最終話 決着は来世で!
高校での剣道生活は終わった。
お互いに三年連続で全国大会個人戦優勝という結果を残すことができた。
若い頃に数々の実績を積み上げてきた麻央の祖父が、ことある度に二人を絶賛した。
『麻央と勇太は紛れもない天才だ。
勇太の前世は勇者。
麻央の前世は魔王。
剣豪どころではない。
年が明けて、元旦。
二人は毎年元旦に麻央の道場で立ち会いを行なっている。
全国大会の決勝戦よりも何倍も緊張する本気の立ち会い。
大歓声に包まれる大会の雰囲気とは対照的に、二人だけの静かな道場にはピンと張り詰めた空気で満たされている。
お互いに向き合って正座をし、心を沈めて静かに座礼をする。
「麻央、今日が最後の立ち会いだ」
「どういうこと? 私たちが進学する大学にも剣道部はあるわよ」
「怪我だ。オレはもう剣道を続けることができない」
麻央は勇太の発言が理解できなかった。
高校を卒業しても、大学へ行けば今まで通りに勝負は続けられるはずだ。
でも、いつもと違う神妙な眼差しから覚悟を決めていることを読み取る。
「…………。そう、なんだ」
短い沈黙ののち、麻央は静かに立ち上がった。
全てを察した麻央は、それ以上は何も聞かなかった。
「悪いけど、今日は本気を出させてもらう。女のお前を気遣って今まで手加減してきたからな。だから今日はオレが勝つ」
勇太が笑みを浮かべて勝利宣言をする。
「バカなことを言わないで。今まで手加減していたのは私の方よ。女の私に負けたら勇太は自信を無くしてしまうでしょ? だから今日は私が勝つわ」
麻央も負けずに勝利宣言をする。
お互いに竹刀を構え、睨み合う。
初めて竹刀を手にしてから十年以上が経っていた。
この道場で二人は幾度となく立ち会いをしてきた。
これまでの思い出が走馬灯のように蘇る……。
お互いに目で合図をし、二人の最後の勝負が始まった。
「麻央ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「勇太ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
((あれ…………???))
威勢のいい掛け声とは裏腹に、少し気の抜けた竹刀の音が道場に響き渡った。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
勇太と麻央。
二人は幼馴染。
二人は恋人同士。
そして、二人は良きライバル。
ーーこの世界でも。
ーーこれから先も、ずっと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
戦争は終わった。
各種族が和解し、それぞれ共存していく道を選んだのだ。
そして、勇者と魔王のライバル関係も終わりを迎えようとしていた。
「魔王、今日が最期の勝負だ」
「どういうことだ? 戦争は終わったぞ」
魔王は勇者の発言が理解できなかった。
戦争が終わっても、今まで通りに勝負は続けられるはずだ。
でも、いつもと違う神妙な眼差しから覚悟を決めていることを読み取る。
「病だ。オレはもうすぐ死ぬ」
「…………。そうか」
短い沈黙ののち、魔王は静かに立ち上がった。
全てを察した魔王は、それ以上は何も聞かなかった。
「悪いが今日は本気を出させてもらう。最期はオレの勝ちだ」
勇者が笑みを浮かべて勝利宣言をする。
「バカを言うな。今まで手加減していたのはオレの方だ。最期はオレが勝つ」
魔王も負けずに勝利宣言をする。
お互いに剣を構え、睨み合う。
勇者が初めて魔王城を訪れてから十年以上が経っていた。
この場所で二人は幾度となく一騎討ちをしてきた。
これまでの数々の勝負が走馬灯のように蘇る……。
お互いに目で合図をし、ライバルたちの最期の勝負が始まる。
「魔王ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
”初めて本気を出した”二人の勝負は一瞬で決着がついた。
お互いの剣の切っ先が相手の心臓を同時に貫く……。
((……くそっ、相打ちとは情けない))
『魔王よ。もし生まれ変わることが出来たなら、また勝負をするぞ』
『望むところだ。次はオレが勝つ!』
二人はもつれる様に崩れ落ち、静かに命を落とす。
『違う世界に生まれ変わらぬよう、貴様の魂を離さない。オレの存在を貴様の魂に刻み込む!』
『違う時代に生まれ変わっても困るからな。貴様の魂は決して離さぬ! 俺の存在を貴様の魂に刻み込む!』
命を落とし、魂だけの存在になっても二人は離れない。
『魔王よ、楽しかったな……』
『あぁ。良きライバルに巡り会えて俺は幸せだった……』
命を落とし魂となった二人も、ついに意識が遠のき始めた……。
((……そろそろの様だな))
『魔王よ、決着は来世で!』
『勇者よ、決着は来世で!』
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
勇者と魔王。
二人は生まれ変わっても良きライバル。
でも、残念ながら二人に前世の記憶は残りませんでした。
ーーただ時々、変なデジャヴに悩まされるだけ。
【完】
【決着は来世で!】〜転生勇者と転生魔王は今日も仲良く痴話喧嘩?〜 地獄少年 @Jigoku_Shonen
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