第7話 異世界転生も悪くない。
こうしてあっちこっちの壁を補強しているうちに、冒険者や兵士や騎士たちが少しずつ魔物を倒していく。
丸二日かけて、ようやく街は危機を脱した。
◇◆◇
全てが終わって数日後のこと。
俺は街の中央にある城に招かれた。塞いだ穴の代金だけじゃなくて、それとは桁違いな額の報奨金を貰えるらしい。
勲章と名誉騎士かなんかの身分もくれるとか言ってたけど、そんなものは断る。
それからどうなったか?
何も変わりはしない。
ギルド長からはもう一度冒険者として働かないかと聞かれたけど、もうそんな気はこれっぽっちもない。
戦闘に向いてないのは冒険者時代に悟ったし、俺は今の生活が気に入ってる。穴塞ぎ屋で十分食べて行けるうえに、老後の資金にもこれで目途がついた。
異世界転生?
悪くないよ。
俺は最強じゃないけどさ。でも楽しくやってる。
たまにうるさく勧誘するやつとかいるけど、めんどくさい客が来たらドアを開けなきゃいい。
「ディル、頼むよ。俺たちと一緒にダンジョンを攻略しよう」
「はあ? 俺には向いてないから冒険者やめろって、昔そう言っただろ」
「俺たちが悪かった。お前がそんなに強くなるとか思わなかったんだ。もう一回パーティーを組もう」
「やなこった」
「くそっ、開けろって」
ドンドンとドアを叩き続ける昔馴染み。
こいつらには感謝してる。穴塞ぎ屋になったのは、こいつらが俺をクビにしたからだからな。
しかし俺が出てこないのに腹を立てたのか、だんだん壁を蹴ったり窓を割ろうとしたりしてくる。
タチが悪いなこいつら。
「このドアっ、窓も壊れねえ。くそが。めっちゃ硬てぇ」
そりゃそうだろ。うちはフル・スライム製なんだ。
自分の店を建てるのに、スライムは一番安い建材だからってのもある。
さらにこの十年で身につけた技を駆使した。
まるで木のようなドア。煉瓦造りに見える壁、透明な窓ガラス。全部スライムだ。
固さはもちろんオリハルコン並。
蹴ったくらいで壊れるわけがねえ。
あ、冒険者ギルドの人が来て、やつらをどこかに連れて行ってくれた。
そいつらギルドメンバーだからな。しっかり躾けてくれ。
「ディル、まだ冒険者に戻る気はないのか?」
「ギルド長、今更そんなこと言われても」
もう冒険者に戻る気はない。
異世界転生したら残念スキルだったけど、今はそれも悪くないって思うのさ。
【了】
残念スキルだったので冒険者になるのは諦めて薄利多売で地道に稼ぐことにした 安佐ゆう @you345
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