第19話
ケンジはオークのタックルをまともに食らってしまい、脳が揺れ意識が遠くなる。ほんの僅かな隙、その隙をオークに突かれた。今まで鍛錬だけで実戦をしてこなかったが故に生まれた油断。
ケンジが意識を飛ばしていた時間は僅か数秒。しかし、意識の戻ったケンジは雰囲気が変わっていてビャクには別人のように見えた。
「……オークのタックルを受けた後に、ケンジに何があった? ……全身から魔力が漏れだしている、それも可視化する程に濃密な魔力が。……ケンジは一体何を隠しているんだ?」
全身から可視化する程の魔力が陽炎の様に立ち上り始め、身体に染み付いた“構え”を取った直後、ケンジの姿がブレて、音を置き去りにして消えた。そして、少し離れたところに居たオークは血飛沫を撒き散らして肉片へと変わっていた。
オークの返り血を背中に浴びたケンジ、ケンジの魔力はまるで“鬼”の様な形に揺らめいていた。
余りに突然の出来事でビャクの反応が遅れる。オークを倒した?ケンジはその場から動かない。何が起こったのか理解が追いつかない。ビャクは恐る恐るケンジに声をかける
「ケ、ケンジ? ……大丈夫か? オークのタックルで怪我をしてないか?」
「…………………………ビャク、僕は大丈夫。……先に家に帰ってて、少し1人になりたいから」
「……わかった。先に戻ってるな」
「……ビャクは行ったかな。はぁ、そろそろビャクに隠しておくのも限界かな……帰ったらビャクとビャクの子供に話をしなくちゃ。この魔力について」
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森の奥深くにある自分達の家に帰って来たビャクは、家までどうやって戻って来たかあまり覚えてはいなかった。あのケンジの魔力は何なのか、普段のケンジからは想像できない禍々しさ。……ケンジが帰ってきたらきっと話してくれる、そう願って待つことしか出来ないでいた。
ケンジが帰ってきたのは日が落ちた頃だった。
帰ってきたケンジからはあの禍々しい雰囲気は消えていた。ほっとしている自分がいた。
「おかえりケンジ。お腹すいてないか? 良かったらスープをあたため……」
「ビャク 大事な話がある 聞いてくれる? いや 僕の話を二人に聞いて欲しいんだ」
「…………わかった、聞かせてくれ。あの魔力の事、オークを圧倒したケンジの強さの事を」
「まずは、魔力について話そうと思う。あれば紛れもない僕自身の魔力だよ。意図してない暴走なんかじゃない、僕が自分の意思で使った魔力だ。……ビャクは僕のステータスを何度か見てると思うけど、スキルの“魔力支配”についての説明をせずにビャクに隠してた。あれは“魔力操作”や“魔力感知”の上位互換なんかじゃない、全く別物のスキルなんだよ」
「私はてっきり魔力操作の上位互換だと思い込んでいて、特に聞くことをしてこなかった……一体“魔力支配”とはどんなスキルで、それは隠さなければいけないことなのか?」
「ビャク“魔力支配”のスキルはね? 文字通り“魔力”を“支配”するんだよ。使いこなせば自分だけじゃなく、周囲の魔力・大地の魔力・相手の魔力までもを“支配”出来るスキルだ。…………オークの時は、ほんの少しだけ制御が甘くなって魔力が漏れちゃったんだ、びっくりさせてごめんね?」
「スキル“魔力支配”の事は少しわかった、けど魔力が漏れた? ……あの禍々しい魔力はケンジ自身の魔力なのか? “魔力支配”でオークや周囲の魔物から奪った魔力ではなく、ケンジの中の魔力なのか?」
「そうだよ。ビャクと会ってすぐに僕が転移してからのことを色々話したけど、隠してたことがあるんだ。ビャクに会う少し前、僕は牢屋の中にいた。暗い昏い闇の中に……魔術によって徐々に五感と時間の感覚が無くなるようにされていたんだ」
「……ケンジ、お前」
「視界は真っ黒、声と鼻は魔術で封じられ、周囲の音も消された、最後には触覚も魔術で封じられたよ。……そんな中で唯一出来たのが、魔力を感知し操作する事。例え五感を奪われようともコレだけはいつでも出来たから」
「魔力の感知を続けていると、僕に掛けられた魔術も感じ取れたし、外にいる騎士たちの魔力も感じれた。魔力の操作を続けていると、自分の身体の細胞の1つ1つに魔力を流したりコントロールするとこが出来たり、周囲の魔力も自分の物のように操れた」
「そうして魔力を弄っていくうちに、魔力を圧縮する事ができるようになった。あと、周囲の魔力を取り込んで自分の中に貯めておく器?みたいなのができるようになった。ここまで聞くと、オークの時の事が説明しやすいかな?」
「……つまり、ケンジのあの魔力は圧縮し貯め込んでいた魔力で、オークに隙を突かれてダメージによって感情が、制御が甘くなって漏れだしたんだな」
「そうそう! さすがビャクは頭がいいね。……で、漏れ出た魔力はビャクに見られちゃったし、あのままじゃオークは厳しかったから直ぐに倒しちゃったんだ」
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