第20話
「ごめんね、ビャク。僕の力の事黙ってて」
「謝ることないぞ。話してくれてありがとうな、ケンジ。……あとで少し手合わせをしてみようか? オーク如きでは、実際ケンジがどれ程強いのか分からなかったしな!」
「そうだね。今の僕がどれほどビャクに通用するか試したいし本気でいかせてもらうね!」
それからケンジ達はいつも通りに食事を済ませて、森の中を移動して家から少し離れた空き地にやってきた。ビャクの子供は少し離れた小岩の上に座って二人の様子を伺っている。ビャクとケンジはお互い何も言わずに一定の距離を取って各々手合わせの準備を行う。
軽くストレッチをして身体を解すケンジ、目を閉じて静かに魔力を練るビャク。二人のことを心配そうに見守る子供。……今、手合わせという名の死合が始まる。
「……準備はいいか? ケンジ」
「うん。いつでも始めれるよ!」
「一旦確認しておこうか。お互いの命を奪うことは禁止、致命傷以外の傷や怪我は可、どちらかが参ったと言うまで手合わせは続行する。いいか?」
「そのルールで大丈夫だよ!……始めよう」
ビャクは右足で地面を軽く叩く。すると叩いた所から、まるで水面に雫が落ちたように波紋が広がり淡く輝きを放つ。……波紋の中心から、濃密な魔力を帯びた一本の刀が浮かび上がってくる。
刀はゆっくりと浮かび上がり、ビャクの顔の前まで来るとビャクがそっと刀を手にする……その瞬間からビャクのオーラが、威圧感が跳ね上がった。
ビャクのプレッシャーに汗が流れ落ちる……同時に、嬉しくもあった。ビャクは自分の事を対等に見てくれていると。
「……あまりに神々しくて見惚れちゃったよ。それがビャクの本気ってことかな?」
「ああ。この刀は“
「その刀を手にしてからビャクの威圧感がすごく増したね! ……僕も頑張らないとやばそうだ」
ケンジは構えをわざと解いて、脱力して自然体になる。ケンジの身体の奥底から濃密な魔力が溢れてくるのが分かる、ソレはケンジの全身に広がり身体の内側でグルグルと回り始める。ケンジの体内が魔力で満ち満ちていくのがわかり、溢れ出した魔力がオーラを纏うように体外を包む……そして、うっすらと鬼の形を成してゆく。
「……これが僕だけの技 “纏い” ……暗く寂しい闇の中で編み出した、僕の力だよ。……シッ!」
ケンジの目がカッと開いたと同時に、オーク戦で見せたスピードでビャクに突っ込んでいくケンジ。
ビャクはその場から動かない。
ケンジは魔力を更に拳に集中して、渾身のパンチを繰り出す。ケンジの移動スピードとパンチの拳圧によって砂埃が舞う。
「…………なっ?!」
「どうしたケンジ? パンチひとつ止められたくらいで動きを止めているようでは駄目だぞ」
ケンジの、オークを粉微塵にした一撃をビャクは指のひとつも動かすことなく、魔力の壁を張ってケンジの拳を受け止めていた。
「くそっ! そう簡単に一撃をもらってはくれないか……」
「まだケンジの師で居たいから、早々に殴られる訳にはいかないな。……今度はこちらから行こうか。……ふふっ。ケンジ、死ぬなよ?」
ビャクはそう言うと、ゆっくりとこちらに歩みを進める。一歩足を出す度に、そのプレッシャーを増しながら。
手に持っていた刀“神刀-宗近”を腰に差し、近づいてくる。そして、ゆっくりと掌底のモーションに入ったところで、ケンジはハッ!と我に返った。すぐさまビャクから距離を取ろうと足に力を込めるが、まるで自分の足じゃ無いみたいにピクリとも動かすことが出来ない。……恐らくビャクの魔力によって僕の足が固定されている。ビャクの掌底を受けるしかない状況にさせられた。
ビャクの攻撃を受けるのは危険すぎる。どうにかして威力を散らさないと不味い。腕をクロスして掌底をガードするだけでは受けきれない。……全身を脱力して、身体の中の魔力が足の裏から地面に流れるよう魔力を動かして、ビャクの掌底のエネルギーを少しでも地面に逃がしてダメージを最小限にする。
「ケンジ。私の攻撃、どう受ける?」
「…………!!!」
ケンジのクロスした腕にビャクの掌底が当たる。
当たった瞬間、ケンジの腕の肉が爆ぜた。そして、ケンジの足元の地面がベコッ!と、とてつもない音をたてて抉れた。
ケンジは腕の傷口を魔力で覆って止血と治癒をはじめる。ケンジは魔力操作によって細胞の自然治癒力を少し高めることが出来る様になった。骨が剥き出しになった腕の治癒には相当な時間が掛かるが、気休め程度にはなるだろう。
「ほう。少し強く打ち込んでみたが、受けた腕が抉れた程度で受けられたか……掌底の威力を殆ど地面に流されてしまった。私はケンジの事をまだまだ甘く見ていたようだな」
ケンジを賞賛するビャクと目が合うケンジは、にやりと笑みを浮かべる。
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