第9話

「刻限となった。」


今回の鷹狩りを行ったのは伯爵家次男、子爵四男、男爵家次男三男と俺の計5組。

うち子爵家四男は魔物を狩ることはできたものの、本人が大怪我を負ってしまい他の候補が品格を欠く行為って失格扱いにならない限り有効と認められない補欠扱いとなった。

男爵家次男はビックボア、大猪を討伐してきちんと公爵家まで運び入れた。

しかし、その体には激闘を物語る多くの傷があり、見るものによっては評価はわかれるだろう。

男爵家三男が持ち込んだのはブレードラビット。

ホーンラビットの上位種であり、ビックボアよりも危険度は高く、その状態も良好なものであったが、何分体格差があり見映えでは劣ってしまうようだ。

それを伯爵家次男が持ち込んだサンドバッファローが些末な問題と一蹴した。

サンドバッファローは草原の草を根まで食い尽くし、砂漠を作り出してしまう人間にとっても環境にとっても放置してはならない魔物である。

体格もビックボアよりも一回り大きく、見栄えも一撃でとどめを刺したのだろう首元に大きな傷だけだった。

そして、俺の名前で提出されたのはブラックパイソンの牙でタラスクが公爵家まで届けていた。

その牙はビックボアのそれと比べても倍以上あり、実物がどれだけ危険な生物かを想像させるには容易く、町長の書状にもその巨体と死してなお獰猛さを感じさせると書かれており、それに興味をもった周辺貴族達も興味が湧いたのだろう、魔物の死骸が届くまで結果は延期される事となった。


「申し訳ありません、御借りした武具を破損してしまいました。」

「いやはや…これでも武器を扱って長いですが、こんなに使い込んで駄目になっているのは初めて見ます。」

「中々の強敵でしたので。」

「あの牙だけでもそれは見てとれますよ。剣も本望でしょう。」

「そういっていただけると幸いです。」


数日後、ブラックパイソンが3つに分割されて届いた。

そのうちの頭部の部分だけが持ち込まれ、残る3つと比べることとなった。

掛けられていた布が取られると伯爵家次男が残っていた片目と視線をかわし、そのまま尻餅を付いていた。

それとこの数日間の間に俺とアーノルドの戦いが吟遊詩人が唄い、それが町中に噂となって拡がっていた。

貴族が代役の平民に妨害工作を行うのは暗黙の了解ではあった。

しかし、アーノルドの名前が出てしまったことで問題は大きくなる。


剛腕のアーノルド。


冒険者を管轄するギルドが二つ名を与えるのはシルバーランクのパーティー若しくはゴールドランク以上の個人で顕著な成果を挙げたものとされている。

アーノルドは半数以上が死ぬとされる未成年からの見習い冒険者からの生え抜きで、二つ名に見合うだけの活躍していた。

その男と果たし合い生き残った者とは何者なのか、そこに貴族の興味は移っていくも公爵のガードに阻まれてか接触を試みようとする動きはなかった。



俺はそれを映像に近い絵画を使った紙芝居のようなもので見せられている。


年に数度、俺の体は色魔に所有権を奪われる。

抵抗はできるがする分、期間が延びる傾向にあるため無駄に抵抗はしないようにしている。

その期間、色魔は読書に更けることが多い。

気に入った本があれば何度も読み返し、新しいものが多ければ本の山の登頂に挑む。

村にいた頃は本は貴重であったため、一日中散策していることが多い。


ただ、それが色魔の行動の全てとは限らない。


とある夜、セイラは眠っているゼフの眼帯に意図をもって触れてしまった。


女、我に触れるか。


メイドでありスパイでありアサシンでもあるセイラの生存本能が危機感を通り越して、危機として精神を貫かれる。

ただ、相手は逃がす気も逃すつもりもなかった。

セイラから触れてしまったという事実は色魔に大きなアドバンテージを与えた。

それは要求と対応の形を成し、セイラの魂に干渉する。

セイラが求めるもの、それはゼフの目的だった。

それを色魔は見られないように囁く。

その要求は容易く達成された。

ただし、要求には対価が必要である。

悪魔との繋がりにとって自由に吊り上げが可能な形だったが、色魔は一言更に囁く。


『孕め。』


セイラにとって公爵家、自分の為ならその程度の要求は許容範囲である。

ゼフの立場からすれば、客人としてメイドに手を出し、メイドその証を成せば陣容に加わるしか逃げる以外の選択肢はない。

ただ、ゼフの魂は色魔と同じとしており、肉体は人間、魂は人と悪魔のハーフであるため、ただの人間ではそのような事態が起きることはない筈だった。


『褒美だ、受け取れ。』


魂と器の双方が繋がりあった状態で黒白を支配する存在はセイラに祝福を与える。

それは快楽に沈む程、その魂に植え付けられた因子が成長する祝福。

セイラはこの瞬間、理性と本能よりも更に魂の近くに快楽が刻み込まれた。


そして、その後に訪れる絶頂は何事にも代えられない、抗えない程の多幸感を与えた。


脳天まで突き抜ける快楽は一瞬の雷撃と白桃のような甘美を脳内を満たす。

絶頂後の弛緩から心身共に回復すると魂に小さな芽が顔を出していたのを色魔は確かに見ていた。

その後、セイラのゼフの行動に対する報告は確信がぼかされていた。

彼女の言動はいかに自信の使命と欲求が互い違いにならないようにするかと変わり、既に公爵への忠義よりも強く大きなものへの忠誠が高まっていた。

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失色のゼフ @96culo

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