姉・香澄の話
ごめんごめん、折角来てくれたのに待たせちゃって。もう大丈夫。あの子、一回寝付いたらしばらく起きないから。もう首も座って、今は寝返りの練習中だよ。
子供は良いよ。可愛くて。アンタも早く結婚して生みなよ。あっ、結婚しないんじゃなくて出来ないんだったっけ。モテないから。ふふ。冗談よ。
それで……お祖母ちゃんの話だっけ。なんで突然聞きたいとか思ったの?
もしかして、何か思い出した?
いや、ううん。何でもない。
お祖母ちゃんねえ。
ここだけの話さ。正直、私はあんまり好きじゃなかったな。私にはすごく優しくしてくれたんだけどね。
色んなとこに遊びに連れてってくれたし、オモチャもいっぱい買ってくれたし。
でもさあ……お母さんとかアンタには、何か嫌な感じの人だったんだよね。
お父さんは全然気づいてなかったみたいだけど。
うまく言えないけど、自分より下、気に入らない、って判断した相手には何を言っても良いと思ってたんじゃないかな。
で、アンタはどっちかっていうとお父さんよりお母さんに見た目も性格も似てて、そのせいだと思うんだけど私に対する態度とアンタに対してとじゃ全然違ったのよ。
私がジュースを
「何やらせてもダメなんだねえ」とか「普通、考えたらわかるでしょ」って口癖のように言ってたの覚えてる。
子供心に、感じ悪いなって思ってた。
ねえ、本当にさ、何で今更になってお祖母ちゃんの話を持ち出してきたの?
もしかして、あの日のこと、思い出したんじゃないの?
お母さんには口止めされてたけど、この際、ちゃんと真実を知っておいた方が良いよ。
私はあの時もう小学五年生だったからさ。結構覚えてるんだ。
胃腸炎がひどくて病院に連れてってもらって、入院して。でも点滴とかしてもらったら大分楽になって。翌朝、家に帰った。
アンタは朝に弱いからまだ子供部屋でスースー寝てて、リビングはテーブルにお酒の瓶とかコップが転がってた。
でも誰もいなくて、お母さんがお祖母ちゃん、って呼びながら家中探したの。私はぼんやりリビングのソファに座ってたんだけど、どんどんお母さんの声が張り詰めていってた。
あれ?って何度も言いながらあっちこっち探して、お母さんがふとベランダを覗いたんだよね。私のところからは見えなかったけど、お祖母ちゃんが冷たくなって横たわってたみたい。お母さんがすぐに大きな声で悲鳴をあげて、それからはもうてんやわんやだった。私も怖くて泣いたよ。
はっきりと覚えてる。
お祖母ちゃんの遺体が発見されたその時。
ベランダの鍵は、閉まってた。
これが、アンタが本当に聴きたかったことなんでしょ。
いつ思い出したの?
お母さんは気が動転しながらも、警察にはベランダの鍵は開いてたって言ったみたい。そりゃそうだよね。本当のことなんて言えるわけないよね。
私にも、アンタのためにどうか黙っててって。五歳の子が、ほんのイタズラ心でやってしまったことだからって。
でもさあ。
本当に、イタズラだったの?
冗談だよ。そんな顔しないでよ。
お詫びにってわけじゃないけど……。
お祖母ちゃん、別に窓を開けようと暴れたりした様子は無かったらしいから、鍵が開いてようが閉まってようが、どっちにしろあの夜死んでただろうね。酔っ払って外で寝込んで、閉め出されたことにも気づかなかったんだよ。
もちろん、もうこの話は誰にもするつもりは無いわよ。
だから、だからさ。
そんな顔しないでよ。
お祖母ちゃんはどんな人? 惟風 @ifuw
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