百合の種子……子孫たちの物語〔加筆〕

第4話・惑星『ユリ・ラブ』の レンとアイ①

 地球から数百光年離れた。

 G星系のピンク色の恒星Lを公転する、第四惑星『ビアン』に移民船『アフロディーテ号』が、不時着してから一万一千年後の世界。


 惑星ビアンは、二人の始祖母『ユリ』と『ラブ』の女だけの子孫で、立派に文明を築いて繁栄していた。

 惑星ビアンは、始祖母のユリとラブを、尊愛する子孫たちによって。

 惑星【ユリ・ラブ】と改名された。

 ユリとラブの子孫たちは、自分たちを『ラムールの子ら』と呼び。


 アフロディーテ号に残されていた地球の記録から、惑星ユリ・ラブに独自の文明を築いた。

 それは、地球の中世ヨーロッパか、ファンタジー異世界に酷似した。

 科学と錬金術が明確に区別されていない。

 錬金術的な女だけの世界だった。


  ◇◇◇◇◇◇


 惑星ユリ・ラブの大都市【エメ】──大通りから少し横道に入った所にある、錬金術の家のドアをノックする女性騎士の姿があった……家の中からの返事はない。

 首から下に簡易な鎧を装着した女性騎士は首をかしげる。


「変だな? 留守のはずはないのだが、女教皇評議会の方から、わたしがこの時刻に、来るコトは伝えられているはずだが?」


 肩当てが付いた胸鎧を着た凄腕の女性騎士『レン』は木製の扉に片耳を密着させる。

 扉の向う側から祈っているような囁き声が、聞こえてきた。

(なんだ、中に居るじゃないか)


 レンが扉を引くと、扉は簡単に開いた。

 入った最初の部屋の中には。試験管やビーカー、乳鉢と乳棒、蒸留フラスコ、砕いた岩石の薬品や薬草が入ったガラス瓶が棚に並び。

 図面や文献や書籍の類いが、机の上に散乱していた。


 乱雑した部屋を通過すると、そこは礼拝堂のような雰囲気の部屋で。

 惑星ユリ・ラブの、すべての女性の始祖母『ユリ』と『ラブ』が抱擁した姿の石像の前でひざまずいて、祈りを捧げている錬金術師の女性がいた。


 レンが祈っている錬金術師師の女性……『アイ』に、声をかける。

「おまえが、女教皇評議会が言っていた天才錬金術師のアイか……扉をノックした音が聞こえ無かったのか?」


 ゆっくりと立ち上がったアイは、レンに背を向けたまま言った。

「祈りは終わりました……あなたが来る時刻は、評議会から知らされていましたから。

特別に出迎える必要もないと思いまして」

 振り返ったアイは、メガネの縁を軽く押さえた。


 天才錬金術師の態度と言葉に、少しだけ苦笑する剣聖と呼ばれている凄腕の女性騎士。

「噂通りの女だな……でも、おまえのような女は嫌いじゃない……女教皇評議会が決定した〝異世界の少子化対策〟で、おまえが望む方法で女同士で子供を作るために。わたしはココに来た……まず、何からはじめる? 着ているモノを全部脱いで裸になるか?」


「そんなに、慌てないでください……まずは、惑星ユリ・ラブの歴史から」

「歴史なら騎士や戦士の育成学校で習った」

「では、おさらいと言うコトで今一度」


 軽く咳払いをしてから、アイはレンに惑星ユリ・ラブのユリとラブが始祖母となってからの歴史を語りはじめた。

「〝コピー・サピエンス〔複製人類〕〟の『サッホー』が、すべて死滅してしまった原因は今だに謎です」

「その話しは、授業で何回も聞かされた」


「黙って最期まで聴いてください……サッホーが絶滅する状況も想定していた。偉大な始祖母のラブは、ユリの体内に宿ったラブとユリの一人娘『ヴィーナス』が女単体でも、子供を宿せるように……産雄単為生殖さんゆうたんいせいしょくができるようにしてありました」


「知っている……ユリの死後もしばらくは、女が女を単為生殖で産む時代が続いて、一定数の人数に到達したら。今度はメスとメスが子供を作る時代に移ったんだよな」


 アイは、惑星ユリ・ラブの文明についても語った。

「ユリ・ラブの文明構築は。移民船アフロディーテ号に残されていた地球の記録を参考に、わずか一万一千年でここまで文明を発展させました……が、今だに科学と錬金術の明確な区別はありません……さて、ここから先の話しは隣の部屋に用意した、実験器具を見ながらの方が理解しやすいでしょう」


 隣の部屋には、ひと抱えもある大きさの蒸留フラスコが、三脚で支えられて床に置いてあった。

 レンがアイに訊ねる。

「これは?」

「〝外部人工子宮フラスコ〟この特注した錬金術器具の中で、レンとあたしの子供を作ります」

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