勇者は最強の人間兵器! でもアレを扱えるのはあたしだけ! つまりあたしが無双するのよ?

SHO

第1話 ジャイアントスイング

「ちょっとあんた! またいじめっこにやられて泣いてるの!?」

「うえっ、ひっく……シュリちゃん? そうなんだ。ボク、ただ歩いてただけなのに、犬をけしかけられたり、泥団子をぶつけられたり、泥だらけの服を脱がされて、それを川に入れてザブザブやってずぶ濡れにされたり……どうしてボクだけこんなに虐められるんだろう」


 川のほとりで幼馴染みのゼファーが泣いている。彼はいつも優しい子なんだけど、ちょっとナヨナヨしているせいで近所の悪ガキたちからいつも虐められてるのよね。ちなみにあたしの方が一つ年上だからお姉さんなの!

 でも最後のは汚れた服を洗ってくれたんじゃないかしら?


 仕方ない。ここはお姉さんのあたしが一肌脱いじゃいますか!


「ねえゼファー。いまからあたしがあんたを鍛えてあげる。そこに仰向けに寝転んで?」

「え? 仰向けに? こう?」

「そうそう、それから頭の後ろで手を組んで、足は肩幅に開くの」

「こ、こうかな?」


 ふふふ。今からゼファーには、いじめっこより怖い思いをしてもらって、いじめっこへの恐怖心を克服してもらうわ!

 あたしはゼファーの足の間に入り、そのまま少し屈んで彼の両足をそれぞれあたしの脇に抱える。

「シュリちゃん?」

「いい? 頑張るのよ?」

「え? え?」

「せええええええええい!」


 そして持ち上げながらぐるぐるぐるぐるぐるgrgrgrgrgrgrgr……


「あ、あ、うわあああああああああ!?」


 うふふ。今のはあたしの得意技、ジャイアントスイング! これでいじめっこ達を返り討ちしてきたの!

 あたしは将来、これで勇者になるのよ!


***


 なぁ~んて思ってた事もあったわよ。もう10年前だけどね。

 あたしはシュリ。元気いっぱいの16歳の女の子!

 昨日、神様から天啓を受けたの。


『勇者の従者として、勇者と行動を共にし、魔王をたおすのじゃ!』


 とか言ってたわ。

 えへへ、勇者様と一緒に旅だって。勇者様ってどんな人かなあ?

 カッコいい人だといいなあ。


 あたしは旅支度をして、天啓で示された待ち合わせ場所に向かった。お父さんもお母さんも、しっかりやるように励まして見送ってくれたし、頑張らなくちゃ!


「あれ? シュリちゃん。どうしたの? こんな所に」


 でも待ち合わせ場所にいたのは幼馴染みのゼファー。昔はよく遊んでたんだけど、最近は全然かなあ。だってアイツ、男の子のクセに、未だにナヨナヨしてるんだもの!


「あんたこそ! どうしてここにいるのよ! あたしはここで勇者様と待ち合わせなの!」

「へえ~、そうなんだ! ボクもここで一緒に旅する従者を待ってたんだ」

「え?」

「え?」


 暫くあたし達はお互い見つめ合っちゃったわよ。

 だってゼファーったら、皮の胸当てに腰に剣なんてぶら下げてるし、なんか盾まで持ってるわ。あら、青いマントも似合ってるわね。やだ、結構サマになってるじゃない?

 あ、あたしだって絶対領域がチラリと見えるかわいい短めのサーコート、そしてハイブーツで健康的なお色気! 腰には短剣、手には杖! 魔法で勇者様を補助したり癒したりしてあげるんだから。

 ほら、ゼファーだってあたしを見てちょっと赤くなってるわ!


 ていうか、まさか本当にゼファーが勇者様!?




「ねえ、シュリちゃんってどんなスキル貰ったの?」


 魔王の城を目指してテクテク歩くあたし達。黙々と歩いてばかりじゃ飽きちゃうし、何か世間話でもしようと思ったタイミングで、ゼファーが話しかけてきたわ。

 でも、スキルなんて貰ったかしら?

 あたしが首を傾げていると、ゼファーがニコニコしながら教えてくれた。


「ほら、ステータスオープンっていってごらん?」

「え? えと、ステータスオープン……?」


 え? わわ!

 目の前に半透明な表示窓みたいなものが現れたの。びっくりしたあ!

 えっと、なになに?


レベル: 1

体 力:12

精神力:46

攻撃力: 6(83)

防御力: 9

魔 法:火(初級)水(初級)風(初級)治癒(初級)


 へえ、色々あるのね~。続きは次のページにスクロールさせるのかぁ!


特殊スキル:人間兵器解錠


 え?

 人間兵器ってなにさ?


「どうだった?」


 ゼファーが相変わらずの優しい笑顔で聞いてきた。だから今のあたしのステータスや使える魔法を教えてあげたんだけど、スキルに関しては謎なんで、何も言ってない。


「へえ、数値的には魔法使いタイプなんだね! 使える魔法もバランスがいいし、後衛にぴったりじゃないかな! えっと、ボクはね――」


 続けてゼファーも自分のステータスを教えてくれた。彼はどちらかと言えば物理で攻撃するタイプみたいで、体力や攻撃力、防御力があたしの3~4倍もあったわ! さすが勇者ね!


「でも、このスキルがよく分かんないんだよね。なんだろう? 人間兵器って……」


 う~ん。人間兵器っていう響きが凄い強そうなのよね。あたしの人間兵器解錠っていうのと何か関係ありそうだけど、まあそのうち分かるでしょ!




