幕間

海辺にて

海に近づくにつれて開ける空。

海が見える前からもうすぐだとわかる。

海岸へ続くトンネルを抜けたら強い光と共に海の青が現れた。海面が日に照らされて波が揺らめくと、キラキラと輝く。

打ち寄せる波は高くなくて、海風はほぼ流れていない。凪にかなり近い。あの日にすごく、すごく近い。

足元の砂浜が1歩1歩ずつ沈んでおぼつかない。

靴に着いた砂を見て、あの日の海を思い出しているようで涙が込み上げてくる。

偶然足元に転がっていて拾った桜貝のピンクが妙に鮮烈だった。割れやすいあの桜色の貝殻を摘んで光に当てる。

空に透かした貝殻は綺麗だった。あの日君が透かして微笑んだ貝殻の色を僕は初めてじっくりと見た。驚いた。あんな綺麗な色ならあんな綺麗な顔をしても仕方ない。


僕も思わず微笑んでしまった。


奥に連れて青くなっていく海のグラデーションが美しかった。ずっと見ていたかった。

君の後ろ姿を見ているようで。あの夏に戻ったようで……。


なんだか振り切れない未練たらしい思いばかりが募る。なんでこんなにも涙が込み上げてくるのだろう。もう君のことは忘れようとここまで来たのに。いっそのこと笑えてくる。忘れよう忘れようと言いながら結局のところは忘れたくないと思っていたのか。

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夕凪の街と青い絵の具 雨空 凪 @n35

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