昼休み
高校に上がって良かったこと。その一つである昼休みは、今日の僕にとっては災厄だ。中学よりも長くなった昼休み。食べるのが遅い僕にとっては嬉しい事だった。家ではまともにゆっくり食べられない食事が学校では食べられる。それは幸せだ。その時間だけは僕が子供をやり直すことが出来たからだ。
「いつも君はここで食べてたんだねー。寂しくはないのかい?相沢くんもいないようだけれど」
僕の時間を壊し入ってくる彼女を僕はもう気にしないことに決めた。無感情にいよう。
「驟は他の友達とワイワイやってたいだろうから」
「へぇー。その割に彼は1人で中庭で食べることが好きなようだ」
そんなはずはなかった。驟が僕に言ったんだ。「他の子と食べるからいいよ。翔は一人で食べても」って。もしかして違う意味だったのだろうか。僕の気を変に遣ったのかもしれない。
「ほら。上から見るとよく分かるでしょ」
そこにはベンチに座り一人で昼食をとる驟がいた。少し寂しそうなその様子に心が痛んだ。僕もあそこに行きたい。
「ほんとだ」
「さて本題だけど、私が頼んだらそのテーマにそった写真を撮ってくれない?」
「人に頼む態度じゃないよ」
「撮って下さい」
そう言って素直に頭を下げた彼女に僕は軽く驚いた。創作のためならプライドも捨てられるものなのかという衝撃があったからかもしれない。
「……別にいいよ。僕は写真撮れるならなんでもいいし」
「やった!」
そう言って飛び跳ねて喜ぶ姿は無邪気で、普段の大人びている様子とは違う、ある1種の可愛らしさのようなものを纏っているように見えた。微笑ましい光景だなとぼんやり思っていた。ふと予鈴が鳴った。
「そろそろ戻らないと」
そう言って踵を返した彼女は、浮き足立った足取りでドアの向こうへと進んでいく。僕はその姿について行きたいと思ったから、その後ろ姿を追った。
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