 そんな感じでお気楽に進んでいたあたし達の前に、最初の試練が立ち塞がった。


「シュリちゃん、魔物だ! ボクの後ろに下がって!」


 へえ、ゼファーったら、少しは男らしくなったみたいね! 後ろ姿がそれなりに頼もしく見えるわ。

 敵は額に螺旋状の角を生やしたウサギみたいな魔物で、名前はトルネードホーン。角での刺突と鋭い前歯の噛みつきが要注意ね。それが三体、あたし達の前に立ち塞がっている。


「来た!」


 トルネードホーンは一度に三体、まとめて飛び掛かって来た! みんなゼファーに向かっていくのを牽制するため、あたしは杖を振るって水魔法(初級)を放った。

 人間の頭くらいの大きさの水の球体がトルネードホーンに向かって飛翔していく。すごいな魔法。初めて使ったけどちゃんと出来てる! これが神様から天啓を受けた者の力なのね!

 ゼファーの方は自分から飛び込んで一体を斬り倒すと、返す刀でもう一体も斬り伏せてた。すごいな。


「ふう~、シュリちゃんありがと。お陰で危なげなく倒せたよ」

「え、ええ、そうね。もっと感謝しなさい!」

「あははは。そうだね」


 ……なんか悔しいわね。あんなナヨナヨしてたのにちょっとカッコよく見えちゃったわよ。




 

 でもあたし達の旅はそんなに楽なものじゃなかった。視線の先にあるのは魔王軍四天王の一人、破壊王ノ・リタカーの居城。城門の前には魔物の大軍があたし達を討伐する為に隊列を整えている。


「シュリちゃん。ボクらのレベルが上がったからと言ったって、あの数の魔物を倒すのは無理だ。仮に魔物の軍団を突破しても、破壊王ノ・リタカーを倒すことは……」


 はあ、ここに来て、昔の弱気がぶり返してきたわね。


「だから、シュリちゃんはここから逃げて、王様に知らせるんだ。ノ・リタカーの軍団が侵攻してくるって」

「あんたはどうすんのよ?」

「ボクは、ここで魔物の数を減らす!」


 はあ……

 再び、はあ……


「あのね、あんたがここで死んだら誰が魔王を倒すのよ?」

「そ、それは……」

「あたしが久々に気合を入れてあげるわ」

「え?」


 この子に気合を入れるには、やっぱりコレよね。


「ゼファー、そこに仰向けで寝て。手は頭の後ろ。足は肩幅に」

「……ねえ、シュリちゃん。なんか昔聞いた事があるんだけど……」

「歯を食いしばって!」

「ひぃ」


 ふふ。いくわよ?

 ゼファーの両足を抱え込む。


 ――ピコーン


『スキル、人間兵器解錠が発動』


 何かしら、今のアナウンス。

 心無しか、あたしの身体がぼんやりと光ってる?


「ねえ、シュリちゃん……?」


 そしてゼファーの身体も同じように。

 ま、いいか!


「大丈夫、ちょっと気合を入れるだけだわよ」


 必殺! ジャイアントスイーーーーーーーーーング!

 ゼファーの両足を抱えたまま、あたしはその場で高速回転を始める。


「ちょ、ちょ」

「あはははははは!」


 なんでかな? すごくテンションが上がるの!


 ――スポーーン


「あ……!」

「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 勢い余って、ゼファーの足が抜けてしまったわ!

 ゼファーはジャイアントスイングの勢いそのまま、破壊王ノ・リタカーの居城の方にすっ飛んでいってしまった。


「きゃー、ゼファー!」


 あたしは飛んでいったゼファーを追いかけた。でも、あんな信じられない光景を目の当たりにする事になるなんて……

 ゼファーは城壁への直撃コースを飛翔していった。そしそのまま着弾。城は激しい轟音を立てて土煙を上げ、やがてその土煙はきのこ雲となってモクモクと立ち昇っていく。

 土煙が晴れると、城は全壊。集まっていた魔物の軍団も余波を喰らったのか、死屍累々。生き残った魔物は文字通り尻尾を巻いて散り散りに逃げていく。


「――はっ!? そうだ、ゼファーを探さなくちゃ」


 急いで城の残骸となってしまった瓦礫を掻き分けゼファーを探す。


「ゼファー! ゼファー!!」


 必死で声を張り上げていたら、前方で瓦礫がガラガラと崩れ、その中から人影が現れた。


「ゼファー!」

「は、はは。人間兵器ってこういう事か。酷いスキルだなあ。でも、破壊王ノ・リタカーは倒したみたいだよ」


 ゼファーは血塗れの顔でそう言うと、そのまま糸が切れたように倒れかけた。それをあたしはギリギリで受け止めた。


「待って! 治癒魔法を掛けるから」

「あ、ありがと。酷い目に遭ったけど、これは強力なスキルだね」

「そうね! 今度からはもっとダメージが乗りそうな、固くてトゲトゲがいっぱいついた鎧や兜を装備させてからブン投げるようにするわ!」

「いや、なるべくならやめてください……これは股間がきゅっとしちゃうんです」


 そんな男子特有のダメージなんて知らないわね! さ、トゲトゲの恐ろしい見た目の鎧とか、準備しなくちゃ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者は最強の人間兵器! でもアレを扱えるのはあたしだけ! つまりあたしが無双するのよ? SHO @SHO-SETUYA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