血と硝煙の臭いを嗅ぎながら異世界ファンタジーは出来るのか
COTOKITI
第1話 ニートから気付けばグリーンカラー
俺は懐かしい景色を見ていた。
それは遥か昔、今の自分が生まれるよりもずっと前の記憶。
特に理由も無く我が人生の暗黒時代を追体験させるのはやめてもらっていいだろうか。
何が悲しくて嘗て俺だった前世のニート時代の引きこもりのむさ苦しいピザデブがオンラインゲームでボイチャで喚き散らしながらプレイしていたら、そのまま日頃の不摂生が祟って脳卒中でくたばる様など第三者視点で見返さなければならないんだ。
我ながら実に間抜けな死に顔だ、ヒキニートには相応しい死に様と言えよう。
これを写真に収めて全国の日本国民がニートになるのを防止する為の教材にしてもいいくらいだな。
思い返せば前世は今となっては手遅れだが後悔に満ち溢れていたな。
人と関わる事を拒絶してしまったが為に学生時代は孤独で、いじめにも遭い高校も一年生で終わってしまった。
リアルで友達すら作ろうとせずネトゲで顔も名前も知らぬフレンドという名の暫定友達と24インチのモニター越しに罵声を浴びせ合う事しかしなくなりそこから次第に引き籠るようになった。
結局、就職すら出来ず実家でニート生活を送っていたんだ。
そういえば金遣いも荒かったな…流石にパチンコとかのギャンブルには手は怖くて出せなかったが。
そんなこんなでクソみたいな人生を脳卒中で終わらせて今は何をしているかというと…
「………きろ!!…!!」
……待てよ。
「まだ意識が……ねえ!!」
「連中…離を……来てやがる!!」
俺って…。
「…ズナーミャ!!敵の数が多い!!このままじゃ釘付けにされる!!」
「カピヨー!!フラグを投げろ!!」
何してたんだっけ?
「起きやがれクソ戦犯野郎が!!!」
「ブッッ!!?」
突然左頬を襲う激痛と衝撃に彼の失われた意識は即座に覚醒させられた。
寝起き早々強烈なビンタをかましてくれたのは自分とあまり見た目の年齢が変わらぬ少女だった。
少し変わった所があるとすれば、額からご立派な二本の角が生えていることぐらいだろうか。
つまり鬼っ娘、鬼っ娘ちゃんである。
ちゃん付けするには少しばかり表情と格好が物騒だが。
目の前にガチ恋距離で視線だけで人一人殺せそうな鋭い目つきでこちらを睨んで来る鬼っ娘ちゃんがいる状況に彼はひどく困惑した。
脳卒中で無様にくたばった所までは覚えている。
それが何故鬼っ娘ちゃんとガチ恋距離で睨めっこする事に繋がるのだろうかと疑問符を浮かべ、直ぐにこれは異世界転生と言う奴だと勝手に自己完結した。
――リアルに鬼っ娘ちゃんなんているわけないし夢にしてはプロレスラー顔負けのビンタが今もジンジン痛むから夢でもない…即ちここは異世界であるQED証明終了。
「あ、あのー。今どういう状況なんですかねえ…。ここ最近の記憶が纏めて吹っ飛んでしまったみたいなんですが…」
状況説明を記憶喪失の報告と共に求めると彼女は苦虫を嚙み潰したように表情を歪め、仕方ないといったような表情に変わった。
「………まあ、あんな頭の打ち方すりゃ記憶も飛ぶか…で、どこから説明すりゃあいい?まさか自己紹介からなんて言わねえよな?」
彼女の形相も怖いが、何よりとにかく周りが喧し過ぎる。
付けた覚えのない電子防音イヤーマフのお陰で鼓膜は無事だが、何故か目の前でハリウッド映画も顔負けな激しい銃撃戦が繰り広げられている。
「えっと……すみません、自己紹介からお願いします」
「嘘だろおい……後一々敬語で喋んな気持ち悪い!」
ここにいるのは目の前の鬼っ娘ちゃんと部屋の片隅で黒いローブを身に着けた金髪の女の人以外は全員ガチムチの重武装なイケメンばかりである。。
