ行けませんが、これは冒険者であるアオ殿であれば何ら問題無いでしょう」
(いえ実は怪しいです……)
「ですが問題なのは、」
「オークション会場ですか?」
「はい、我々関係者なら入るのは簡単ですが、部外者を中に入れるのは難しく。それでもアオ殿を中に入れるのでしたら、一番現実味のある方法で、護衛の冒険者として同伴という形になります」
「ヴィンさんの危険が増す事は否めませんが、それでお願い出来ませんか?」
「違うのですよアオ殿、確かに護衛は強い方が望ましいですが、そんな物騒な場所では御座いません」
「それなら―」
「問題なのは、同伴する冒険者は、最低でもDランク以上である事です」
「ぁ‥」
(なるほど、そっちか)
「ですから、私としては承諾したいのですが、今のアオ殿では入る事が出来ませんので」
「ヴィンさん、オークションはいつですか?」
「二週間後に王都で行われますので、十日後には発ちます」
(馬車で三日だっけ、その前日に着くとしたら妥当か)
「分かりました。ヴィンさん、この話は成立という事で」
「無茶ですぞ、この期間にEからDに上がなど」
「違いますよヴィンさん、FからDにです」
表情を変えないヴィンさんが目を見開き、それを見た事で明桜は自分がどんなけ、馬鹿げた事を言ってるのかが分かるが、引き下がる気など明桜には無かった。
「それこそ無謀ですぞ、若い命が絶たれるのならば、この話は無い方が良い」
「痛み入ります。ですがヴィンさん、それでも僕は止めません。入る条件がDだというのならDまで上げ、他の者を脅してでも現物を目にします。たかが見るだけ、他者からすればそうですが、僕にとってはそれ程重要な事です」
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