第3話

 大事に大事に持って帰ったが、暗い部屋の中で、人形はもはや、輝きを失っていた。

 朝が来て、昼になり、陽が落ちて、夜になる。けれども、人形はただの人形のままで、床に落ちている。もう、藍色の瞳は私を見ない。

 死んでしまったのだ、これは。店主を殺してしまった時に。空に昇った丸い月を見て、ようやく私は、それを悟った。

 これは、店主の存在によって煌めき、命を吹き込まれていたのだ。

 ただ好きだから、ずっと手元に置いて大切にしたい。それだけがこの人形の持つ意味であり、価値であったのだ。店主という意味を失い、価値が消えてしまった人形は、ただ静かに佇む物でしかなかった。もう、彼は、動かないのだ。

 呆然と、私は床に座り込む。

 仰向けに床に転がった人形は、藍色の目を虚空に向けているだけだ。硝子玉の目には、眩い満月が映っていた。

「だから言ったでしょう。譲らないって」

 唐突に頭上から声がした。ぎこちなく徐に振り仰げば、そこに佇んでいるのは、あの店主だった。

 彼はにっこりと微笑むと、床に落ちた人形を拾い上げた。

 店主の腕の中で、人形は俄かに輝きを帯び、眩しくて目が眩む。黄色の月光の中で微笑んだ店主は、藍色の目をしていた。


 次に目が覚めた時、私は暗い路地に倒れていた。ぎりぎりと首を巡らせれば、ショーウインドウは明かりが落ちて、真っ暗だ。何かがちかりと瞬き、私は視線を巡らせる。私の腹には深々とナイフが突き立ち、月光と星明りを撥ねて、きらきらと煌めいていた。

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静かに佇む 中村ハル @halnakamura

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