「まずお前の名は…つってもコールサインだが
こんな銃声と時折爆発音の響く室内で平然とここにいるメンバーの紹介ができるスナリャートさんとやらも凄いが、前世の自分からしたら明らかに異常事態と呼べる状況で落ち着いて話に耳を傾けられる自分にも内心驚いていた。
「そんで狙撃手の草まみれの奴が
「お、オーケー…俺がキンジャールでそっちがスナリャート…ね」
「覚えたんなら今の状況の説明――」
銃声と共に一際大きい爆発音と衝撃がキンジャール達のいる場所を襲った。
「全員撤退だ!!目標は何としてでも守れ!!」
「―と行く前に先ずはここを脱出するぞ!着いて来い!!」
訳も分からぬまま手を引かれて無理矢理立たされたかと思えば彼らは先程までいた広い一室を飛び出しズナーミャを先頭にドスペーヒが最後方で牽制射撃を行いながら短い廊下を一直線に突っ走った。
後ろから銃弾が何発も掠め、着弾した壁や床から舞い上がる粉塵の煙幕が立ち込める中をひたすら走り続ける。
他の皆とは違って装備は同じなのに武器だけ持たされていないキンジャールは黒マントの女と共に隊列中央で守られながら走っていた。
兵士の格好してるのに一緒に逃げてるのが情けなさ過ぎて彼女とは目が合わせられなかった。
あと少しで廊下を突破して階段まで辿り着けると言った所で背後のドスペーヒが突然倒れた。
鈍い着弾音が幾つか聞こえたかと思えばそこには地に伏して動かなくなったドスペーヒの姿があった。
「ドスペーヒ死亡!!ドスペーヒ死亡!!」
――やべえ!一番活躍しそうな雰囲気出してたイケオジが速攻で死にやがった!!
リアルの戦場でキャラ補正などある筈も無く目の前で頼りになりそうな熟練兵士が一人呆気なく射殺されてしまった。
「カピヨー!!ランチャー!!」
「あいよ!!」
ズナーミャの指示と共にスナリャートからいけ好かないとか言われてたコピヨーが自身の小銃、M16A2のアンダーバレルに装着されたM203グレネードランチャーに40mm榴弾を装填し後ろから迫りくる敵部隊に向けて構える。
「制圧する!!」
軽快な音と共に榴弾が放たれ、着弾すると凄まじい爆発音を立てて炸裂した。
舞い上がった粉塵が廊下に充満し、崩れ落ちた瓦礫が僅かにだが道を塞いだ。
「西側一階はまだ落ちてない筈だ!そこから脱出するぞ!!」
階段を駆け下り、西側の一階へと降りる。
ズナーミャの言葉から推測するにどうやらこのやたらデカイ建物の東側の一階から敵は侵入してきたようだった。
「クソッタレ!あいつら一体何モンなんだよ!」
「シート、そりゃあ
カピヨーの煽るような口調に青筋を立てながらもシートは走り続ける。
一階から出口に向かっている間にズナーミャはどこかと無線で通信を行っていた。
「
《ツィタデーリ了解。現在地より北西3km先に
「了解、アー0-1アウト」
無線が終わった頃には既に建物の外に出ていた。
裏道のような場所を通り、建物から遠ざかっていく。
ここはどうやらどこかの都市の中のようで建物を囲む壁の向こうから沢山の人の声がスタジアムの観客席の歓声の如く聞こえてくる。
歓声というよりかは、怒号に近かったが。
裏道も抜けるとそこからは普通に街中を通った。
中世ヨーロッパと現代の建築が混じり合ったような都市は既に日は沈み街灯も無い為少し先の道の様子すら見えなかった。
道行く人は何かをまくし立てながら先程まで彼らがいた建物まで向かい、周囲は既に数百人規模の民衆に包囲されている。
松明だの火炎瓶だのの所為で建物の周りだけがとても明るくなっている。
画面越しにニュースなどでしか見たことのないような暴動がキンジャールの眼前で起きていたのだ。
