第8話 家族のおはなし2

「うん、嬉しかった…。」

父は、確認するようにもう一度言った。



「居心地が良い家に、新しい子を迎えてあげようって言われたみたいで、嬉しかったんだな、私は。」



 それを聞いていた菜乃香なのかが、みたい、じゃなくてそう言ったんだよ。 覚えてないから多分だけど。と笑う。

気付いたら、みんなも笑ってた。

言うだろうなぁ。 オレが菜乃香なのかだったとしても…多分だけど。




 いつも感じている、やわらかく温かい空気がリビングに流れた。




 ココアを口に含む。 甘さとカカオ独特のにおいが広がった。 ココアを飲み込み、父を見ると、父もこちらを見ていて目が合う。

いつも穏やかにほほ笑んで、全てを見抜いている様な不思議な空気を醸し出している父。




「…どこまで、話したかな。 …そうだ、れんが家に来るところだね。」

そんな父がまた話し始める。



菜乃香なのかの時の経験を踏まえて、れんは、里親から始めた。」

「さとおや?」

意味が分からず聞く。



「定期的に家に迎えて、一緒の時間を過ごすんだ。 最初のうちは一週間に1回、週末に来てもらった。 お互い慣れる時間を作ったんだ。 一週間に1回、週末のみだった里親を徐々に増やしていった頃、うちの子になってくれるかい?と聞いたら、首を何度も縦に振りながら、なる、と返事をしてくれた。 里親を始めて半年位経っていた時だ。 そのお陰かれんは、最初の誕生日プレゼントも即座に答えてくれたな。」



「…サッカーボール…?」

れんが確認する様に聞く。

そのれんに目を細めて、ふふっと笑いながら、

「そうだ。 今だに大事にしてくれていてうれしいよ。」

と、父が返す。

「いや、昔からあった気はしてたけど。 そっか、最初の誕生日プレゼントか。」

れんが、そりゃ大事にするわと言いながら、ははっと軽く笑った。



 その言葉で、れんの部屋である離れに、小さく汚れたサッカーボールがトロフィーの横に一緒に並んでいたのを思い出す。 もう使わないのかと聞いたら、流石に体格が違うから大きさが合わないし、蹴ったら割れてしまいそうで怖いからと返ってきた。

そりゃそうか、10年以上経っているボールだ。 それでも最初に貰ったボールだから、大事にしたいのだろう。 そのボールから始まり、今やサッカー部のエースなのだから、一入だ。 そういえば、庭の簡易サッカーゴールもれんのだったな。





「それから…陽翔はるとみなと。 双子は、知ったばかりの特別養子縁組で家にきたんだ。 この頃にはもう、陽菜ひなはもちろん、菜乃香なのかれんも、新しい子を迎えるのに抵抗は無い様だった。 」



 またもや知らない単語が出てきた。 当然の様に、オレの疑問を見抜いてるであろう父が続ける。



「家庭裁判所、と言うところで正式にうちの子になる手続きをする事を言うんだよ。 養子縁組とはまた、少し違うんだ…。 最初の資料も用意してくれた編集者さんに提案されてね。 私達の家庭の事情も十分知ってくれている人だったから、新しく迎えるなら赤ちゃんの頃から一緒にいたらどうだと、それなら子ども本人は抵抗がないのではないかと言われたんだ。 私も、なるほど、と納得したよ。 まだお腹にいる子が産まれたらすぐに迎えられるようにしたんだ。 …望まない妊娠をする母親というのは、意外といるんだよ…少し男の情けなさも感じてかなしくなる事実だけどね…。 手続きがほぼ完了して、あとは生まれてくるのを待つだけだった妊娠後期で、双子と言う事が分かったんだ。 相談員の人に、内々ではあるが、どうするかと聞かれたよ。 本来は、男の子だろうが女の子だろうが、何があろうが自分の子として迎える、と話し合いの時に言われている。 多分だが、一人しか引き取れないと言う人もいるのだろうね。 もちろん私達は双子であろうが迎えると言った。 むしろ一人だと思ったのに二人だったなんて、喜びしかない、と。」




 陽翔はるとみなとの方を見ると、みなとがヘヘへッと笑いながら、

「うん、良かった。 オレ、陽翔はるとと離れて生きるなんて考えられないもん。」

と言いながら、陽翔はるとの腰に手をまわして、頭を肩に寄せた。 陽翔はるとは、いつも通りのみなとの様子にため息を吐きながらも、そのままにさせている。

オレも…双子のどちらかがいないなんて嫌だな。





「その後の一華いちかの時は……一番大変だったかもしれないな。」



 意外な一言に、「え?」というと、陽菜ひな菜乃香なのかも続いた。

「ホント、今思い出しても大変だったな~って思う。」

「うん、子どもながらに頑張ったよね、私達。」

れんも「ちゃんとは覚えてないけど、聞く限り大変そうだった。」と、うんうん首を縦に振っている。

母さんも、「そうよねぇ、あの時はありがとう。」と言った。



 疑問符だらけの頭に、父がぽん、と手を置く。

「…陽翔はるとみなとと、一華いちかの年齢差を覚えているかい?」



 聞かれて考えてみた。

双子が、確か16歳の高校1年生で、一華いちかが15歳の中学3年生。


「…1歳差?」


そういうと父が、「そうだ。 だから、二人が来てすぐに一華いちかがお腹にいる事が分かったんだ。」

…そっか、赤ちゃんて10か月くらいお腹の中にいるんだっけ…。



「出来にくいと言われていたから、驚いたがうれしかった。 だが、2回目とは言え身体が慣れてなかったからか、病気後だからなのか、それとも体質か…生まれる前から順調とは言い難くてね…。 しかも、1歳前の子が二人いる状態だ。 陽菜ひな菜乃香なのかにはもちろん、色んな人におむつやミルク等の世話や家の事を手伝ってもらったよ。 れんも小さな手で、寝かしつける為に二人をとんとんしてくれて…あれはうれしかったし……かわいかったな…。」



 …珍しく父がデレている…? そういえば、二人の赤ちゃんの横で寝てる3、4歳の男の子の写真を見た気がする、あれれんだったのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大家族ー血がつながってない『オレ』のおはなしー びぃなす @abrahammama007

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