第7話 家族のおはなし
全員が座ったのを確認して、オレの方を見ながら父が話し始めた。
「私と母さんが出会ったのは、大学の学祭だ。 私が友達と歩いていたら、突然後ろから服を引っ張られたんだ。 驚いて振り返ったら、同じ様に驚いた顔をした母さんがいた。」
父が、いつもの様にゆっくり話し始めた。
どうやら母は、大学に通っていた兄と、その年のテーマだった「仮装」をしていて、それが某アニメのおじいちゃんと孫だった。
母は孫の仮装をしていて、兄の方はおじいちゃんの仮装。
なぜ、その仮装だったのか?と聞いたら、
ただただ好きだったの。 お陰で、おばあちゃんとは話題が尽きないのよ?
と母が笑った。
その兄を見失い、探しているところに、兄が仮装していたキャラクターと同じ名前が聞こえたから、兄かと思い服を引っ張った、と慌てた母に説明をされ、間違えて申し訳ないと謝られた。
父はと言えば、服を引っ張ているのが自分の理想に服を着せたような子だったから逃す手はない、と一緒に兄探しを手伝った、恩を売る下心で。
ありがたい偶然で、母の兄は同じゼミの先輩だったので、ほどなくして見つかった。
その後、母を食事に誘い、何度かデートを重ね、交際を申し込んだ。
付き合いは順調で、2年程経った頃、子どもができた。
すでに新人作家として、細々とではあるが稼いでいた父は、そのままプロポーズ。
結婚をした。
その時の子どもが、
幸せな家庭、そのままな日常。
だが、
その病気で、子どもが出来ずらくなった。
「母さんは落ち込んでね…。 だが、私は家族3人でも十分だった。 というより母さんがいてくれれば良かった。 それは、今も変わらないな。」
母を見ながら父が言うと、それに応える様に母も微笑んだ。
だが、それから数年後、
当時、よく寝る前に読んでいた本。
お城で王様と沢山の妃と沢山の子ども達が出てくる話。
それを見て、家族がいっぱい欲しいっ!と、何度も何度も、何日も言い続けた。
今考えると完全に一夫多妻制度採用本で、すごく嫌。 なんで好きだったのかわからない。と苦い顔をして
そんな
複雑な表情で少し笑った父が話に戻す。
「子どもの望みはできるだけ叶えてやりたいが、こればかりは難しい問題だった。
それからの行動は早かった。
まずは母に伝えたが、母は当初、戸惑ったらしい。
「その時は、出来ずらくなった私を責めてるように感じたの。 …なにより病気になった自分を、自分で責めていたんでしょうね…。」と当時を思い出してか、少し伏し目がちに母が言う。
父は母に説明と説得。 さらに、それぞれの両親の説得に、
早速、養護施設へ行った。
人一人の人生にかかわる事だ、行政の手続きだけで大変だった。
今まで、小説しか書いてこなかったのが祟ったよ、と父が笑う。
「だが、今日か明日かと、目を輝かせている
小さな、小さな声で名前を教えてくれて、続いて「よろしくお願いします。」とペコっと頭を下げられた。
今考えると、大人にそう言えと言われていたのかもしれない。
当初、全く慣れてくれず、苦労した。
「わがままを言ったり、暴れたりしたの?」
と聞くと、父は静かに首を振った。
「そんなの心を許してくれている証拠だ。 それに、言ってくれれば理解もできる。 …逆だよ、何も言ってくれなかった。 それなのに、こちらが一度頼んだ事はその通りにするんだ。 …朝の挨拶や、ご飯の食べ方までね。」
「…え? すごい良い子じゃん。 何がダメなの?」
「良い子だから駄目なんだ。」
言い切った父に意味が分からず、首をかしげた。
「それでは家族になれない。 …はやては、今の
父の問いに、少し考えた後
「…声が大きくて、よく笑う。」
と言うと
「そうだね。 でも、当時は全く笑わなかった。」
と父は言った。
引き取る際、詳しい話は聞けなかったが、児童養護施設で過ごす子達は、大なり小なり傷ついている事が多い。
実の親に虐待されたり、死に別れたり。
「自分のしたい事ができない、思ってる事を言えない
「おびえる…?」
なぜおびえなんて感情になるのか分からず、口にした。
そんなオレに軽く微笑み、父は続ける。
「何におびえているのか、わからなくてね。 環境の変化にか、私達の誰かになのか、それとも全員にか…。 そう思って、
言葉が出ない。 何だそれ。 何でそう思ったんだ。
その疑問に答えるように、父が言う。
「これは予想だが…その様に言われた経験があったんだろうね。 君はいらない、と…。 実の親にか、それともそれに準ずる他の誰かか…。 あまり、考えたくはないな。 」
思わず、
本人は肩を竦めながら、全然覚えてないけどね。と笑ってる。
その誰かのお陰で家に来れたし、なんて言って。
「それからは、
それから1年程経った時、
「私は意外だったよ、多くの子は親の興味の対象を増やすのを嫌がる…。 だから、
話している父に、オレは聞いた。
「…うれしかったの?」
すると、少し驚いた顔をした父が「…ああ、そうなんだろうな…。」とつぶやいた。
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