ティーブレイク ~米粉パンを作っていて密やかに思うこと~

 それはちょうど、生米パンを作って失敗したあとのことである。


 私の心のどこかで「もう一度作ってみたい」と思いつつも、まだ行動に移せていなかったとき、色々なパンを出店するフェスティバルのようなものが開催された。地元のパン屋が、20店舗くらい参加していたと記憶している。


 ふわっふわの食パンを売りにしたお店、美しい切り口のフルーツサンドを売っているお店、地元で有名なパンのお店、などなどである。そのなかで私が気になったのは、もちろん米粉のパン屋である。


 出店していたなかで、唯一米粉を使用しているパン屋だった。

 

 商品の種類は思った以上に豊富。


 ミニ食パン、コッペパン、クロワッサン。総菜物もあれば、アップルパイなども売っていたような記憶がある。


 私はクロワッサンと米粉の食パンを購入したが、どちらも美味しかった。クロワッサンに至っては、小麦粉で作ったものと比べても優劣をつけがたいぐらいの高い完成度だ。


 もちもちっとした生地の食感が、米粉ならではなのだろうが、それがとても美味しい。また噛めば噛むほど、奥からお米の甘みがじんわりときて、小麦粉とは違う良さがあるなと思った。


 ただ、小麦のパンよりも値段が高めの設定なので、「高いなぁ……」と呟いて買うのを諦めて帰って行く人もいた。


 それは致し方ない。国産の小麦粉との勝負ならまだ分からないが、外国産の小麦粉と国産の米粉の単価を考えれば、絶対に米粉の方が単価が高いに決まっている。


 またここまで話してきたように、米粉は扱いやすい粉だが、だからと言ってパンが作りやすいかといったらそうではない。商品化されている製パン用の米粉を使うなら、調べれば情報があるので成功率も上がるだろうが、そうではないものを一から自分たちの手で米粉にして扱うとなると研究が必要になってくる。よって、米粉パンは自ずと高めの設定になってしまうのだ。


 一方で、「地元の米を米粉にして作っているパン」というのが魅力的だと思う人もいたので、ちらほらと買って行く人もいた。私もその一人である。


「田舎のスーパーには何にもない」みたいなことを本文でずっと語ってきた私だが、田舎にしかないいいものもある。その一つがお米だ。


 どこへ行っても田園が広がる風景。土がむき出しになったその場所には、遮るものが何一つない。遠くに視線をやれば、ずっと先にある山々を見渡すことができる。


 5月になれば田植えが始まり、時が経つにつれて、すくすくと稲が成長していく様は、本当に美しい。


 季節が移ろい、9月の中旬になったころ。

 一面が黄金色になった田園風景は心の奥深くに感動をもたらす。ここまでになるには人の手が必要だ。農家の人が丁寧に仕事をしているのを想像していると、何とも感慨深い。


 その景色をぼんやり見ていると、つい『風の谷のナウシカ』の「その者青き衣を纏いて金色の野に降り立つべし」のワンフレーズを思い出す。黄金の野とはこういうことなのだろうなと、偉そうにも自分なりの解釈をするのだった。


 話はそれたが、私自身は農家ではないけれど、地元で生産されている米に対して誇りに似たようなものを持っている。それはきっと、今読んで下さっている皆さんも、地元に対して同じことを感じているかもしれない。


 まぁ私の場合、何にもやっていない奴が何をぬかすか、と怒られそうなのだが(笑)


 随分と話がそれてしまった。地元の米を使って、米粉パンを作っている店の話に戻ろう。


 ちょうど人がはけたころ、私は店員さんと話をする機会を得られた。


 話を聞いてみると、地元の米100%で作るのは難しく、少しばかりグルテンパウダーを入れていると言っていた。


 しかし、それではアレルギーがある人は食べられないので、玄米100%のパンを作ったと言っていた。それはグルテンパウダーを含んだものと比べると、少しごそごそとする食感ではあるものの、好評だという。


 また、玄米100%のパンの耳だけも売っていて、それを冷凍させて削ればパン粉が出来る。お客さんの中に小麦アレルギーの方がいらっしゃって、「久方ぶりにトンカツを食べた」と言われたと、店員さんはとても嬉しそうに語ってくれた。素敵な話だなと思い、ほんわりと気持ちが温かくなった。


 私はお米が好きなので、米っていいよなぁ、と日々思うけれど、そう思わない人だっている。


 炊くのが面倒、という人もいるだろうし、炊いて余るのが嫌だ、という人もいるかもしれない。そもそも炊飯器が高いし、とかもあるだろう。もしかすると、その置き場に困る人もいるのかもしれない。じゃあ「土鍋で炊く」という方法もあるが、お米に対して熱のない人がそれを実践するのはハードルが高いように思う。


 ただ、毎年ニュースで「米が余りました」とか「沢山収穫できたので、米が安くなります」「もっと米を作る量を減らさなくてはなりません」というのを聞くと、残念だなと思う。人口が減っているせいもあるのかもしれないが、農家の人があれほど丹精込めて作っているのに、余ってしまうなんて勿体ない。


 ちっぽけな私には何もできないし、どうにもできないけれど、そういうニュースを見ると「米を食べてもらえるように、もっとアピールできないだろうか……」とついつい思ってしまう。


 なので、私が生米パンを作ったり、米粉を作ったりした失敗談をここに書くことで、色々な人がお米に興味を持ってくれたらいいなと、密やかに思うのだった。


<お知らせ>

8回目に作った米粉パンの画像を近況ノートに載せました。

https://kakuyomu.jp/users/Pleiades_Yuri/news/16816927860897575035


こちらは断面です。

https://kakuyomu.jp/users/Pleiades_Yuri/news/16816927860897594164

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