青は愛より出でて 青より藍し

ろーた

第1話 君に青く染められた

凪いだ海は陽光を反射して輝きを放つ。俺には少し眩しすぎる気がする。


文化財で展示するシャボン玉アートを完成させるため、学校付近の海へと来た。


画用紙にシャボン玉液と絵の具を混ぜて出来たシャボン玉を吹き付けて、弾けさせる。その模様に絵を描いたり、貝殻を貼り付けたりオリジナリティを加えていく。


他のクラスメイトよりも少しだけ良い作品を作ろうと、みんなとは離れた場所で作業を始める。


夏が背中を向けたこの時期、暑くもなく寒くもなく、陽だまりが心地いい。


堤防に座る俺の方を誰かが叩いた。


「おっきー。1人でやってるの?」


おっきーは俺のあだ名で、名前が隠岐おき 鈴季すずきなのでおっきーと呼ばれている。


話しかけてきたのはクラスメイトの一ノ瀬 瑠璃。

休み時間に話す程度だが、瞳を見て会話をしてくれて、とても印象の良い子だ。


「うん。ちょっと完成度高いやつ作ろうと思って」


「私もここでやっていい?」


「あぁ……いいけど」



2人でやってたら周りから「あの2人付き合ってるの?」とか思われそうだな……。


瑠璃は部活っ子だし、他の男子とも結構仲良いから

俺のことも友達だと思ってるはず。なら俺も友達として接しよう。


俺はシャボン玉液と青色の絵の具を大体7:3の比率になるように紙コップの中へ入れ、ストローで混ぜた。



「へー。おっきー青色好きなの?」


瑠璃はそう言って顔を覗かせた。



夏は背中を向けて手を振っているのに、夏の匂いがした。



凪いだ海。テトラポットの猫2匹。白の絵の具と雲の上。


その全てに君を透過した。


風に吹かれる髪。その下には真珠が2つ。


波の音は早まる鼓動を抑えようとする。


浅い呼吸をする。


「うん。好きなんだ。青」


「私も。*好きだよ*。青」


瞳が揃う。離れない。奥に吸い込まれるよな、深みのある目。


ヤバい、……可愛い。


俺はストローを咥えて画用紙に吹き付ける。


青色の気泡は勢い良く飛び出し、弾ける。



「おおー!すっごく綺麗!!」


「私も!」そう言うと瑠璃は青の絵の具とシャボン玉液をストローで混ぜ、そのストローを自分の画用紙に吹き付けた。


「じゃーん!上手でしょ?」


純粋なその笑顔には、所々、青色のイタズラ。


「ははは!顔に絵の具着いちゃってるじゃん!」

あまりにも純粋な瑠璃の笑顔と、俺の心のせいで自然と笑顔が零れる。


「おっきーの方が沢山付いてるけどねー」

瑠璃はそう言うとスマホをポケットから取り出し、鏡の代用として見せた。


「うわ!真っ青じゃん!」

俺は画面に映る自分の顔をみてビックリした。

照れてるのを隠すには丁度いい。


俺と瑠璃は同じ声で笑いあった。お互いに、雲の白に近い色の歯を見せあって。


「次は何色にしようか?」

と、瑠璃。


「青の下をオレンジとか黄色にして、砂浜っぽくしよう!」

俺はオレンジと黄色の絵の具を取り出す。


「おお!センスあるじゃん!」


「だろ〜?」



ああ……。これ、好きになったやつだ。



瑠璃は俺のことを友達としか思ってないのも知ってる。けど、好きだ。青色のリンゴみたいな酸っぱい気持ちだけど、誰かを好きになるって、心地いい。



風に吹かれる君の目は


何を思っているのか分からない けど僕のことであってほしい


君が好きだといった曲なら僕も好きになるよ


1980年代のロックバンドだっとしても


欲を言うなら邦ロックがいいな


凪いだ海 テトラポットの猫2匹 白の絵の具と雲の上


僕にどんな魔法を使ったの?


「誰かに恋をする魔法」以外ならなんでもいいよ


君が使った魔法も 君が好きな音楽も 君の目も


ぜんぶ青くなってほしい




「できた!!」


瑠璃はそういうと、画用紙を持ち上げた。

青、黄、オレンジのシャボン玉が弾けた跡を水色の色鉛筆で少し塗ってある。


「おっきーのはどう?」



「瑠璃ほど上手じゃないけど……」

俺はそう言うと自分の画用紙を瑠璃に見せた。


「めっちゃ綺麗じゃん!!」

青を基調とし、オレンジ、黄色、少しだけ黄緑。



俺の画用紙を手に取る瑠璃の手が触れる。


鼓動が早くなる。瑠璃は気にしてないのだろうが、こちらからしたら大事件だ。


「文化祭、楽しみだね」


「うん」


俺は赤く染まった頬を夏の終わりの匂いのせいにした。

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