「なあ、そろそろ状況の説明してもらっていい?」
キンジャールから話を切り出して漸く説明を聞くことが出来た。
町を抜け、LZに向かっている間にスナリャートは全てを語る。
「まず、俺達はストレルカ・グループという
町外れの森の中を歩きながらスナリャートは説明を続けるがこの時点でもう色々と話が滅茶苦茶だった。
お姫様と呼ばれた金髪の女性はローブのフードを取り、その素顔をキンジャールに見せた。
「おお…」
何となく整った形の顔つきをしていそうだな、とは思っていたが予想よりもかなり美人だった。
シミ一つ無い潔白の素肌という最高の土台に最高の顔のパーツが揃っている。
ただ綺麗だとか、可愛いとかではなくて何だかまるで王者のような気品を感じさせる見た目をしていた。
少しの間見惚れていると尖った輪郭の目の中にある宝石のように輝く菫色の瞳と視線が合った。
「な、何か…?」
「お前は……妙だな。これでは、まるで……」
そう言ったきり彼女は全く話さなくなった。
後で教えてもらったが彼女の名はメイリャ・ラスカーシェといってなんか亜人連合帝国とかいう新興国の指導者の血縁者で魔人族の末裔らしい。
なんかすごいという事だけが理解できた。
そんなメイリャは反亜人派の人間による暗殺を恐れた現在の帝国の皇帝である父親と自分自身の意志によって家系図から名を消されラスカーシェ家を出て身分を隠しながら各地を転々としつつ暮らしていたそうだ。
そしてここ、連合帝国の隣国のノゥガ王国で反亜人派の暴動に巻き込まれて近くにあった大使館に匿って貰っていた。
救出の依頼をストレルカ・グループに出したのは勿論今の連合帝国の皇帝である。
本当はさっさと大使館から連れ出して速攻でヘリに回収してもらって帰る予定だった筈だが大きくそれは狂ってしまった。
仲間達の話によると刺客だけでなくあの暴動もラングレーが扇動した物らしい。
現在連合帝国の勢力圏内にある土地には石油やレアメタルといった地下資源が豊富にあり、アメリカがそれを手に入れるにはどうしても連合帝国が邪魔になる為印象操作などの工作で隣国の反亜人感情を爆発させ両国の衝突を目論んでいたという。
その時に皇帝の血を根絶やしにして帝国の復活を防ぐ為にメイリャも襲われたのだと彼らは確信していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
森を抜け、LZである平原に出るともう既にそこにヘリが一機待機していた。
てっきりブラックホークみたいなのが来るかと思えば実際に来たのは……
「随分と可愛らしい物が……」
小さくて真ん丸な機体形状。
「ストレルカ・グループは万年貧乏なんでねえ、送迎と近接航空支援もこいつが限界さ」
カピヨーが外装式のベンチに腰掛けながらMH-6リトルバードの機体を小突く。
メイリャには中に乗ってもらい他は全員外装式ベンチに乗った。
ベンチに腰掛け自分の体を機体に固定したキンジャールは離陸の時を待つ。
――記憶は無いのにこういう作業は何故か体に染みついてるみたいに出来ちまうんだよな。
知識は無いのに何故か技術だけは残っていることに違和感を覚えつつ離陸に備えた。
メインローターの回転速度が徐々に上がっていき、やがて機体が浮かび上がった。
遠ざかっていく地面の様子を見ながらキンジャールはそのまま空の向こうへと飛び立っていった。
血と硝煙の臭いを嗅ぎながら異世界ファンタジーは出来るのか COTOKITI @COTOKITI
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