第5話

社長のお客さんに須崎さんという、若い土木会社の社長がいる。いかにも元ヤンといった風貌で、つれている社員はやたら若く、ほぼ全員が未成年だ。

この須崎さん、やたら事故を起こす。須崎さん本人もそうだし、社員もそう。小谷さんの仕事の半分は、この人関係の事故処理なんじゃないってぐらい事故る。

うちの店からの貸出扱いになっている車が再起不能の全壊で返ってきたことは、1度や2度じゃない。

溝に脱輪すれば現場にほったらかしで警察から電話、仕事現場近くの人の土地に勝手に駐車して警察から電話、車の名義はうちの店なので、良い迷惑だ。

ほんとマジで。


呆れるほど非常識な須崎さんに、社長は1度も怒ったことがない。うちらには、自分の分のジョアがないだけで、マジ切れしたのに・・・

手のつけられない不良だった須崎さんを、彼の親から預かってバイトとして雇っていた過去があるせいか、いまだに、面倒を見みている感がみてとれた。

いかつい元ヤンの何がそんなに可愛いのか私には分からないが、彼の事故現場には行ける限り社長が出向いていた。


そして、この須崎さん、強運なのかなんなのか、1度も怪我をしているのを見たことがない。お城の堀に車ごと落っこちようが、高速道路で脇の壁に激突して車が大破しても、本人無傷、同乗の従業員も無傷。人間と車って、人間の方が丈夫なの?どうやって生き延びてんの?

その丈夫さには引く。

毎回、車だけが大惨事。そして、他人を巻き込んだことがないのが幸い。

ただ、ひたすら借金だけがかさんでいくのだ。


須崎さんが、何台車を壊そうが社長は次の車を貸す。尋常じゃないペースで起こす事故の修理代や車両代を、須崎さんはとっくに払えなくなっている。

社長だって分かっているはずだ。


いや、私達だって分かっている。はっきり言えば、須崎さんは借金を払わなくてもかまわない。事故を起こし、そのたび社長に泣きついて、彼を頼ってさえいればいい。


かわいい彼が巣立たないことが、社長の幸せなのだ。


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