2

「それよりも、今お金持ってなくて、だから......。


 その......。かく......。覚悟はできてます。


 私、顔が整ってる訳ではありませんが、胸の大きさだけには自信があります。


 だから...。」



 俺は、彼女になんて声をかけるべきなのか分からなかった。


 ただ何となくだが、今までの彼女が育ってきた環境が、今の彼女の自分自身の評価を低くしてしまっている。


 俺は、そう感じた。



 でも、俺は彼女に身体を雑に扱ってほしくない。



「何もしなくていいよ。」


「でも、それじゃ私が申し訳ないです。今、干してる下着でもあげましょうか?」


「今までもそうやって生きてきたのか?」



 彼女は、首を横に降る。


 しかし、彼女は恐る恐る話し始めた。



「私、親に、こういうこと教わって。


 困ったときは、こうすると良いって。


 でも、ブスじゃ駄目だよね。」


「そうじゃない。


 俺はただ、身体を大事にしてほしいんだ。


 だから、どうしても山本さんが何かをしたいなら。


 その......。いっ、しょに......。一緒にご飯を食べよう!」


「そ、そんなことで良いんですか?」


「おう!食べようぜ。」



 俺は、台所へ行きご飯を作り始めた。作りながら俺は、彼女に質問した。



「なあ、山本さんって家あるの?」



 しばらく間が空いたが、山本さんは家の事情を話してくれた。



「家は、あると言えばある、ないと言えばないって感じです。


 私が家にいると邪魔らしいから、ほぼ居場所がないんです。」



 俺は、手早く肉野菜炒めを作り、ご飯をよそって、山本さんが座っている机に運んだ。


 料理には、自信がある。しかし、料理に何故か輝きがないように見えた。


 そんな中、山本さんは



「こんなに美味しそうなの、本当に無料で良いんですか?」



 と聞く。



 絶対にまた下着だのなんだのと言われそうなので、山本さんの言葉を無視して手を合わせた。


 それを見て、山本さんも手を合わせた。



「「いただきます。」」



 二人の食事に会話はなかった。


 外の雨の音と、箸が茶碗などに当たる音。


 それだけが部屋に響く。



 しかし、誰かと共に共有する食事という時間は、冷えた夜の外とは比較的に二人の心を暖めた。



 食事を終えた彼らは、食器を洗っていた。


 その時、山本さんがわずかに聞こえるほどの小さな声で、話した。



「私、手作り料理って初めてかもしれない。」



 これから先も彼女は公園にいなくてはいけないなら......


 彼女が無理をして生きていかなくてはいけないのであれば......


 誰かが彼女を救わなくてはいかない。


 彼女の事情を理解している誰かが。



「もしさ、山本さんが良かったらでいいんたけど。俺の家にいなよ。


 いつでも、いつまでも。山本さんが落ち着くまで。」


「う、嬉しいけど絶対に迷惑だし。私、何もしてあげられないし。」



 ――ん? 待てよ。



 俺は、ここで一つの考えが結び付いた。


 自分は、出会いが欲しかっただけだ。日々、一人で寂しい毎日を誰かと一緒にいたかったたけだ。


 誰かと話して、誰かと笑って誰かと食事して。


 そんな、誰かが欲しかった。


 今日、一緒に食事をしてそれが分かった。


 家族のような何かが欲しかった。



 だから――



「俺は、山本さんがこの部屋にいてくれるだけで嬉しい。だから、別に気にしなくてもいいよ。」



 山本さんは、キョトンとした顔で俺を見つめた。しかし、しばらくすると笑い始めた。



「それって、こ、告白ですか?」


「あ、いや違くて。その......」


「でも、ありがとうございます。私、元気になれた気がします。」



 その日は、もう寝た。


雨のなかに打たれていたということもあり、風邪を引かないようにするためだ。



 山本さんをベットに寝かせ、俺は床で寝た。


 同じ部屋に同級生の女の子がいるという状況に心臓が跳び跳ねそうになりながら――





 気がつけば雨はやんでいた。


 多分、眠りについてから二時間くらいたったのだろう。


 静かで真っ暗なはずの部屋に、女の子の苦しそうな声が響いていた。


 その声で俺は起きたのだろう。


 声のする方を見ると、声の主は山本さんだった。



「お父さん。お母さん。


 ごめんなさい。


 お願い......。


 許して......。


 次は、気を付けるから。」



 俺は、複雑な気持ちになった。


 どうしたら良いのか分からない。


 見つかるはずもない答えを探し続けている。



「勉強しよう。」



 俺は、苦しそうな山本さんを見守りながら、勉強を始めた。


 せめて、自分だけは、彼女を守れる人物になろうと覚悟を決めて――





 この物語は、始まりに過ぎない。


 幸せになるのか、不幸になるのか。


 天国か地獄か。



 それを決めるのは、2人の今後の行動次第。何があっても守り抜くと誓おう。俺は、そう思った。



 俺の座った勉強机からは、外の景色が見える。


 カーテンを閉め忘れていたため、外の景色が丸見えだった。そんな、外の景色は。




 雨が広がり、暗闇が降り注ぐ。そんな景色だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨が広がり、暗闇が降り注ぐ。そんな中、俺は君と出会った。 りょあくん @Ryoakun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