第26話


「二人ともおはよう」


「おはようアオ、あれ、トガリは?」


 横になっていた身体を起こし、ユアが目をこすりながら話し掛けてくる。


「トガリなら、顔洗に行ったぞ」


「わたしも、」


 目が覚めきってないのか、ユアがふらふと歩き部屋から出ていき、一人残されたアオは二人が戻るのをのんびり待っていた。


 やがてユアが朝食を持って部屋に入り、トガリは遅れてゆっくりと部屋に入って来たが、やはり怪我をした身体で動くのは限界があるみたいで、戻るなりベットに倒れ込んでいたが、ユアに怒られ朝食を食べてから横になっていた。


「ゆっくり食べなさいよね」


「良いじゃねぇか食べたんだから」


 飲み込む速度で朝食を食べたトガリに呆れながらもユアが叱るも、トガリが横になったまま軽い口調で返し、ユアの握る木のスプーンが今にも折れかかっていた。


「ユア」


「んっ?」


「持って来てもらったんだ、俺が返して来るよ」


「うん、ありがとう。もう少しで食べ終わるから、待ってね」


「ゆっくりで良いよ」


「うん」


 ユアに話し掛けた事でアオは、スプーンとトガリの恩人に成り、ユアが食べ終えてからアオも食べ切り、アオは三人分の朝食を片付けに詰所内を歩いていた。


「あっ、おはようございますクレアさん」


「おはよう、片付けか?なら、向こうだよ」

 

「有難うございます」


「待ってくれ」


 クレアが片付ける場所を教え、アオが一言礼を言ってから向かおうと振り返った所、急にクレアから呼び止められアオが立ち止まる。


「すまない。忘れてくれ」


「‥はい、それでは、失礼します‥」


 無理に聞き返す事もせずにアオは立ち去り、クレアに教えてもらった場所に朝食を片付け、ゆっくりとした足取りで周りを見ながらアオは部屋に戻っていた。


「アオ!アオッ!見てこの服」


 ドアが開き切る前から名前を呼ばれ、アオが視線を上げながら部屋の中に入ると、ユアは着替えており、レンチコートの様なものを着ていた。


「良いんじゃないか」 


「でしょ!でしょ、じゃなくてッ何でこんな高価な物が入ってるの!?」


(着といて言うなよ‥)


 聞かれなければそれで良いと思っていたアオだったが、跳ね上がったテンションでも、ユアはしっかりと理由を聞いていたのだった。


「あの執事の人と話してたら気が合ってな、安くで売ってもらったんだ。ユアには苦労掛けてるからな」


「え、これ私にっ?!」


「うん」


「ありがとぅ‥」


 ユアが恥ずかしそうに礼を言い、アオが腰を下ろそうとした時だった。


「アオ、今日は出掛けましょ、昨日のお店にも行って礼を言わないとだもんね!」


 顔を伏せていたユアが急に話だし、勢いに乗ったまま巻き込まれ、否定的な事を言える筈も無く、アオはユアと一緒に出掛けて行き、トガリは一人今日もお留守番であった。


 一度訪れた店を間違う筈も無く、二人は大通りを進み。


 丁寧に迎い入れられ入った店内は、昨日と同じかそれ以上に客の姿は無く、相変わらず変な時間に来る二人が印象的なのか、他の従業員からも視線を向けられていた。


「何か凄い見られてない?私達」


 一人か二人居る客もユアを見て、店の中央に居る執事服の男性と隣の男もこちらに視線を向けていた。


「きっとユアを着せ替え人形にしたいんじゃないかな」


「えぇぇぇ‥」


 照れるでも無く、アオの後ろに隠れたユアは、人見知りの妹役に早変わりしていた。


「これはこれは、良くお似合いです何よりです。お嬢様」


 店の中央から歩いてきた執事服の男性は、軽く会釈をしてから、本当に満足気に褒める光景は店と客では無く、執事とお嬢様の構図に見えるのだから、ユア自身はかなり嬉しそうにしていた。


「よろしければ、他の衣装もお着になって下さい。皆さんお願いしますね」


「畏まりました。ではお嬢様、どうぞ此方へ」


「えっあ……‥」


 困惑したユアは振り返りアオを見るも、従業員と執事の人に促されてはアオも止める事はせず、ユアの姿は並べられた服で見えづらくなっても、その周りを取り囲む女性従業員がユアの位置を示していた。


(あらら、本当に着せ替え人形に成ったな)


 そしてアオは執事の男性の方を向き、喋られる前に話し掛けていた。


「また仕事ですか?」


「おや、それでは、仕事を欲している様に聞こえますよ」


 表情を変えず、落ち着いた口調で話してくる男性に、アオはやり辛さを感じながらも、ペースを乱され無い様に注意しながら返していた。


「自分の事を話しておいて、つれない事言わないで下さいよ」


「何の事ですかな?」


 執事服の男性と目を合わせ、声量を僅かに落してアオは答えていた。


「控えめに言っても目立つユアより、俺を見る男性客は不自然ですからね。居るとすれば同業者でしょうね」


「言い逃れするのも変な話しですね。そうです彼も同業と言って違い無いでしょう、何でも王都で珍しい衣装が出回るとかで、義理堅く私に情報を渡しに来たのですよ。それで貴方にもう一度手紙を運んで頂こうかと」


「‥なんて、言いました?衣装が」


「そちらですか、詳細は分かっていませんが、見た事無いデザインをした黒い衣装と言っていましたね」


 執事服の男性の話しを聞いたアオは、胸を締め付けられた様な痛みに襲われ、跳ね上がる鼓動が呼吸を速めてしまい、胸を抑えたまま背を曲げ立ち尽くしていた。







 

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