第5話・惑星『ユリ・ラブ』の レンとアイ②
人工子宮フラスコを前に、アイが言った。
「近年になって、惑星ユリ・ラブでは女性の出生率が低下してきて。少子化が続いていました。
そこで女教皇評議会は、異世界の少子化対策を打ち出して、あたしに少子化を止める方法を一任してきました」
アイはポケットの中から、銀色に輝く小動物の脳ミソのようなモノを取り出してレンに見せた。
「これがなんだか、わかりますか?」
「???」
「始祖母のユリとラブと行動を共にしていた、セクサロイド『リズ』の電子頭脳です……この中に、ラブが子孫の為に残して託してくれた。サッホー計画、単為生殖計画に続く第三の繁殖計画──【イヴ・ホムンクルス計画】のデータが残されていました」
「イヴ・ホムンクルス計画?」
「遺伝子情報が含まれた、女同士の体液を混ぜ合わせて。
人工羊水を満たした、子宮フラスコの中で人為的に生命を生み出す技術です……そのために、優れた肉体の剣聖騎士を評議会に頼んで、あたしの元に来てもらいました……ラブとユリの愛情を再現するために」
「それが、ユリの血脈を色濃く受け継ぐ、騎士家系のわたしと……」
「ラブの血脈を色濃く受け継ぐ、錬金術師家系の、あたし……以上で説明は終わりです、何か質問はありますか?」
「特にない、すぐにでも実験は、はじめられる」
レンは、部屋の中にある木製ベットに目を向けて言った。
「最初に何をすればいい?」
「服を脱いで裸になって、肉体を確認させてください」
鎧から衣服、下着まで脱衣して裸体になって立つ、レンの肉体をアイは確認する。
アイはレンの鎖骨辺りに浮かぶ、蝶型の紫アザを撫でながら言った。
「これは、ユリ家系の者に現れる濃厚血脈の証しですね……あたしの体にもラブ血脈の証しがあります」
アイがスカートをめくり上げると、内モモにピンク色をしたハートマークのアザがあった。
「それでは、イヴ・ホムンクルス計画の、実験をはじめましょうか」
アイは着衣したままで、裸のレンと女同士のキスをした後──ベットに移動して、互いの体を愛撫してから愛し合った。
◇◇◇◇◇◇
愛の行為が終わり、レンが鎧を着装して、身じたくを整えている間。
裸のアイは、人工羊水の入った子宮フラスコの中に、薬液を加えて注ぎ込んだ女二人分の採取した体液の変化を確認しながらレンに言った。
「成功です! 生成された胚芽がフラスコに着床しました……あたしと、レンの子供です」
「早いな、どのくらいで明確な結果が出る?」
「本来なら十ヶ月くらい、女体ならかかりますが。外部人工子宮ですから時間を短縮させて五ヶ月で誕生させます……とりあえず、一ヶ月後にこの家に来てみてください、経過報告ができると思います」
◇◇◇◇◇◇
一ヶ月後──レンがアイの家を訪れると、暗い部屋の中で椅子に座ったアイが、うなだれて落ち込んでいた。
子宮フラスコは、空になっている。
レンが訊ねる。
「いったい、どうしたんだ? わたしとアイの子供は?」
顔を上げたアイの頬には、涙が流れた跡があった。
「ごめんなさい……失敗してしまいました……胚芽は薬品で溶かして処分しました。
手違いで、おぞましい姿の生物が誕生してしまいました……せっかく協力してもらったのに、ごめんなさい」
「いったい、何が生まれたんだ?」
アイは汚らわしい言葉を、吐き捨てるように言った。
「〝男〟です……男を作ってしまいました、女同士の交わりで男が生成されてしまいました」
レンは、剣の柄に手をかけると唇を噛みしめた。
「男……女の世界を乱す呪われた存在」
「始祖母のラブがユリと愛を育むために、存在を全面否定した生物……レンとの愛の行為がムダになってしまった」
レンはアイに近づくと、抱きしめて唇を重ねる。
「んッ……んッ……レン」
「失敗したら、もう一度愛し合えばいい。何度でも愛し合えばい……成功するまで、今度はわたしの方が積極的にアイを愛してみよう」
「はい、お願いします」
裸の女が二人……向き合う形で立つ。
軽く抱擁して、女同士で柔肌を合わせるアイとレンには、羞恥の感情は無かった。
幼き頃から、女性同士で抱き合ってキスをするのは、自然の摂理と二人は学校で教えられてきた。
アイとレンは、再びベットで愛し合い。
今度は無事に、女の胚芽が完成した。
◇◇◇◇◇◇
その後アイは、女教皇評議会に。
「採取した二人分の女の体液に、遠心力をかける特殊な処理をするコトで。
胚芽から男の素を排除して、女だけを誕生させるコトに成功しました……もう、フラスコの人工子宮から男は誕生しません」
そう報告して。
異世界の少子化対策は、ラブが子孫に残したイヴ・ホムンクルス計画によって。
少子化による人口減少を免れ、女だけの世界は発展を続けた。
百合の種子……子孫たちの物語~おわり~
百合・移住宇宙船【アフロディーテ号】の未来なき反乱 楠本恵士 @67853-_-
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