第21話

 ケンジを賞賛するビャクと目が合うケンジは、にやりと笑みを浮かべる。


「……? 私の攻撃を耐えたのがそんなに嬉しかったか?」


「それもあるけどね。……少し違うよ」


 ビャクは直感でここに居てはいけないと感じ、バックステップで少し距離をとる。少し遅れて、ビャクが元々いた場所の地面が爆発した。爆風に乗って飛んでくる小石や砂を魔力の壁をドーム状に展開して防いだが、ビャクはケンジの攻撃モーションに気がつけなかった。


「ケンジ、いつの間に地面に仕掛けをしてたんだ? 予備動作に全く気がつけなかった」


「仕掛けなんてしてないよ。僕はビャクに返しただけ。……気づいてないって言いながら避けちゃうんだもんなぁ。ちょっと残念」


「私に……返した? どういうことだ?」


「ビャクの掌底のエネルギーを、僕の体の中を通して地面に逃がした。その時に僕の魔力でコーティングする様にして逃がしたんだ。……僕の魔力が少しでも混ざっていれば“魔力支配”で操ることは簡単にできるんだよ」


 ケンジの言っている意味は分かる。が、物質を魔力で包んで動かすのと、掌底のエネルギーを操るのとでは雲泥の差がある。……この技術を無意識下で使えるようになれば、威力の低い打撃は殆ど無効化することができる。


「ケンジは簡単そうに言うが、とんでもない事を平然とやってのける。普通はそんな発想すら出てこないものだ」


「まぁ、ビャクにら避けられちゃったけどね」


 未だ両腕は完治しておらず腕の骨が剥き出しになってはいるが、時間が経つほどに目で視える程の濃密な魔力で覆われていく。ビャクはケンジが奇襲と時間稼ぎを同時に行っている事に気が付いて少し笑みを浮かべる。


「まだ腕は治らないから、戦い方を変えようかな! “纏い”と“魔力支配”はさっき見せたよね? 今からやるのが本当の奥の手。僕の切り札と呼んでいいモノだよ……普通なら使わずに降参するんだけど、今回だけはビャクに見てもらいたいんだ。……いくね?」



“魔力炉” 第一から第三までを……展開



 ケンジが短く言葉を紡ぐ。ケンジから漏れだし纏っていた魔力がスっと体内に戻り、一瞬の静寂が訪れる。そして……ケンジの背後、その少し上。正面から見ると両肩と頭上にそれぞれひとつずつ浮かんで視える3つの魔力の塊。


 その塊が捻れ、震えて、回転する。数秒後に回転がピタリと止まりそれぞれ形を変える。

 最初丸い形だった魔力の塊が、先を二股に割ったような槍の様なものに変型した。


「“魔力炉”の展開完了……いくよ、ビャク」


 正面から見て右肩にある二股槍の先から拳ほどの魔力の弾が発射される。弾の速度は通常の魔力弾と比べると早いが特に変わった点は見当たらない。

 ビャクは警戒しつつ自らの少し先に魔力の壁を張ってケンジの魔力弾を受ける。


 魔力弾と魔力壁がぶつかった。するとビャクの魔力壁は薄いガラスを叩いたように割れ砕けてしまった。


「なに?! ……くっ!」


 ビャクは手に魔力を纏わせて、尚も進んでくる魔力弾に対し1歩踏み出して距離を詰める。そして、下からすくい上げ逸らすようにして軌道を変えて直撃を避ける。


 軌道を変えられた魔力弾は、勢いを落とすことなく進み遥か遠くの山を抉るように消し飛ばした。

 ビャクはただの魔力の塊のその破壊力に、一瞬目を見開いた。ビャクは思う一体ケンジは何度私を驚かせてくれるのか、と。



 骨がむき出しの右腕をこちらに突き出して、ケンジは目を閉じた。



 ケンジの周囲に魔力弾が1個……2個と増えていき5個まで増えた時それぞれに色が付き、射出される。ケンジはそれぞれの色を緋色あけいろ青藍色せいらんいろ濡羽色ぬればいろ・鳥ノ子色とりのこいろ虫襖色むしあおいろと呼び、色と名前にこだわりすぎちゃったと少し笑った。



 それぞれの色を分かりやすく言うと、順番に赤・青・黒・白に近い黄・緑色だ。


 5色の特殊な魔力弾が縦横無尽にビャクを襲う。


「……くっ! 厄介な!」


 色によって動き方やスピードや威力等が異なり、行動パターンもバラバラで非常に対処がしにくい。威力に関しては先程の山を抉った魔力弾の比ではなく、直撃するのは不味い。


 ビャクは魔力弾全てを最小の動きで交わしつつ、先程と同様に軌道を逸らしたり受け流したりして5色の魔力弾を捌いてゆく。


 しかし捌ききれなくなってきたビャクは腰の“神刀-宗近”を抜き、僅かな隙を見つけては順番に緑・黄・赤と斬っていく……が、青と黒の魔力弾だけは斬ることが出来なかった。


 ビャクは青と黒の魔力弾への対処を後回しにし、“神刀-宗近”を構えてケンジに向かって走り出した。


 今まで以上に青と黒の魔力弾がビャクを追ってくる……筈が魔力弾の気配を感じない。ケンジの様子を見ると両膝をついて額には大粒の汗をかいていた。


 ビャクは小さな声で「ここまでか……ここまで強くなったか」と言い、ゆっくりとケンジに近づく。

 そして鞘にしまった“神刀-宗近”をケンジの首に軽く当てて宣言する。


「ここまでだなケンジ。おまえは凄いやつだ」


「はは……奥の手でも届かないか。悔しいな」


 強がって笑うケンジを褒めながら抱きしめる。


 動けないケンジをおんぶしたビャクは、離れたところからこちらを観戦していた子供に合図して戦いが終わったことを伝える。




「さぁ帰ろう。私たちの家に」


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拳鬼と恐れられたモノ〜復讐を胸に成り上がる〜 あーる @ryo_tomo

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