三題噺「ビー玉・絶叫・名前」

四つ目

第1話

 僕はビー玉達に名前を付けている。何故なら僕のビー玉は動くんだ。

 動いて喋るビー玉達を呼ぶのに、名前が無いと不便だろう?

 なので僕が直々に名前を付けてあげたのに、最近ビー玉達が不満を口にする。


 お前の名づけはダサいだの、古いだの、つまらないだのと。

 怒りに震えた僕は思わずビー玉を投げ捨て、ビー玉の絶叫が響く。

 崖に消えて行く叫びを聞きながら、思わず僕は叫んだ。


「思い知ったか! 名付け親に逆らうからこうなるんだ!」


 絶叫すら聞こえなくなったビー玉にそう叫ぶと、残ったビー玉達が震えあがった。

 どうやら僕に逆らう気が無くなったらしい。それで良いんだ。よしよし。


 僕は大人しくなったビー玉を抱え、何時も通りビー玉で遊ぶ。

 と言ってもビー玉に出来る事なんて限られている。だってビー玉だもの。

 弾いて遊ぶぐらいしか出来る事は無くて、偶には何か別の遊びがしたい。


 そこでふとビー玉の耐久テストをしたくなり、全力でコンクリートに投げつけてみた。

 するとビー玉は絶叫を上げて砕け散り、その声に胸がすく思いだ。

 僕は段々ビー玉の絶叫を聞きたくなり、ビー玉が叫ぶ事を進んでやる様になった。


「ふふっ、今度はどんな叫びが聞こえるかなぁ」


 ビー玉の絶叫もビー玉によって違う。甲高い時も有れば野太い時もある。

 時折絶叫じゃなくて呻く時もあるけれど、それはそれで楽しかった。

 けれどある日ビー玉達が反乱を起こし、僕の事を押さえつけたんだ。


「放せ! 放せよ! なんだよ僕に逆らうなよ! 僕は叫びを聞きたいだけなのに!」


 ビー玉達は僕を縛り付けると裁判所に連れて行き、有無を言わさず有罪判決を下した。

 こんな馬鹿な。こんな事があって良い筈がない。僕は何も悪い事はしていない。

 ただビー玉の叫びを聞く為にビー玉を壊していただけじゃないか。それの何が悪いんだ。


 けれどビー玉達は叫ぶ僕を見て怒鳴り出し、僕を殺すべきだと言い始める。

 僕は何も解らなくなってしまった。何故僕はこんなに責められるのだろう。

 ビー玉を壊す事はそんなに悪い事なのだろうか。所詮ビー玉じゃないか。


「今度から気を付けるよ。ビー玉を大事にする。弾く程度で済ませるよ。それなら良いだろ?」


 けれど僕も大人だ。譲歩をしよう。今度から扱いは気を付けよう。

 そう思いビー玉達に告げると、皆叫びを声上げ始めた。

 怒号と言うのが相応しい、怒りに染まった叫びを。ああでも、これも楽しいかもしれない。


 どうやら僕は許して貰えないらしい。ビー玉を粗末に扱った程度で死刑だそうだ。

 余りに罪が重すぎると思う。そう口にする度に、ビー玉達は僕を怒鳴りつける。

 お前に反省は無いのかと。お前なんて人間じゃないと。ああ、そうか、そうなのか。


 僕もビー玉だったのかもしれない。なら大事にされないのは当然だ。

 そうか、だから僕は割られるのか。次は僕の晩か。なんだ、ただそれだけの事か。


「次は僕が割られて、叫びをあげる。楽しみにしてると良いよ」


 そう告げると、ビー玉達は相変わらず、僕に怒りの叫びをあげた。

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三題噺「ビー玉・絶叫・名前」 四つ目 @yotume

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