第6話

社長の同級生の息子さんが、格闘家としてデビューした。

高校時代に空手の全国大会で優勝し、その会場で今、所属しているジムのオーナー兼コーチにスカウトされ、親元を離れ頑張っている。

社長は、そんな彼のスポンサーについていた。


彼はプロデビュー1年目、みごと新人王に輝きコーチと共に地元に帰ってきた。彼を祝うために知り合いの店を貸し切って祝賀会が開催され、私達社員も手伝いを兼ねて出席し司会進行は社長が引き受けた。

聞いているこちらまでもが、緊張するような司会っぷりだったが、合間合間で本人が、話すスピードは問題ないか? 音量は大丈夫か?等と私に聞いてくるので、そのつど

「なんの問題もないです!ぜんぶ丁度いいです!!」的な返答をした。

実際、会場は招待客達が勝手に盛り上がっていたので何の問題もないし、社長以外のスポンサーさん達も細々と動いてくれるので、社長の司会の出来栄えに関係なく、きちんと予定通り進んでいる。


家族を代表して、彼の五つ上のお兄さんのスピーチが始まった。彼より長身細身、パーマをかけた茶髪でチャラく見えるが、既に結婚し、二児の父親だ。

幼少時、空手の大会で弟が優勝するとケーキを買って、弟と両親と自分の家族四人で毎回、お祝いしていたというくだりで、お兄さんが感極まって泣き出し話せなくなり、それを見た弟が照れ臭そうにお店の紙ナプキンを手渡した。

言うまでもなく、会場は圧倒的な感動に包まれた。

あのチャラいお兄さんが、まさかスピーチで、ここまでの見せ場を作ってくれるとは・・・ヤンキーと雨の日に捨てられている子猫の組み合わせに匹敵する効果を感じた。

その日、私達は祝賀会成功の確かな手応えを感じ満足感の中、解散した。


それから二日後、舞い込んだのはまさかの訃報だった。


お兄さんが亡くなったのだ。

祝賀会の次の日の朝、お兄さんは布団の中で家電の電気コードが首に巻きついた状態で発見された。それは、事故であっても自殺であっても不自然な状態だったらしく、ハッキリと分からないまま葬儀となった。

号泣する弟さんに、誰もかけれる言葉が出てこなかった。


お兄さんは、三人目の我が子の誕生を心待ちにしていた。奥さんは、妊娠六ヶ月だった。

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社長って、何か不思議な力でも持ってるの? きくらげ @momo-aya

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